第077話 よく見る子だなぁ…… ★


 ヨシノさんは1億円を越える剣を使っているらしい。

 さすがはAランクとも言えなくないが、費用対効果的にバカじゃねとも思う。


「億を超える剣をよく使う気になるなー……折れたらどうするん?」

「1億より自分の命だ。だから皆、高い回復ポーションを買うんだよ」


 なるほどー。

 でも、さすがに1億は手が出ないわ。

 火が出たりする魔法剣だったら別だけど。


「リンさんもこんな感じ?」

「まあ、そうだね。同門というか幼なじみなんだよ」


 ということはサツキさんも知っているわけか。


「上位ランカーって思ったより、強いな……」


 もうちょっと弱いかと思っていた。


「君、ものすごく人をバカにするよね? なんでそんなにイキるの?」

「俺は自分の剣に絶対の自信を持っている。そして、逆を言うと、これしか誇れるものがない。所詮は26歳で会社をクビになった男だもん」


 しかも、大学は出ているが、一流大学ではないし、資格もない。

 底辺ではないと信じていたが、中流以上とも言えなかった。


「それでマウントを取ろうとしてるわけか…………なんかごめんね」


 謝られちゃった……


「カエデちゃんにも言われたし、謙虚に生きようかな……」

「君、やっぱりダメ男だね。カエデにめっちゃ甘やかされてない?」


 言われてみれば、ものすごく優しい。

 一緒に住み始めても至れり尽くせりだし……


「やっぱり病んだことが影響しているのかも……マズいな」


 もし、このまま頑張って上位ランカーになったとしても、イキリジャージマンと呼ばれるかもしれない。


「大丈夫?」


 ヨシノさんが心配そうに覗き込んできた。


「よし! ヨシノさん、次に行きましょう! 僕、頑張ります!」

「それ、謙虚のつもり? まあ、いいけどさ」


 俺はイキリ禁止令を出し、謙虚に生きることにした。


 その後、文句も言わず、スケルトンを倒し続け、本日の成果が朝昼合わせて30本のスケルトンの剣になったところで良い時間となったため、お開きとなった。

 そして、俺達がゲートまで戻ると、大勢の冒険者が集まる中にリンさんがゲート前で待っているのが見えたため、近づいていく。


「リン、あの子達は?」


 リンさんの所まで行くと、ヨシノさんがリンさんに聞く。


「先に帰らせた。ありがとうございました、だってさ」

「そっか。まあ、同じギルドなんだし、また会うでしょう。あ、沖田君、今日はありがとうね。また連絡して」


 リンさんと話していたヨシノさんが俺の方を見る。


「いえ、こちらこそありがとうございました。おかげで、大事なことに気付かせていただきました」

「それ、やめなよ。ものすごく逆効果だよ」


 煽ってるように聞こえるのかな?


「そう? 難しいなー」

「普通にやりなって」

「カエデちゃんに相談してみる。じゃあ、俺はこれで帰るわ。お疲れさまでした」

「はい、お疲れさま」

「お疲れー」


 俺はヨシノさんとリンさんに見送られながらゲートをくぐり、ギルドに帰還した。




 ◆◇◆




「どうだった?」


 沖田君がゲートをくぐると、リンが聞いてくる。


「うーん、実力はある。剣術のレベルが6だってさ」

「6!? 何それ!?」


 リンが驚く。

 だが、それは当然だ。

 6なんて聞いたこともない。


「私も同じ感想。やたら人をバカにしてくると思ったら言うだけの実力を持ってた」

「確かに私が近づいた時もそんな感じだったね。余裕たっぷりだったもん。こちとらBランクなのにさ」

「それ、多分、沖田君は知らないね。だって、君のことをずっとリンさんって言ってたし。多分、苗字すら知らない」


 間違いないだろう。

 沖田君はリンのことを知らない。

 知ってたらリンの実力を聞いてこない。


「ふーん、まあ、遅くのルーキーだし、こっちの業界に興味がなかったんだろうな」

「私のことは最初から知ってたけどね」

「そらな」


 リンが私の胸部をじーっと見る。


「今日はやけに見られる日だわ」

「今後も沖田君といればそうなる。で? どうだった? 勧誘はしたか?」


 リンが本題に入ってきた。


「したけど、微妙ね。保留にされた」

「保留? 贅沢な子だな……意図は?」

「わからない。1人が気楽って言ってたけど、やけに絡んできたし、そうは見えなかった」


 よくしゃべる子だった。

 スケルトンを相手にしながらもしゃべっていた。

 普通の新人なら注意するところだ


「ふーん、魔女との繋がりは?」

「それも微妙だけど、1つ掴んだ」

「ん? なんだ?」

「彼ね、カエデに借金をして10キロのアイテム袋を買ったらしい」

「沖田君、大丈夫か? あとカエデも」


 リンが呆れているのがわかる。


「でもね、沖田君、20は超えるスケルトンを倒し、20本以上のスケルトンの剣をアイテム袋に収納した。どう考えても、あのカバンは10キロ以上」


 1本が1キロとしても20キロだ。

 絶対に10キロのアイテム袋ではない。


「それは……カエデが出したのか?」

「わからない。でも、少なくとも、沖田君とカエデは黄金の魔女と繋がりがある」

「本部長に報告は?」

「まだしない。下手に動いて刺激をしたくないし、魔女が絡んでいるなら慎重に動く」

「わかった。ひとまずは様子見だな」


 まずはエレノア・オーシャンとの接触と沖田君の信用を買うところからだな……

 あと、沖田君にはサツキ姉さんとの懸け橋になってもらおう。


 サツキ姉さん、許してくれるかなー……

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