第076話 何故だ!? 目線が動かない!?


 俺は午後から全国の男子から人気の三枝さんと一緒に冒険することになった。


「では、行きましょうか」

「あのさ、その前に敬語やめない? 同い年でしょ」


 それもそうだな。


「確かにそうだわ。社会人の癖かね?」

「いや、まあ、それが普通なんだけどね。あとさ、私も下の名前で呼んでよ。なんで私だけ三枝さんなの? カエデはともかく、サツキ姉さんもリンも下の名前で呼ぶのに」


 リンさんは苗字を聞いてねーんだよ。

 いや、もしかして、あの人って有名人なのだろうか?

 知ってて当たり前な人?

 帰ったら調べてみるか……


「よし! ついてこい、ヨシノ!」

「あれー? 距離感が一気に縮んだけど、下に見られてる気がする」


 うるせー。

 剣術レベル4は黙っとけ。


「いいから行くぞ。俺は4時には帰るから」


 予定は5時だったけど、サツキさんに相談しないといけない。


「まあいいや。じゃあ、行こうか……あ、ちなみに、フワフワ草は見つかったかい?」

「あった、あった。めっちゃふわふわしてたわ」


 あれは癖になる。


「私もあの後に見つけたんだけど、すごかったね」

「結局、探したん?」

「新人の子達が食いついたんだよ」


 なるほど。

 確かに気にはなるだろう。


「ふむふむ、カエデちゃんに持って帰ってあげようかな?」

「草をかい? 花にしなよ」


 花はちょっと恥ずかしいな……

 家でなら渡せるけど、ギルドの受付はちょっと……


「まあいいや。行こう」

「ん」


 俺とヨシノさんはスケルトンを探しに歩き出した。


 少し歩くと、前方に1体のスケルトンが見える。


「ヨシノさん、やる?」

「いや、君に譲るよ。100体だろ?」

「じゃあ、もらうわ」


 俺は鞘から刀を抜くと、歩き出した。

 俺とスケルトンの距離が10メートル程度になると、スケルトンも俺に気付き、カタカタと音を鳴らしながらゆっくりと走ってくる。


 俺は立ち止まると、剣を構え、スケルトンが間合いに入ってくるまで待った。

 そして、スケルトンが俺の間合いに入ったので、踏み込み、スケルトンを肩から斬り下ろす。

 スケルトンは2つに別れ、すぐに煙となって消えていった。


「見事だねー」


 俺がドロップ品であるスケルトンの剣を拾っていると、ヨシノさんが声をかけてくる。


「ヨシノさんもこれくらいできるでしょ」


 別にAランクとかレベルとかは関係ない。

 剣術をやっていたらこれくらいできる。

 ましてや、スケルトンは動きが鈍い。


「まあね。それにしても、やっぱりそれはアイテム袋だったんだね」


 ヨシノさんが俺のカバンを指差す。

 まあ、スケルトンの剣を収納すればわかることだ。


「だなー」

「それ、どうしたの? スライムからドロップした?」


 面白いギャグだわー。

 言い出したのはエレノアさんだけど。


「エレノアさんから買った10キロのやつ」


 そういうことにしておこう。


「へー……カエデ経由?」

「ですねー。100万円です」


 そんなもんでいいだろ。

 実際、10キロを売るならその額で売るし。


「君、結構、持ってるね」

「カエデちゃんに借りた」

「…………君、もしかして、ダメ男?」


 嘘ついたらヒモ扱いだよ。


「すぐに返すよ。スケルトンを100体倒したら50万!」

「まあね。でも、貯金はしなよ」

「わかってるよ」


 すでに20億円くらいあるよ。

 ……いや、我ながらホント、すげーな。


 俺はその後もスケルトンを狩り続け、10体のスケルトンを倒した。

 ここで問題が一つ生じた。

 ヨシノさんの手前、疲労回復用のポーションが飲めないのだ。


「ヨシノさんはやらないの?」


 俺は11体目のスケルトンを倒すと、後ろを振り向き、ヨシノさんに聞く。


「ん? 疲れたかい? 変わろうか?」


 なんかムカつくな……


「いや、レベル4の実力が見たい」

「レベル4? ………………え? なんで私の剣術レベルがわかるんだ?」


 お!

 当たった!


「サツキさんが5でしょ? それ以下なら4じゃん」

「ふーん、サツキ姉さんがよく教えてくれたね? 普通は引退しても言わないんだけど」

「ふっ」


 俺は鼻で笑った。


「…………君、剣術のレベルはいくつだい?」

「6」

「は? 君、なんで今まで社会人してたの?」

「ほっとけ」


 俺だって、もっと早くやっておけばよかったと思ってるわ。


「6って…………やりづらくなったなー……じゃあ、まあ、次は私がやるよ」


 ヨシノさんがそう言って前に出たので、俺はその隙にカバンから回復ポーションを取り出し、一気飲みした。

 そして、すぐに空になったペットフラスコをカバンに入れる。


 今度からは普通のペットボトルに入れたものも用意した方がいいな……

 フラスコは目立つから人前で飲めんわ。


 俺達がそのまま歩いていくと、すぐにスケルトンが見えてきた。


「ヨシノ、行け!」


 レベル4の実力を見せてみろ!


「君が私の事を呼び捨てにする理由がよくわかったよ……」


 ヨシノさんは呆れながらも剣を抜き、構える。

 この人の剣は俺の刀とは違い、両刃のショートソードだ。


 ヨシノさんは接近してきたスケルトンに向かって、踏み込むと、スケルトンの剣を持っている腕を斬り落とした。

 そして、そのまま剣を横に払うと、スケルトンが崩れ落ち、煙となって消える。


 ヨシノさんの動きはすべてが流れるような動きであり、きれいだった。


「すごいなー。本当にレベル4? 嘘ついてない?」


 俺はドロップ品であるスケルトンの剣を拾うヨシノさんの後姿に声をかける。


「本当だよ……まあ、君とはレベルが違うし、剣の性能も違う。私の剣は億を超える」


 億!?

 バカじゃね!?

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