第060話 強くなろう ★


 せっかく生かしたのにハリーのバカはトドメを刺したらしい。

 それにより、敵の情報がまったくわからなくなってしまった。


「まあいいだろ。この練度から見ても下っ端だろうし、表の車の中を探せば何か見つかる……と思う」


 ハリーはまったく気にしていないようだ。


「それでいいの?」


 俺はハリーはダメだと思い、クレアに聞いてみる。


「良くはないわね。仕方がないから適当なことを言って誤魔化すわ。自害したってことにする」

「好きにすればいいけど……」


 サツキさんに何て言おうかな?


「あのー、この死体はどうするんです?」


 泣き終え、普通の状態に戻ったナナポンがクレアに聞く。


「このままね。どうせそのうち消えるし」


 ん?

 消える?


 俺はクレアの言い方が気になったが、墓穴を掘りそうなので黙っておくことにした。


「消えるって何です?」


 俺が黙っていると、ナナポンが聞いてくれる。


「そのまんまよ。フロンティアではモンスターが消えるでしょ? それと同じなのかはわからないけど、人間も死んだら煙のように消えるの。ただ、人間の場合はちょっと時間がかかる。理由は不明」


 なんか怖いな。


「なんか怖いですね」


 意見が合った!


「まあね。でも、今回みたいな場合は便利よ。めんどくさい死体を処理できるんだから」


 そういう意味で考えれば、フロンティアで人を殺しても証拠が見つかりにくいわけだ。

 危ないな。


「そんなことはどうでもいいけど、ウチのギルマスには何て言えばいいのかしら?」


 俺はこの話題はちょっとマズいので話題を変えることにした。

 死体が消える理由とかを聞かれたら嫌だし。

 だって、俺も知らねーもん。


「そのまんま言っていいわよ。この問題はどちらかというと、あなた達のものだしね。私達の仕事はあなたの護衛。無事に守りましたって報告するだけよ」

「その辺をギルマスと話してしてくれない? あの人、隠蔽したがっているっぽいし」


 めんどくさいし、サツキさんに任せよう。


「は? 隠蔽? なんでよ?」

「ほら、前にギルドに侵入者が入ったって言ったでしょ? 多分、犯人はこいつら。でも、それを報告すると、ギルドに侵入者を許したギルマスの責任問題になるらしい。私としても今後の事を考えると、あの人が必要なのよ。他の人は信用できない」


 サツキさんは信用できる。

 カエデちゃんの元パーティーリーダーで信用をカエデちゃんが保証しているからだ。

 変なことはしないだろうし、何より、カエデちゃんを裏切るようなことをしない。


「ふーん、まあ、いいけど、私達の上司には報告するわよ?」

「それは仕方がないでしょうね」


 こいつらはそれが仕事だ。


「まあ、わかったわ。あなたにはアイテム袋を売ってもらうわけだし、回復ポーションのこともある。悪くは言わないようにする」

「おねがい」


 サツキさんがいなくなると、さすがにエレノアさんも撤退しないといけなくなるし、あの人にはもうちょっと頑張ってもらおう。


「ん? おい、クレア! アイテム袋って何だ!?」


 ハリーがアイテム袋に反応した。


「1000キロのやつを売ってもらうのよ。それでお手伝いしたの」

「ハァ!? 聞いてねーぞ! 俺にも権利はある」

「あんた、10億円も持ってんの?」

「……………………」


 ないんだね。

 無念。


「じゃあ、私らは戻ってギルマスさんと話してくるわ。さすがに受付を通してないし、さっさと帰らないと…………人に見られるとマズい」


 この2人は有名人だしな。

 ネットとかでつぶやかれるとマズいだろう。


「あ、回復ポーションのことがあるから近いうちに連絡するわ」

「そうね…………ごめんなさい、もうちょっと待ってくれる? 一度、国に戻るからその後で。お金がね…………」


 10億円も払うわけだしな。


「わかったわ。じゃあ、連絡をちょうだい」

「そうするわ。じゃあね。ほら、ハリー、行くわよ」

「クソッ! 今度から金を貯めねーと」

「どうせ無理よ」


 2人は軽口を言いながらゲートをくぐり、帰っていった。


「私達も帰りましょうか?」


 俺は2人がいなくなると、ナナポンに聞く。


「そうですね…………あの、今日は本当に迷惑をかけてごめんなさい。今後は気を付けます」


 ナナポンが頭を下げた。


「気にしないでって言いたいけど、お金のことは気を付けなさいね。友達にも言ってはダメよ?」

「はい、身にしみてわかりました…………それとありがとうございました」


 ナナポンが今度はお礼を言ってくる。


「いえいえ。雑魚で良かったわ」

「私にはまったくわからないんですけど、雑魚だったんですか?」

「私に挑んできた時点で雑魚よ。実力差がわからないなんてね。あの男はまっすぐゲートに逃げるべきだった。まあ、どっちみち、ハリーが逃がさないでしょうけど」


 剣がなければ勝てると思ったのがバカだわ。

 こちとら魔女で有名なのに。

 本当は魔法を使えないけどね。


「そうですか……私も強くなれますかね?」

「大丈夫でしょ。あなたは魔法が使えるしね。一緒にレベルを上げて頑張りましょう」

「…………はい!」


 ナナポンが明るく笑った。


「じゃあ、帰りましょう。あなたは先に帰ってちょうだい。あ、タクシーで送ろうか?」

「いえ、大丈夫です。1人で帰れます」

「本当に大丈夫?」

「大通りしか歩かないようにしますから大丈夫ですよ。それに今度は透視で警戒します」


 まあ、さすがに大丈夫だろう。


「じゃあ、気を付けてね」

「はい。あ、すみません、引っ越しの準備だったのに」

「それは気にしないで。もうほぼ終わったから。明日からカエデちゃんと住む」

「よかったですね」


 ナナポンがちょっと引いている。


「…………何よ?」

「いえ…………じゃあ、私は先に帰ります。また打ち上げをしましょう」

「そうね。また連絡するわ」

「はい。今日はありがとうございました。では」


 ナナポンはそう言ってゲートをくぐり、帰っていった。


 俺は少し時間を置くことにし、しばらくしたらゲートをくぐり、ギルドに戻った。




 ◆◇◆




 私はギルドを出ると、駅に向かって歩いている。


 沖田さんって朝倉さんのことになると、気持ち悪くなるなー……


 沖田さんは朝倉さんにものすごく依存している気がする。

 仕事で病んでいたようだが、それで朝倉さんの優しさに溺れたのだろうか?

 まあ、私には関係のないことだ。

 正直、あの2人の関係には関わらない方がいいだろう。


 それよりも今は……


 私は立ち止まり、路肩に駐車している黒塗りの車を見る。

 すると、車のドアが開いた。


 私はその車の後部座席に乗り込む。


「お嬢様、どうでしたか?」


 車の後部座席にいた黒いスーツにサングラスの男が聞いてくる。


「失敗。3人共、死んだわ。だから言ったのに……」


 私は最初から反対だった。

 こんなもんが上手くいくわけがないって。


「そうですか……何がありました?」

「ハリーとクレアが来たわね。まあ、あの2人は特に問題ない。問題は黄金の魔女よ。あれは正真正銘のバケモノ。あの3人の内、2人を瞬殺。しかも、雑魚って言ってたわよ?」

「ウチの精鋭を雑魚ですか…………やはり本物の魔女だったか」


 お金集めの魔女だけどね。

 あと人斬り。


「こんなことは二度とごめんよ。パパは?」

「手筈通りにいっております。すでに入院され、今夜が峠でしょう」

「そう。ならいいわ。こんなクソみたいな計画を練るアホはいなくていい。これからは私が仕切るわ」

「承知しました。ただ反対する者も出るかと……」


 反対?


「私には従えないと?」

「お嬢様は若いですし、日本にいます。香港の連中は別の人間を立てるでしょう」


 チッ!

 めんどうな!


「消しなさい。私に従えない者は不要」

「かしこまりました、お嬢様」

「そのお嬢様はやめなさい」

「わかりました、ボス」


 ボスかー……

 まあ、そうなるか。


「よろしい。私の透視に見えないものはない。敵対勢力は全部潰す」

「ボスはどうされます? 香港に行かれないのです?」

「日本語しかしゃべれないわよ」


 日本生まれ、日本育ちの私には中国語も英語も無理。

 テストは100点だけどね。


「教えましょうか?」

「めんどくさい。最悪は魔女から翻訳ポーションを仕入れるわ。それに今は香港よりも日本よ。せっかく黄金の魔女と繋がりができたのよ? これを逃してどうする?」


 最初はギルマスさんにカンニングがバレるわ、ロクに会ったこともないパパにくだらないことを指示されるわ、で最悪と思ったが、事は好転している。

 エレノアさんについていけば、本当に黄金を見せてくれるだろう。


「では、引き続き、冒険者ですか? 正直、不安なんですが……」


 どうせ、弱っちいわよ!


「香港に行くよりマシよ。それに黄金の魔女がいる。問題ないわ。それよりも黄金の魔女に群がるバカ共をどうにかしなさい」

「わかってます。ですが、アメリカは厳しいです」

「あれは放っておきなさい。バカと金に目がくらんだアホよ」


 あれは本当に大丈夫なのだろうか?

 敵ながら心配になる。


「承知しました」

「あ、それとギルドに手を出したらダメよ。ギルドに侵入したでしょ」


 ホント、やめてよ……


「前のボスの指示ですね。私もどうかと思っていました。さすがにギルドを敵には回せません。世界中のギルドを敵に回すことになります。そうなれば我らは終わります」

「わかってるならいい。黄金の魔女は私が対処する。お前達は外敵の排除。わかった?」

「承知しました」

「なら結構。後のことはお前に任せる」


 私はそう言って、車を降りる。


「送っていきましょうか?」

「いらない。買い物をして帰る」

「そうですか……では、また何かあれば連絡します」

「よろしく。ばいばい」


 私は車から降りると、駅に向かい、電車に乗った。

 そして、目的地に着くと、電車を降り、駅から出る。


 そこから少し歩くと、物陰に隠れ、透視を使う。


 あ、帰ってきてる……


 私の目線の先にはエレノアさんがいる。

 エレノアさんはすでに家に帰っているようだが、私の透視の前では家の中だろうがどこだろうが、見えるのだ。


 エレノアさん…………ホントにかっこいいなー……

 私もあんな風になれるんだろうか?

 

 私がじーっと見ていると、エレノアさんがポニテを解いた。


 あ、解いちゃうんだ。

 もったいない……

 髪を結ぶのも最初はドヘタだったけど、今は上手になっている。

 私もこの前の土日に隠れて応援していた甲斐があった。


 私はずーっとエレノアさんを見ていると、エレノアさんが服を脱ぎだした。


 エレノアさん…………ホントにスタイルいいなー。

 羨ましい。


 服を脱いだエレノアさんは何かのポーションを飲みだす。

 すると、エレノアさんの姿が沖田さんに変わった。


 沖田さん……………………邪魔。

 早くエレノアさんに戻れ。


 お前は怖いんだよ!

 なんで躊躇なく剣を振り下ろせるんだ?

 あと、笑いながら人を斬るんじゃない!


 朝倉さんはあの男のどこがいいんだろう?


 や、やっぱり、セ、セフレなのかな……?

 か、監視しないと……!

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