第070話 早起きは三文の徳どころではない


「せんぱーい、朝ですよー。目覚ましをガン無視してないで起きてくださーい」


 俺はかわいい声と身体を揺すられることで目が覚める。

 目の前にはパジャマを着たカエデちゃんが困った顔で俺を見ていた。


「あれー? カエデちゃんがいる?」

「そら、いますよ。一緒にギルドに行くんでしょ。起きてくださいよ」


 俺はそう言われたので枕元にあるスマホを取り、時間を確認する。

 時刻は7時をちょっと過ぎたあたりだった。


「7時かー……眠いなー。布団が気持ちいいなー」

「気持ちはものすごくわかります」


 カエデちゃんがうんうんと頷く。


「一緒に寝る? 暖かいよ?」

「布団の魔力を払ってください。魔女でしょ」


 エレノアさんは魔法を使えないから……

 でも、まあ、起きるか。


 昔はこの時間に起きた時、死にたい気持ちになっていた。

 でも、今はそこまで辛くない。

 何より、カエデちゃんがわざわざ起こしてくれたことが嬉しい。

 だって、カエデちゃんも一緒に行きたいということなのだから。


「あー、起きるわ」


 俺は身体を起こし、布団をどかせた。


「おはようございます」


 俺が起き上がり、ベッドに腰かけた状態になると、カエデちゃんが両肘をベッドにつき、両手を頬に当てながら見上げてくる。


「おはよー。カエデちゃんは今日もかわいいね」


 俺は挨拶を返しながらカエデちゃんの頭を撫でた。


「デイリーミッション達成でーす。早いですね?」

「まあね」


 いつものおしゃれなカエデちゃんもかわいいけど、今のカエデちゃんもかわいい。

 その跳ねた毛先とか。


「じゃあ、私もデイリーミッションを達成しなくては!」

「そのパジャマ姿で達成したよ」


 かわいい。


「ダメです。これではおしゃれマスターカエデのプライドが許しません」

「カエデちゃん、おしゃれだと思うけど、そんなに派手じゃなくない?」


 大学の時はもうちょっと肌を見せてたし、明るい服が多かった気がする。


「おしゃれマスターも24歳なんですよ。年相応というものがあります……」


 大人になったということか。


「俺は今のカエデちゃんのファッションの方が好きだなー」

「そら、そうですよ。先輩が好きそうな服を選んでますし」


 ね?

 めっちゃ良い子。


「俺、白系の服が好き」

「知ってます。あと、長いスカートですね。意外にもそっちの方が反応が良かったです」


 まあ、そうなんだけどさ。

 短いスカートは目の保養になるけど、好きなのは長いスカート。


「あ、あの微妙にふわっとした髪型が良い」


 再開して最初に飲みにいた時のやつ。

 

「はいはい。今日はそれでいきましょう。さあ、準備をしますよ。ご飯を用意するので先輩は顔を洗ってください」

「そうするわー」


 俺はベッドから立ち上がると、脱衣所に行き、洗面台で顔を洗う。


「冷た」


 でも、この冷たさで眠気が取れた気がした。


 俺は顔をタオルで拭くと、リビングに向かう。

 すると、キッチン前のテーブルにはすでにご飯が用意されていた。

 メニューは白いご飯と鮭と味噌汁だ。


「今日は和風だね」


 俺は席につくと、牛乳を持ってきたカエデちゃんに聞く。

 カエデちゃんは毎日、牛乳を飲んでいるのだ。


「昨日がピザでしたからね。ささ、丹精込めて作った朝ご飯です」

「さすがカエデちゃーん。いただきまーす」


 俺達は冷凍食品とインスタントの朝ご飯を食べ始める。


「今日はクーナー遺跡でフワフワ草の採取でいいんですね?」


 カエデちゃんがご飯を食べながら確認してきた。


「そうだな。鑑定メガネを使ってフワフワ草を探しつつ、スケルトンでレベル上げかな? 100体ほど倒さないとだし」

「あー、そうですね。100体でDランクです」


 前にカエデちゃんと約束したDランクへのランクアップ条件がスケルトンを100体ほど倒すことなのだ。


「今日はそれだね。まあ、丸一日だし、適当にやるよ」


 1日も戦ってられない。

 俺は冒険者になった時にブラック反対の旗を掲げたのだ。

 まあ、回復ポーションがあるから疲れないんだけどね。


「わかりました。今日も5時に終わるんでそのくらいに戻ってきてください」


 5時ね。

 そこから着替えとかをすれば、ちょうどいい時間だろう。


「わかった」


 俺は今日の予定を決めると、ご飯を食べ終え、カエデちゃんが淹れてくれたナナポンからもらったコーヒーをカエデちゃんと飲む。


「朝はコーヒーですねー。でも、これ結構、高いやつですね。ナナカちゃん、やっぱり散財してるな」


 そもそも学生が気を使わなくてもいいのにね。


「あいつ、変なところで律儀だからなー」

「真面目な子なんですよ」


 それには同意できない。

 真面目な子はカンニングしない。


 俺とカエデちゃんがコーヒーを飲み終えると、カエデちゃんが立ち上がり、皿やコップをまとめ始めた。


「カエデちゃんは準備に時間がかかるだろうし、俺が洗っとくよ」


 男は服を着るだけで終わるし、すぐだ。


「おー! 先輩、優しい!」

「ふっ、スパダリと呼んでくれ」

「何十億も稼げば、それだけでスパダリですよ」


 それは俺もそう思う。

 金の力は偉大なのだ。

 この金の力で食洗器でも買うか?


「まあ、洗い物くらいは任せておいてよ」

「じゃあ、お願いしまーす」


 カエデちゃんが席を立ち、リビングから出ていったので食器類をキッチンに持っていくと、洗い物を始める。

 とはいえ、所詮は2人分なのですぐに終わった。


 洗い物を終えると、自室に戻り、着替え始める。

 そして、着替え終わると、リビングでカエデちゃんが来るの待つことにした。


「お待たせしましたー!」


 しばらく待っていると、カエデちゃんも準備が終わったようでリビングにやってきた。


 カエデちゃんは俺の要望通りに白いセーターにロングスカートをはいていた。

 もちろん、髪もふわっとした非常にかわいらしい格好だ。


「デイリーミッション達成だねー」

「ふっ、こんなものです」


 カエデちゃんがモデル立ちをする。

 でも、モデルさんのようにかっこいい系ではなく、可愛らしい格好なカエデちゃんでは背伸びしている子にしか見えなかった。


「じゃあ、行こっか」

「はーい。あ、先輩、今日は1日ですよね? 昼に食べてください」


 カエデちゃんはそう言うと、キッチンに行き、ランチボックスを渡してくれる。


「おー! 愛妻弁当!」

「ですです。愛情がつまったピザです」


 昨日の残りやんけ。


「まあいいや。ありがとう」


 俺はランチボックスをアイテム袋となっているカバンに入れると、肩にかけた。


「いえいえ。では、行きましょう」


 カエデちゃんは返事をすると、俺の腕に手を回し、腕を組んでくる。


「これで行くん?」

「いえ、玄関までです。これは昨日のハグの分ですね」


 玄関までかよ……

 短いなー。


「よーし、同伴出勤だ」

「…………いや、その通りなんですけど、なんか嫌ですねー」


 ぶっちゃけ、ギルド職員は同棲する彼氏と同伴で来たバカップルって思うと思うよ。

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