第037話 こっそり手を繋ぎたい


 俺とナナポンはゲートをくぐり、ギルドに戻ってくると、受付まで戻り、カエデちゃんのもとに向かう。


「ただいまー」

「あ、先輩、おかえりなさーい」


 俺がカエデちゃんに挨拶をすると、カエデちゃんがかわいく挨拶を返してくれた。


「誰だ、この人達……?」


 後ろでナナポンが何か言っている。


「あ、ナナカちゃんもおかえりなさい。無事に合流できたみたいでよかったです」


 カエデちゃんがナナポンにも挨拶をした。


「カエデちゃんも聞いてた?」


 俺はナナポンを指差しながら聞く。


「いえ、先輩が出かけられた後にナナカちゃんが来ました。それから奥の支部長室で一緒にギルマスから話を聞きました」


 カエデちゃんも聞いてなかったわけね。

 まあ、知ってたら教えてくれるか。


「なるほどねー。文句も言いたいけど、明日にする。ちょっと報告とかあるし、明日、ナナポンと来るわ」


 来るのはエレノアさんだけど、後で連絡すればいいや。


「ナナポン? たぬき?」

「…………ほらー、たぬきって思われるー。太ってない……」


 たぬきにデブのイメージってあるかな?

 それにナナポンはやせ形で太ってはいない。

 カエデちゃんより小さいし。


「先輩?」


 俺がナナポンの胸部を見ていると、カエデちゃんが冷たい声を出した。


「あ、カエデちゃん、今日、ご飯に行こうよ!」

「…………残業です」


 あ、やべ。


「待つから。何時?」

「8時くらいかな?」

「じゃあ、そのぐらいに来るから」

「そうですか? じゃあ、急いで仕事を片付けます」


 うんうん。


「あ、これ、返す」


 俺は刀とステータスカードを提出する。


「あ、私も」


 ナナポンも杖とステータスカードを提出した。


「確かに預かります。では、今日の成果をおねがいします」


 カエデちゃんに言われたので大量のスケルトンの剣を出し、精算してもらった。

 清算を終えると、俺は一度家に帰ることにし、ナナポンと駅まで歩く。


「あのー、本当に付き合ってないんですか?」


 2人で歩いていると、ナナポンが聞いてきた。


「カエデちゃんと? そういう話はしたことがないね」


 俺は付き合うどころかお嫁さんになってほしいと思っている。

 カエデちゃんも一生、寄生するって言ってたし。


「ですか……」

「何か気になることでもあったか?」

「いや、沖田さんは急にテンションが上がるし、朝倉さんは聞いたこともないような甘い声を出すしで、この2人、誰だろうって思いました」


 ふーん。


「カエデちゃんって普段はどんなん?」

「有能なお姉さん? そんな感じです」


 有能? お姉さん?

 あれが?

 ふっ……


「誰だよ、そいつ」

「いや、だからそう言ったじゃないですか。恋人の関係だからなのかなーっと」

「じゃあ、もう付き合っているということでいいよ」


 そう、俺達は付き合っているのだ。

 俺の家にも来たし、一緒に北海道に旅行にも行った。

 そして、今度、一緒に住む。

 これは付き合っているということで合ってる。


「なんか怖いな……」

「これが大人だよ」

「大人って変ですね。告白は?」


 ほっとけ。

 断られたら病むだろ。

 せっかくお金とカエデちゃんの癒しパワーで治ってきたのに。


 その後、ナナポンと駅まで行くと、その場で別れ、電車に乗って家に帰った。


 家に帰ると、レベル2の回復ポーションを大量に作り、カバンに入れていく。

 そして、いい時間になったのでシャワーを浴び、着替えると、再び、ギルドに向かった。


 7時半くらいにギルドに着くと、ギルドの前にたむろっていたマスコミはいなくなっており、代わりにカエデちゃんが待っていた。


 サツキさんと一緒に…………


「カエデちゃん、随分と早かったねー」


 俺はカエデちゃんのもとに行くと、声をかける。


「頑張りましたから!」


 カエデちゃんが胸を張った。


 うん、かわいい。

 それに目の保養になる。

 これが癒しパワー。


「じゃあ、行こうか」

「ですね」


 俺とカエデちゃんは前にも行った居酒屋に向かう。


「近くの居酒屋か? いい時間だし、行くか」


 ……………………。


「なんでいんの?」


 俺は無視しようとしたのについてくるサツキさんを見る。


「飲むんだろう? 私も行こう」

「いや、帰れし。動画を見るんでしょ」

「いやー、横川の件はすまんかった。ちょっとその辺のことも話したいから行こう。上司の奢りだ」


 こいつ、俺からカエデちゃんに奢る権利を奪う気か?

 金という俺の唯一と言ってもいい武器を取るなや。

 とはいっても、ナナポンの件は聞きたいし、レベル2の回復ポーションのこともあるか……

 よし、2次会で撒こう。


「じゃあ、まあ、行きますか」

「しょうがないですよね」


 俺とカエデちゃんは渋々、納得し、3人で例の居酒屋に向かった。

 歩き出すと、5分もかからずに居酒屋に到着する。


 俺達は店員に案内され、座るだけの個室に通された。

 そして、俺とカエデちゃんが並んで座り、対面にサツキさんが座る。

 カエデちゃんが隣に座るのが新鮮でこれもいいなと思っていたが、対面のサツキさんがじーっと俺とカエデちゃんを見てきていた。


「何っすか?」

「いや、支部長室でもそうだが、ごく自然に隣同士で座るんだな。カエデはこっちじゃないのか?」

「こっちに決まってんだろ。俺の隣」


 恋人だぞ!


「別にどっちでもいいじゃないですか。ギルマス、何を飲まれます?」

「ギルマスはやめろ。酒が不味くなる」

「じゃあ、サツキさん、何を飲まれます?」

「生」

「はーい」


 カエデちゃんは店員を呼び出すと、生を3つ頼んだ。


「ぐっ……沖田君には何を頼むかも聞かずに注文しおった。なんか嫌な感じ」


 嫌な感じなのは明らかにお前だ。


「最初は生だろ」


 ずっと生だけど。


「サツキさん、最近、うざいです」


 カエデちゃんもさすがに文句を言う。


「ケッ!」


 ダメだ、この人……


 その後、すぐに生ビールが届いたので乾杯をし、飲みだした。


「それでナナポンは何だったんです? 一言あっても良いでしょう」


 俺はビールを一口飲むと、サツキさんに聞く。


「ナナポン? 横川……ナナカ。ああ、ナナポンだ。なるほど…………いやな、実はお前にステータスカードを見てもらった後、すぐにナナポンに連絡を取ったんだよ」


 サツキさんもナナポン呼ばわりする。


「すぐ、ですか?」

「早い方がいいと思ってな。そしたら速攻で降参して、ゲロった。何でもしますから親と大学には言わないでくださいって電話越しに懇願してきた」


 マジでエロ本シチュだったんだなー。


「それで俺のところに? 俺を指導するとかほざいてましたけど」


 舐めんな。


「うん、まあ、それはおまけだな。本当はエレノアの目になってほしかったんだよ」

「目?」

「ああ。ナナポンの透視はかなりのものだ。だからフロンティアで変なヤツとかを避けられる」


 確かに今日、一緒に行動をしたが、モンスターは見つけてくれたし、他の冒険者の居場所も教えてくれた。


「なるほど。確かにいいかもですね。先輩というか、エレノアさんってドジなところがあるから」


 カエデちゃんが笑う。


「ねーよ」

「最初、ドジりまくってたじゃないですか」

「ちょっと浮かれただけだよ」

「えー」


 カエデちゃんがまたもや笑う。


「チッ! あ、お前らもおかわりを頼むか?」


 俺とカエデちゃんが話していると、ビールのジョッキを空にしたサツキさんが聞いてくる。


 早っ!

 こいつ、イッキしたな。

 あと、舌打ちはやめろ。


「じゃあ、もらいます」


 サツキさんが生ビールを2つ頼むと、店員さんがすぐに持ってきてくれたので、2杯目を飲みだす。


「それからどうしたんですか?」


 俺は2杯目を飲みながら話を続ける。


「とりあえず、沖田君と組むように言ったんだが、ちょっと考える時間が欲しいと言われた。まあ、その時はそんなに急いでなかったし、まあいいかと思った。そしたら回復ポーションの売買やオークションの開催準備で忙しくてな、ナナポンのことをすっかり忘れていた」


 おい!


「忘れんなよ……」

「ひどいですねー」


 さすがにカエデちゃんも上司を責める。


「悪い、悪い。そうしたら今日の昼前に電話がかかってきてな、エレノアさんだったら大丈夫ですって言われた。一瞬、何のことかわからんかったわ」

「あいつ、俺のストーカーらしい」

「私もよくそこまでやるわと思ったんだが、説明が楽で良かったな。というわけで、ナナポンをよろしく。ついでに鍛えてやって一緒にAランクを目指してくれ。レアなスキルを持つお前らなら行ける。このギルドでは成長できないし、稼げないわってほざいたヨシノを見返してやってくれ」


 私怨がすげー。


「まあ、Aランクになれるかは知りませんが、頑張りますよ。今日、あのガキにDランクを自慢され、イラっとしましたしね」

「あー、そういえば、あいつ、一応、Dランクだったな」

「Dランクになった直後に来なくなりましたね」


 ほうほう。


「ブランクを考えると、Eランクに降格した方が良くないか?」


 落ちろ、落ちろ。


「私もそっちの方がいいと思います」


 さすがはカエデちゃんだぜ!


「うーん…………そうするか」


 やったぜ。

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