第015話 勝ち組計画


「うーん、先輩、男性なのにスタイル良いなー。私も自信があったんですけど…………」


 カエデちゃんが俺の身体をまさぐりながら不満そうにしている。


「俺の身体なんて何でもいいよ。売る時用の姿だし」


 男の時の俺を褒めてくれや。


「……まあ、下着は買っておきます。でも、服は?」

「黒ローブでいい。ミステリアスを目指しているから!」

「だからあんなしゃべり方なんですね……」


 練習した!


「まあ、別にいいじゃない。この姿なら私が沖田ハジメとは思わないでしょう? どっからどう見ても謎の女、エレノア・オーシャンよ」


 俺は女言葉で話す。


「すごい! 知的に見えます!」

「だろー? フィクサーと呼んでくれたまえ」

「すごい! 一瞬でバカっぽくなりました!」


 ところでフィクサーって何?

 CEOの方が良かったか?


「まあいいわ。さっさと金を儲けよ」

「それなんですけど、これからどうするんです?」

「うん? ポーションとアイテム袋を大量に売る」


 俺、売る。

 儲かる。

 人生ウハウハ。

 いえい!


「あのー、めっちゃ怪しいですよ、それ」

「ギルドを移籍しまくって売る計画だから大丈夫」


 少しずつ売れば問題ないだろ。


「先輩、はっきり言います。すでにあなたはマークされています。多分、日本の各支部のギルマスでエレノア・オーシャンを知らない人はいません」

「なんで?」

「ポーションを5個売るのはそれだけのことなんです。ましてや、先輩、認識番号も知らずに買取店で売ろうとしたでしょ? あれ、ギルドの本部に通報され、すべての支部に通達が行ってますよ」


 あれ、そんなにマズかったんか……あ!


「お前、認識番号のことを言っておけよ! 受付嬢だろ!」


 俺はカエデちゃんに詰め寄る。


「だってー、先輩は私のところで売るからいらないと思ったんですー」


 専属ってやつか?


「まあいいわ。結果的には無事に売れたし」

「ですです」

「それにだ、別になんでもいいだろ。俺が物を売って、何か悪いか?」


 盗んだものでもないし、偽物でもない。

 作って売ってるだけ。


「開き直りますか…………もういっそ、その路線でいきますか」

「どういうこと?」

「先輩、何を聞かれても全部はぐらかしてください。スライムからドロップした。ゴブリンからドロップした。それを言い張りましょう。どうせ、その姿は先輩の本当の姿ではありません。マズくなったらその姿にならなければいいんです。本当に謎の女、エレノア・オーシャンでいきましょう!」


 だから最初からそう言ってんじゃん。


「それそれ。さっさと金を儲けようぜ」

「先輩、移籍して下さい」

「え? 池袋で儲けなくてもいいの? お前の稼ぎになるだろ」


 確か、お前の評価になるんだろ?


「いえいえ、エレノア・オーシャンは池袋です。でも、沖田先輩は移籍してください。だって、ステータスカードの連動がありますもん」


 あー……確かに。


「レベルが一緒に上がるもんな」

「はい。そして、レベル5の剣術がマズいです。高すぎです。目立ちます。せめて、ギルドは別にした方がいいです」


 俺の才能と実力が憎いぜ。


「じゃあ、俺は渋谷にでも移るか……」

「……なんで渋谷?」


 元グラビアアイドルがいるから。


「ふふっ、木を隠すには森の中って言うでしょ? 一番、冒険者の数が多い渋谷に移るのよ。あそこは実力者も多いし、ちょうどいいわ」

「すごーい! かしこーい!」


 後輩が拍手をしてくれる。

 こいつ、普段、絶対に俺をバカにしているわ。


「でしょう?」

「…………どうせ、受付嬢目当てでしょうけど」


 ち、違うよー……


「俺がいなくなって寂しいだろうが、元気でやるんだぞ」


 達者でな?


「いや、エレノアさんで来るじゃん」

「まあね」


 ビール、ぐいー。

 カエデちゃんもビールをぐいー。


「それと、先輩とエレノア・オーシャンを完全に切り離すべきなのでこの家からエレノア・オーシャンで出かけるのをやめてください」

「何? どっかのトイレで変われってこと?」

「そうなります」


 マジかい……

 まあ、公園のトイレとかでいいか。


 謎の女、エレノア・オーシャン、公園のトイレから出勤す!


 ダサすぎ、ワロタ。


「そんな感じでいくかー」

「あと、先輩、ウチのギルマスを巻き込むべきです」

「ん? お前のところの上司? 大丈夫か、それ?」

「信用はできる人です。お金でなびきますし」


 俺が知ってる信用とカエデちゃんが理解している信用って違うのかな?


「ふーん、まあ、ある程度の説明はいるかね」

「です。さすがにエレノア・オーシャンが先輩なことは言わなくてもいいですが、スキルの説明くらいはした方がいいかと」


 まあ、別にいいか。

 さっき、カエデちゃんも言ってたが、最悪は逃げればいい。

 要はTSポーションを知られなければいいのだ。


「じゃあ、それで」

「はい。では、明日、私が先輩の移籍の手続きをしますので、明後日にエレノア・オーシャンでギルドに来てください。ギルマスを紹介します」

「はいはーい」


 じゃあ、明日は休みだな。

 カバンを買いに行こう。


「よし! 飲みましょう!」


 もう飲んどるやんけ。


「焼肉行く?」


 今はすでに5時を回っている。


「私は明日も仕事です」

「そういえば、そうだ」


 女の子的に焼肉はないかもしれん。


「先輩、1億が見えてきましたね」

「そらな。このカバンだけで1億だわ。でも、1億なんてショボいことを言わずに一生遊んで暮らせる金を手に入れようぜ! さようなら、仕事!」

「さようなら! ブラック!」

「「あははー! 勝ち組、ばんざーい!」」


 …………うーん、さっさと男に戻っときゃよかった。

 タイミングを逸した。

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