第108話 良い人だけど、色々とダメな人


 俺は安い女に妥協し、ヨシノさんのちょろまかしを見なかったことに決めた。


「悪いな。君には感謝してる。今度、魔法の習得方法を教えてあげよう」

「どうも」


 微妙に憎みにくい人だな……


「金は振り込みになるが、どうすればいい?」

「これ」


 俺は用意しておいたクレジットカードをテーブルに置く。


「んー? サツキ姉さんのか……」


 ヨシノさんはクレジットカードを手に取ると、裏表を交互に見た。


「そうそう。俺名義はマズいじゃん」

「あー、そうだな。わかった。じゃあ、これに振り込もう。本部長に話して、すぐに振り込む」


 これは早そうだな。


「じゃあ、これが回復ポーションな」


 俺は椅子に掛けておいたカバンをテーブルに置く。


「カバン? アイテム袋か?」

「そうそう。100キロのやつ。めんどいからこのままあげる」

「めんどい……? それだけの理由で100キロのカバンをくれるのか? 私が4250万円も払ったアイテム袋をか?」


 あ、ちょっと目が怖い。


「アイテム袋はヨシノさんにあげるよ。横領の分を差し引いたら2個で2250万円じゃん」

「ナナポンには1000キロのアイテム袋をタダであげたって聞いたが?」


 あのガキ、自慢したな。


「それもあげるから」


 まあ、所詮は輪ゴムだし、別にいい。


「君は良いヤツだなー! 今度、穴掘りのスキルの習得方法を教えてあげよう」


 ヨシノさんの顔がまたもや、ぱーっと明るくなった。


「いや、そのスキルはいらない」

「そうか……後は何があったかな?」


 ヨシノさんが腕を組んで考え始める。


「あ、別にそこまでしてくれなくてもいいから」

「ふむ、まあ、考えておこう」


 リンさんもだけど、ヨシノさんは真面目というか、面倒見のいい人ではあるんだよな。


「金は返さないからそれで我慢しろよ。欲しけりゃポーションもやるから」

「んー? もう金を使ったのか?」

「カエデちゃんにあげた」

「え…………貢いだのか?」


 ヨシノさんがちょっと引いている。


「別にいいだろ」

「ふ、ふーん……カエデって小悪魔だったんだなー」


 ヨシノさんがそう言ったので、俺は隣のカエデちゃんを見る。


「てへっ」


 カエデちゃんが舌を出し、ウインクしてきた。


「ほら、かわいい」


 俺は頷きながらヨシノさんを見る。


「同性の私から見たらイラッとするんだが……」

「異性の俺から見たらめっちゃかわいいわ」

「そんなもんかー…………」


 ヨシノさんが目をパチクリしだす。

 

「出来ない……」


 どうやらヨシノさんはウインクが出来ないらしい。


「どっちみち、あなたはそういうタイプじゃないでしょ」

「ですね。ヨシノさんはお姉さんタイプです」


 確かに保健室にいそう!


「ふっ……」


 ヨシノさんは姿勢を正すと、腕を組み、キメ顔をする。


「やり手のOLっぽい!」

「できる秘書っぽい!」


 俺とカエデちゃんが拍手をした。


「うんうん。君達はよくわかっている。あ、そうだ。本部長が沖田君のことを聞いてきたからカエデの彼氏だったからっていうことにしたからな」


 ヨシノさんが思い出したかのように言う。


「私?」


 カエデちゃんが首を傾げながら自分を指差した。


「私のパーティーに沖田君を入れたことを聞かれたんだ。まあ、私のパーティーは本部長の部下だからな」

「手伝わないぞ」


 嫌だよ、めんどい。


「わかってる。ちゃんとそういうことには関わらせないメンバーとは言ってある。沖田君は私やリンと同い年だし、カエデの彼氏だからパーティーに加えたっていうこと」


 まあ、そういう縁で一緒に行動してるってことね。


「本部長は何て? 疑ってなかった?」

「普通に信じてたぞ。頑張れってさ」


 まあ、頑張るよ。


「じゃあ、それでいいや」

「うんうん。さて、私は帰るかな…………あ、そうだ。君、今度はいつ冒険に行くんだい?」


 ヨシノさんは少し腰を浮かせたまま、聞いてきた。


「明日はエレノアさんがナナポンと行く。その後は考えてない」

「じゃあさ、明後日、一緒に行かない?」


 明後日か……


「カエデちゃんは?」


 俺はカエデちゃんに確認する。


「私も出勤です。一緒に行きましょうよー」


 カエデちゃんが甘えた声を出しながら俺の袖を掴んだ。


「だなー。ヨシノさん、朝からね」

「…………わかった。うーむ、小悪魔…………24歳だけど」


 ヨシノさんが感心したようにカエデちゃんを見た。


「あ、殴りたい」


 カエデちゃんが真顔になる。


「こら、ヨシノ! なんてことを言うんだ! カエデちゃんはかわいいからいいの!」


 俺のためにやってくれてるんだぞ!


「すまん……サツキ姉さんのひがみが移ったようだ。この前、この家で君らと別れた後に車の中で散々、愚痴られたからな」


 思ったより静かだと思ったらヨシノさんに愚痴ってたのね。


「なんかごめーん」

「ごめんなさい」


 はんせーい。


「謝られても困るわ!」


 でしょうね。

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