第106話 家事をするために腕まくりをしているカエデちゃんはかわいい


 俺はラーメンを食べ終えると、ラーメン屋の大将と写真を撮り、クレアとハリーと別れた。

 1人になると、さっさと自宅に帰り、仕事に行っているカエデちゃんが帰ってくるまでポーションの作成や実験を行うことにした。


 時刻が6時を回り、辺りが暗くなると、カエデちゃんが仕事から帰ってきたので一緒に晩御飯を食べる。


「先輩、もうクレアさんとの契約は終わったんです?」


 カエデちゃんが俺が作ったうどんをすすりながら聞いてきた。

 髪を耳にかける仕草が女性的でかわいらしい。


「終わったぞー。いつものタクシーで取引した。あとで14億円を見せてやろう」

「おー! すごい! 14億円を現金で見ることなんてまずないですよね」


 確かにない。

 普通は現金で取引しないもん。

 クレアは大変だったんだと思う。


「だよなー」

「しかし、クレアさんは早いですね。先輩、知ってます? クレアさん、今日の午後にはレベル2の回復ポーションの販売と翻訳ポーションのオークション開催を発表しましたよ」


 早っ!

 今日の午後って、俺らが会ってた時じゃん。

 ラーメン食べてる時にでもやったんかね?


「前もって準備はしてたんだろうな。すでにいくつかの企業や富豪に声をかけてるって言ってたし」

「さっさと売る気なんでしょうね。池袋ギルドでも話題が持ちきりでした」

「サツキさんに電話が鳴り響いてそうだなー」


 ごめんね。


「サツキさんは午後休を取って逃げました」


 俺の謝罪を返せ。


「それでカエデちゃん達が対応かー……かわいそうに」

「私達は電話に出ないので……」


 池袋ギルドって適当だなー。

 それでいいんか?


「あとで怒られるんじゃね?」

「いや、私達は関係ないですもん。他国のAランク冒険者がスライムからドロップしただけでしょ? そんなことは知りませんよ」


 まあね。

 じゃあ、俺も知らない。

 とはいえ、さっさと本部長というか、ヨシノさんと取引した方がいいな


「あとでヨシノさんに電話してみるわ」

「それが良いと思います。あ、そういえば、今日、フワフワ草を持って帰りましたよ。30束くらいあります」


 フワフワ草は採取しに行くのが面倒なので採取依頼を出しているのだ。


「結構あるね」

「まあ、片手間で採取できますしね」


 でも、これで強化ポーション(防)が作れるな。

 前に作ったやつはナナポンに全部あげたし、数が少ないのだ。


「あとで作ろうっと……あー、キラキラ草とサラサラ草も探さないとな」

「ミレイユ街道にありませんかね? 草はそこら辺に生えてるでしょ」


 ミレイユ街道は道があるが、それ以外は川と草原だから草はいっぱい生えている。


「この前は探すようなタイミングはなかったし、さっさと帰ったからなー」


 ヨシノさんやリンさんと行った時はミレイユ街道に行くこと自体が初めてだったし、2人の目があったから探せなかった。

 2回目のナナポンと行った時はナナポンが初めてだったし、レベルが上がり、レベル3の回復ポーションを作れるようになったため、キラキラ草やサラサラ草を探す雰囲気でもなかった。


「探しに行きます?」

「ナナポンが明日、フロンティアに行こうって言ってたし、行くかなー……」


 夕方くらいに連絡が来たのだ。

 ナナポンもレベル上げがしたいらしい。

 カエデちゃんの出勤の有無がわからなかったので保留にしてある。


「良いと思いますよ。私も他の強化ポーションが気になりますし」


 まあ、それは俺もそう。

 力が上がるのか、速くなるのかはわからないが、ちょっと気になる。


「カエデちゃんは? 明日も仕事?」

「ですねー」


 じゃあ、行くか。


 俺はエレノアさんのスマホを操作し、ナナポンにメッセージを送る。


『カエデちゃんも明日出勤らしいからオッケー』

『やったー! じゃあ、午後から行きましょう!』


 ナナポンは相変わらず、返信が早いわ。


「明日、午後からエレノアさんとナナポンが行くわー」

「了解でーす。それとごちそうさまでした。先輩、料理が上手ですねー」


 カエデちゃんはうどんを食べ終えたらしい。


「まあね。俺も麺を茹でるのは得意なんだよ」

「おー、すごい! 私達、似てますねー」


 そりゃね。

 麺を茹でるのはほとんどの人間ができるだろうよ。


「パスタも得意だもんね」


 あと、カエデちゃんは出前を呼ぶのも得意だ。


「そばもでーす! 先輩、洗い物は私がしますんでヨシノさんに電話してくださいよ」

「じゃあ、おねがいね」

「任せておいてください!」


 カエデちゃんは良い嫁だわ。

 だって、明るくてかわいいんだもん。


 俺はカエデちゃんに洗い物を任せると、ソファーに向かい、沖田君のスマホを取り、座った。

 そして、スマホを操作し、ヨシノさんに電話をかけると、数コールで呼び出し音が止む。


『もしもし?』


 もちろん、この声はヨシノさんだ。


「こんばんはー。今、電話、大丈夫?」

『ああ、沖田君の方か……大丈夫だよ。今、家だから』


 俺かエレノアさんかで悩んだんだな。


「この番号は俺だわー」

『そういう認識でいいんだね?』

「基本、別人と思っておいて。絶対にエレノアさんとしゃべっている時に俺を感じないで」


 こいつ、こんな女言葉をしゃべってるけど、沖田君なんだよなーとは絶対に思ってはダメだ。


『うーん……頑張る』

「おねがい。あ、それでさー、電話の要件なんだけど、今日、クレアと契約してきたわ」

『知ってる。クレアが発表したからね。おかげで本部長が電話対応で大変だった』


 本部長は真面目だなー。


「サツキさんは逃げたらしいよ」

『それも知ってる。本部長が怒ってたよ。『あの女狐めー!』だってさ』


 しゃーない。


「早く契約した方が良さそうだね?」

『そうだな。実際、急かされている』


 やっぱりかー。

 クレアが早々に発表しちゃったから横からかすめ取られたみたいになってるしね。

 まあ、実際、そうなんだけど……


「いつがいい? こっちの準備はできてるけど」

『こっちもできてる…………なあ、今、家か?』

「家。ご飯を食べ終えたところだわ…………え? 来る気?」

『契約はさっさと済ませたいし、このタイミングで私とエレノアが会っているところを人に見られたくない』


 まあ、一応、ヨシノさんが本部長の部下なことは隠しているしね。


「ちょっと待ってね…………」


 俺はスマホの保留ボタンを押した。


「カエデちゃーん、ヨシノさんが今から契約のために来たいってー」


 俺はキッチンにいるカエデちゃんに声をかける。


「私はいいですよー」


 いいらしい。

 俺が逆の立場ならこの家に男をあげるのは嫌だけどなー。

 これが人間性の違いなのかね?

 まあ、ヨシノさんはこの前も来たけど……


「大丈夫だってさ」


 俺は保留を解除すると、ヨシノさんにオッケーを出した。


『ああ、カエデに確認してたのか……』

「そうそう。カエデちゃんが嫉妬するかもだし」

『うーん……まあ、そうかもね』


 しないと思ってんな。


「普通、しない?」

『君がするのはわかるよ。ものすごく嫉妬しそう』

「別にいいじゃん」

『いいと思うよ。そういうのが好きな子もいるからね……私は嫌だけど』


 お前なんかどうでもいいわい。

 ちょっと顔が良くて胸がでかいからって調子に乗ってんだな。

 俺は決して、屈しないからな!


「ちょっと控えるわー。嫌われるかもだし」

『まあ、限度があるからねー…………今は7時か……8時くらいに着くと思うけど大丈夫かい?』

「大丈夫」

『じゃあ、準備をしたら行くよ。できたら沖田君で頼むよ。エレノアはちょっと怖い』


 まあ、エレノアさんになる意味はないからこのままでいくけど、ナナポンとは逆なことを言ってんな。


「怖くないだろ」

『いや、何を考えているかわからないし、不気味だから怖い。その点、君はわかりやすい』


 同じ人なんですけど……


「よくわかんないけど、わかったわー。このままの姿で待ってる」

『ああ、じゃあ、ちょっと待っててくれ』


 ヨシノさんはそう言って、電話を切った。


「カエデちゃーん」


 俺は洗い物を終え、自慢のお尻を突き出しながらテーブルを布巾で拭いているカエデちゃんに声をかける。


「なんですかー?」


 カエデちゃんがこっちを見ずに返事をした。


「エレノアさんって怖い?」

「怖い時もありますねー。でも、アホだな、こいつって思う時もあります」


 ひどす。


「アホって、いつー?」

「金に目がくらんで浮かれに浮かれていた初期ノアさんです」


 初期ノアってなんだよ……


「ふーん……じゃあ、俺ってわかりやすい?」

「先輩は今、私のお尻を見ているでしょう!」


 カエデちゃんはこっちを見ていないのにもかかわらず、俺がカエデちゃんのお尻を見ていることを当てた。


「すげー!」

「すげーのはあなたの頭です……」

「カエデちゃん、お尻の形がきれいだね」

「でしょー!」


 カエデちゃんが満面の笑みで振り向いてきた。


 お前の頭もすげーよ。

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