第038話 6本あれば1人2本ずつだろ


 俺はカエデちゃんとサツキさんの3人で飲んでいる。

 よく考えたら両手に華だ。

 俺は隣に座っている癒しの華だけでいいけどね。


「まあ、ナナポンと組むのは了解です。今日一緒にやりましたが、あいつの透視はすごいですよ。どこにモンスターや冒険者がいるのかを教えてくれますので効率がものすごく上がりました」


 俺はビールを飲みながらナナポンと組むことを了承する。


「完璧な索敵能力だな。ウルフなんかの奇襲も食らわないわけだ。お前のスキルもだが、レアスキルってすごいな」


 サツキさんがやきとりを食べながら頷いた。

 なお、6本ある内の3本目だが、それを言うと、カエデちゃんに苦言を言われるため、言わない。


「ですねー」

「ナナポンがこのスキルを持っていることが知られたら争奪戦が起きるな。上位ランカー共は特に欲しがるだろう」


 奇襲を受けないし、絶対に先手を取れるって命がかかっている冒険者にとっては絶対的に優位だもんな。


「しかも、女子大生。人気になるでしょうね」

「ケッ! 若さが憎い」


 あんたはそのひがむのをやめろ。


「まあ、そういうわけで他の人に知られたらマズいでしょうね」

「わかってる。透視なんて能力は悪用しようと思えばいくらでもできるしな。私が責任を持って管理する」


 私が悪用するの間違いだろ。


「俺のスキルもですけど、ばらさないでくださいよ」

「わかってる。お前らも漏らすなよ。あと、ナナポンのレベルも上げとけ」


 身を守る意味でもレベルは上げておいた方がいい。


「わかってます。そういうわけで明日も行きますよ。ただ、行くのはエレノアさんですね」

「なんでだ?」

「男性が苦手なんだそうです。決して俺のことが嫌いというわけではないです」


 そう言ってた!


「予防線を張られると余計に勘繰るな…………セクハラでもしたか?」


 まさしく蛇足!

 余計なことを言っちゃった。


「ナナカちゃんはそういう人ですよ。女性のソロは危ないからって言って、パーティーを組むように勧めたんですけど、男の人はちょっと……って言ってましたし」


 カエデちゃんがナイスフォローをしてくれた。


「ふーん。あいつ、そんなんだったのか」


 サツキさんが4本目に手を伸ばしながら言う。


「女の人を勧めなかったの?」


 カエデちゃんに聞いてみる。


「ほとんどの女の人はすでに組んでますよ。女の人が冒険者をやる場合は最初から組んでるパターンが多いです。既存のパーティーにドシロウトが入るのは難しいんですよ。特に女子の場合は……」


 ドロドロしてんのかね?

 まあ、男のパーティーにナナポンが入ったら姫状態でさぞ甘やかされるだろうし、そっちの方がいいか。


「それでソロね。じゃあ、しゃーないわ」


 俺は5本目に手を伸ばすサツキさんの手を見ながら納得する。


「ナナカちゃんがエレノアさんと組むのはわかりましたけど、大丈夫です? 今、エレノアさんがフロンティアに行くと、群がられますよ?」


 カエデちゃんが俺の方を向き、聞いてきた。


「大丈夫。明日からはダイアナ鉱山に行く予定」

「あー、確かに人はいないでしょうね。あそこはロクなアイテムをドロップしないくせにモンスターが厄介ですから。ハズレエリアです」


 俺も家に帰って調べてみると、ハイドスケルトンの落とすドロップ品は普通のスケルトンと同じく、5000円のスケルトンの剣らしい。

 そりゃ、皆、クーナー遺跡に行くわ。


「ナナポンは透視でハイドスケルトンも見えるんだと」

「ホント、すごいですね…………」

「だよなー」


 俺も錬金術を見た時に勝ち組だって思ったが、レアスキルは通常のスキルとは一線を画している。


「しかし、今の時期にエレノアが来るのかー……沖田君、エレノアの場合は裏から来い」


 サツキさんが最後のつくねに手を伸ばしながら言う。


「いいんですか? 裏口って立入禁止じゃなかったっけ?」

「私がいいって言うんだからいいんだよ。一時的な緊急処置だ」

「じゃあ、そうさせてもらいます」


 マスコミ、うぜーし。

 ナナポンとはダイアナ鉱山で待ち合わせしよう。


「ギルドの連中には言っておく」

「ありがとうございます。それとレベルが上がって新しいレシピが増えましたわ」


 俺は新しいレシピを報告することにした。


「何を作れるようになったんだ?」

「レベル2の回復ポーションです」

「ほう…………」


 サツキさんが真面目な顔をして串を置いた。


「いくらで買い取ってくれます?」

「相場は300万円前後だ。だけど、ウチじゃ買い取れんな」


 高っか!

 レベル1の6倍やんけ!


「高いっすねー……でも、買い取れないのは何故です?」

「そんなもんを使う冒険者がいないから買い取っても売れない。レベル2の回復ポーションを使うような冒険者はBランク以上だ」


 悲しい理由だなー。


「じゃあ、どこで売ればいいんです? 買取店?」

「本部に売れ。支部はムカつくからダメ。それとエレノアは買取店を使えん」


 まあ、他所の支部に売る気はない。

 俺達は共犯者で一蓮托生なのだ。


「本部? いや、なんで買取店を使えねーんだよ」

「本部がエレノアの利用を止めた。上位ランカーではたまにある。貴重なアイテムを民間に流出させたくないんだと」


 なんだそれ?


「えー……それ、いいの?」

「本部の権限だな。まあ、どこで売ろうとたいして変わらんよ。最悪はウチのオークションに出してやる」


 じゃあ、それでいっかー。


「本部に行けばいいんです?」

「私が報告しておいてやる。その内、連絡が来るだろ。適当に売れ」


 自分の懐に入らないからどうでも良さそうだ。


「そうします」

「そうしろ、そうしろ。よし、良い時間だな。私は帰る。動画を見なくては! あ、ここは払っておくぞ」


 サツキさんは残っているビールを飲み干すと、立ち上がって帰っていった。


「自由だなー」

「推しのVtuberがいるらしいです」

「へー」


 どうでもいい情報だな。


「どうします? 店を変えます?」


 別にここでいいな。

 カエデちゃんが隣にいるし。


「ここでいいよ。やきとり頼もー」


 俺はメニューを開く。


「ずっと見てましたもんね」


 気付いてらっしゃった……


 俺とカエデちゃんはその後も2人で飲み、10時前には解散した。




 ◆◇◆




 翌日、午後になると、エレノアの姿になり、タクシーを使い、ギルドの裏に回った。

 ギルドの裏は駐車場となっており、そこを抜けると、裏口がある。


 俺は駐車場でタクシーから降りると、裏口の前に警備員が2人いるのが見えたため、歩いて近づいた。


「通ってもいいかしら? ギルマスさんに許可をもらったんだけど?」


 一応、聞いておく。

 あの人、警備員に伝えるのを忘れているかもしれないし。


「エレノア・オーシャンさんですね。聞いています。どうぞ」


 身分証明とかいいのかな?

 持ってねーけど。


 俺は許可を得たので、そのまま進み、裏口を開けた。

 裏口の先は通路になっており、いくつかの部屋が見えるが、方向的に突き当たりだろうと思い、通路を進み、突き当たりの扉を開く。

 すると、扉の先はよく見る受付の中だった。


 俺は何食わぬ顔で歩き、受付を出て、カエデちゃんのもとに行く。


「こんにちは」

「あ、こんにちはー」


 カエデちゃんは今日も明るくてかわいい。


「ナナカさんは?」

「もう行ってます。早く行ってあげてください」


 カエデちゃんがステータスカードと武器を渡してくれる。


「じゃあ、行ってくるわ」


 カエデちゃんと話したいが、ナナポンを待たせるのは悪いし、さっさと行こう。


「あ、エレノアさん、冒険を終えられてからでいいので時間をください。ギルマスが話があるそうです」


 話?

 昨日、何かを伝え忘れたのかな?

 あの人、飲むペース早かったもんなー。


「了解。夕方には戻るわ」

「お願いします」


 俺は何だろうと思いながらもゲートに向かい、ナナポンが待つダイアナ鉱山に急いだ。

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