第072話 やっぱり似た者従姉妹
俺はクーナー遺跡に到着すると、周囲を見渡す。
クーナー遺跡はダイアナ鉱山のように暗くなく、明るい。
それに人も多い。
とはいえ、以前のように人が溢れかえっているような感じでもなく、ポツリポツリといる程度だ。
朝早くということもあるのだろうが、おそらく、自衛隊の注意喚起により、他の冒険者が自重したのだと思われる。
その証拠にここにいるほとんどの冒険者が俺と同じように初心者臭い格好をしていた。
ただ、一部だけ、明らかに初心者ではない者もいる。
その人は軽装ではあるものの初心者ではない。
何故なら、Aランクだから。
俺がAランクの中で一番推している三枝さんである。
まあ、多分、ほとんどの男が推していると思う。
三枝さんは仲間と思わしき、3人の女子と会話をしており、俺には気付いていない。
俺はアイテム袋のことを話そうと思い、三枝さんのもとに向かった。
俺が三枝さんのもとに向かっていると、横から気配がした。
それも若干、殺気を帯びている。
俺は刀を持っている逆の手を少し開き、いつでも刀を抜けるようにしながら横を見る。
そこには黒髪ポニテの女性が俺を睨みながらやってきていた。
誰?
俺は足を止め、その女の人を思い出そうとするが、思い出せない。
というか、知り合いではないだろう。
そもそも、俺はそんなに女子と縁のある人生ではなかった。
その女の人が俺の前で足を止めた。
「私達に何の用だ?」
女の人が睨みながら尋ねてくる。
おそらく、三枝さんの仲間だろう。
「三枝さんに話がありまして」
「そういうのはダメだ。通達があった直後に声をかけてくるとは良い度胸だな。それともバカか?」
あ、完全にナンパと思われている。
まあ、そうか……
刀を持った男が三枝さんに近づく…………よく考えたらこの状況って昨日の冒険者共と変わんねーわ。
失敗だったな。
「あー、そういうのじゃないですけどね。あの人とは知り合いなんです」
1回会っただけだけど、連絡先を交換するくらいだから知り合いで良いだろう。
「そういうのは耳にタコができるほど聞いた」
ホント、民度が悪い冒険者が多いなー。
まあ、この人達からしたら俺も同類かね?
ダメだこりゃ。
あとで電話しよう。
「わかりました。でしたら伝言をお願いします。以前、話したアイテム袋のこと――」
「あ、沖田君!」
俺が伝言を頼もうと思ったら三枝さんが俺に気付いた。
三枝さんは小走りで俺と黒髪ポニテ女のもとにやってくる。
なお、ちょっと揺れている。
「おはようございます」
俺は立派な大人なのでちゃんと挨拶をする。
「ああ、おはよう。すまん、リン。知り合いだ」
三枝さんがそう言って、黒髪ポニテ女の肩を叩く。
「そうか……すみませんでした」
リンと呼ばれた女が素直に謝ってきた。
「いえ、どう考えても俺が悪いのでいいです」
あなたと同じ立場だったエレノアさんは昨日、迷わず、剣を抜きました!
「それで沖田君、何か用かい?」
三枝さんが聞いてくる。
「あ、そうでした。あの、以前、エレノアさんのことを話してたじゃないですか?」
「ああ、そうだったね。見かけたのかい?」
鏡を見れば、見かけるね。
「いえ、そうではないんですけど、アイテム袋を売る件です。100キロのやつなら個人的に売ってもいいそうです」
「100キロを?」
「ええ」
「それはエレノア・オーシャンから直接聞いたのか?」
うーん、直接聞いたはやめておくか。
俺とエレノアさんが鉢合わせすることってないわけだし。
「いえ、実は俺の大学の後輩が池袋のギルドで受付嬢をやってましてね。その子が主にエレノアさんを担当しているので伝言をお願いしたわけです」
「へー……誰だろ?」
三枝さんは思い出そうとしているのか、顎に手を持っていき、悩む。
「カエデちゃん……朝倉さんですね」
「あー、あの子か。サツキ姉さんのパーティーメンバーだった子だね。知ってる、知ってる」
まあ、この人は元々、池袋ギルドに所属していたわけだし、カエデちゃんも知ってるか。
「その子です。カエデちゃんに伝言を頼んだらそう返ってきたわけです。あのー、連絡先を教えてもいいですかね? 勝手に教えるのはどうかと思ったんで」
「ああ、そういうことか……教えてくれて構わない。ちなみに、100キロっていくらくらいかな?」
「さあ? オークションで5000万円くらいでしたよね? そのくらいでは?」
ちなみに、手数料を考えて4500万円で売ろうかと思っている。
「うーん、交渉だな。4000万か、4500万くらいかなぁ……」
よし、4500万円にしよう!
「Aランクはすごいですね」
「まあ、このくらいはなー……」
スケルトンをいくら狩っても、そのレベルには行かないだろうなー……
さっさとDランクになって、次のステップに行こう。
「ところで、三枝さんは何故、クーナー遺跡に? エレノアさん探しです?」
「いや、今日は新人の指導。ほら」
三枝さんがそう言って見た先には先ほど、三枝さんと話をしていた女子3人がいる。
確かに若そうだし、装備的に見ても新人だろう。
「そんなこともするんですね」
「まあね。さすがに同じギルドに所属している同性だし、気になるさ」
女子だもんなー。
「なるほどー」
「君も一緒に受けるかい?」
意外なお誘いが来た。
また、逆ナンだよ!
この人、俺に気があるんじゃない?
まあ、ないね……
「いえ、いいです。邪魔になるでしょうし、俺は1人でやりますよ」
「そうかい? あー……1つ聞いてもいいか?」
「何でしょう?」
「君、カエデと付き合ってる?」
調べたか?
「そんなようなものです。一緒に住んでますし」
「ん? ん? そんなようなもの?」
三枝さんはよくわかってないようで頭にはてなマークが浮かんでそうな表情をする。
「ですね。そんなようなものです」
「うーん……まあ、よそ様にどうこう言うのは野暮か……」
「それをあなたの従姉に言ってくださいよ。カエデちゃんと飲みに行ったらついてきましたよ」
しかも、ビール飲んですぐに帰った。
「あの人はそういう人だ。人間が小さいんだな、うん…………あと、金に汚い」
従姉のサツキさんと同じことを言ってるし……
俺は似てるなーと思いながらも、その場で三枝さんと別れ、1人寂しく冒険をすることにした。
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