第014話 チェーンジ!


「私、思うんですよね! 人生ってズルいことをした人が勝つって!」

「わかるー! あのクソ上司もそんなんだったもん。俺らの手柄を取り、自分の失敗を俺らに擦り付けてた」


 まったくもって、けしからん!


「最低ですね!」

「でしょー! でもね、そんなことはどうでもいいの! 何故なら、俺は勝ち組だから!」

「いえーい! さすが先輩! 一生ついていきます!」


 人生の勝利を確信した俺達はビールを何本も空けていた。


「そういえば、他の2つは何です?」


 ビールを片手に頬を染めたカエデちゃんが聞いてくる。


「あー、それそれ。まずはね、翻訳ポーション!」

「翻訳? 英語でもしゃべれるようになるんですか?」

「英語だけじゃない。ぜーんぶ! 確認した言語は全部できた! 俺、バイリンガル! 効果時間は1日だけど」


 バイリンガルで合ってるっけ?


「すごーい! でも、大学の時に作れるようになっとけよ!」

「お前もそう思う? 俺も思った! 英語きらーい」

「ドイツ語きらーい」

「「勉強きらーい! あははー!」」


 楽しー!


「でも、これは売れるには時間がかかりますねー」

「やっぱり?」

「新規アイテムは申請やら調査やらがいります。それにこの効果だと、それこそ学校の試験等に引っかかりますからねー」


 だよねー。


「ダメかー」

「さっさとお金が欲しいならその辺が緩い外国ですかねー」


 なるほど。

 別に日本で売らなくてもいいのか。


「お前は賢いなー」

「でしょー? 絶対に先輩より賢いです」

「俺も賢いよ」

「どこが?」


 笑っていたカエデちゃんが真顔になった。


「カエデちゃん、これ、飲め」

「眠り薬を飲まそうとすんな。おっぱい触る気でしょ」


 それで済めばいいね。


「これって売れる?」

「うーん……薬はどうかなー? 別の法律に引っかかりそうな気がします」

「ポーションは薬じゃないの?」

「あれは飲料水です」


 なんじゃそりゃ?


「それでいいん?」

「そういう認識でいいってことです。ポーションの管理はギルドなんですよ」


 ふーん。


「まあいいや。高く売れそうにないし、これはいいかなー。眠れない時に使えばいいや」

「ですねー。需要が微妙です。市販の薬でいいですもん。それで先輩、最後のやつは?」

「それな。俺がジャージでいる理由を教えてやろう!」


 俺はビールを置き、立ち上がった。

 

「それですよー。ジャージは嫌です。昨日はかっこよかったのにー」

「ホント?」


 俺はすぐにしゃがんで確認する。


「いや、進めて。めんどいから」


 カエデちゃんがしっしと手で払った。

 仕方がないので俺は再び、立ち上がると、カバンからTSポーションを取り出した。


「何ですか、それ? 牛乳ポーション?」


 牛乳ポーションって何だよ。


「見ておけ! これが人類の進化だ!」


 俺はTSポーションを一気飲みする。

 すると、俺の視線が下がった。


「ふっふっふ」


 俺は不敵に笑い、座っているカエデちゃんを見下ろす。

 カエデちゃんはビールを口に持っていったまま固まっていた。


「どうだ!? これが性転換ポーションだぞ! 水と小麦粉で作れる!」


 カエデちゃんはビールを置くと、手で両目を抑える。


「良かった…………先輩が女装に目覚めた変態さんじゃなくて良かった…………ただのバカだった……」


 女装って……

 クオリティーが高すぎだろ。

 あ、だからか!


「女装じゃねーよ。お前も飲むか? 男になれるぞ」


 俺は座りながら聞く。


「嫌ですよ。でも、なんで金髪なんです?」

「染めた。この姿で物を売ろうと思ったからなるべく元の俺から離したかったんだよ。ほら、お隣さんが言っていた黒髪ロングは染める前の俺なの」

「あー、なるほど…………目もカラコンか」

「そそ。当たり前だけど、俺は黒目」


 日本人はほとんど黒目だろ。


「ふーん、でも、変装でそれを選ぶのはどうなんですかね?」

「せっかく性転換ポーションなんて物を作れるんだから活用したかっただけだよ」


 何となく、もったいないじゃん。


「ですかねー?」

「貧乏性かな?」

「勝ち組のくせにー!」

「いえーい! かんぱーい!」

「かんぱーい!」


 俺達は缶ビールを合わせると、グイっと飲む。


「それでジャージな理由は?」


 え?


「いや、男物の服で変わるのもなんだし。ほら、サイズがね」

「洗面所とかで着替えればいいじゃん」

「目の前で変わらないとインパクトがないだろ」

「しょうもな……」


 カエデちゃんが鼻で笑った。


「素っ裸で変わった方が良かったか?」

「訴えますね…………そういえば、下着は?」


 カエデちゃんは何かに気付いたように聞いてくる。


「ノーブラ、ノーパン! あははー!」

「変態さんですねー」

「逆につけてたらヤバいだろ」


 さっきまで男だったんだぞ!


「まあ、そうですね。さすがに引きます」

「とはいえ、何もつけてないのはちょっとスースーするからネットで適当に買うわ」

「ふーん、選んであげましょうか?」

「あー、そうするか。適当に買ってよ。俺はそういうのを全然、知らんし」


 詳しかったらこえーわ。


「先輩、スタンドアーップ!」

「ん?」

「立ってくださいよ」

「うん」


 俺はよくわからないが、言われた通りに立ち上がった。

 すると、カエデちゃんも立ち上がり、俺の正面に来る。

 顔を合わせる形だ。


「お前、でかくなったなー」

「先輩が縮んだんでしょ」


 そうでーす。


「お前、いくつ?」

「155センチです」

「げっ! お前と一緒!」


 後輩女子と一緒はいやー。


「確かにほぼ変わんないですね。体型も………………」


 カエデちゃんがそう言いながら俺の身体をまさぐってくる。


「くすぐったいぞー」


 というか、どこ触ってんだよ。


「た、体型もほぼ変わんないかなー……」


 自信なさげに言うなよ。

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