第005話 ナイスアイデア!


 俺は自宅の安アパートに戻ると、買い物袋をテーブルに置き、一休みする。


「ハァ……疲れた」


 俺はスマホで時間を確認しようと思い、スマホを見る。

 時刻はまだ昼の3時だった。


「ん? メッセージが届いている」


 俺はスマホを操作し、メッセージアプリを開く。


『今日はお疲れ様でした。1時間しか冒険してないですが、フロンティアに行くと、疲労も大きくなる傾向にあるのでしっかりと休んでください』


 メッセージは朝倉さんからだった。


「いい子だわー。しかし、こうやってメッセージの履歴を見ると懐かしいな……」


 当時は気付かなかったが、結構、やりとりをしてる。


「マジで懐かしい。この時は楽しかったなー……友達と麻雀やって、カラオケ行って、飲んで…………あれから4年…………きつかった」


 あー……精神に来る。

 この楽しそうな俺と朝倉さんメッセージのやりとりを見ていると、楽しかった昔を懐かしんで涙が出そうだわ。


「いや! これから楽しくなるはずだ! クソみたいな会社も辞めたことだし、Aランクの冒険者となって金を儲けよう! そして、遊ぼう!」


 物事は前向きに捉えないといけない。

 じゃないと、落ち込みそうだし…………


「しかし、こうやって朝倉さんとのやりとりを見ると、本当に色々と思い出すな…………普通に仲いいじゃん。というか、最後の方はカエデちゃんって呼んでるし」


 これを忘れるほどに仕事がきつかったわけか。

 っていうか、俺、すでに病んでね?

 マジであの会社を辞めて正解だったかもしれん。


 俺は既読スルーはマズいと思い、すぐにカエデちゃんに返信をする。


『久しぶりにカエデちゃんに会えて良かったよ。これからよろしくね』


 俺はこれを送信し、スマホを閉じた。


「あいつはまだ仕事だろうし、検証に移るか……」


 検証というのはもちろん、錬金術のことだ。


「さて、どれから作ってみるかねー」


 俺が作れるのは回復ポーションlv1、性転換ポーション、眠り薬、純水の4つだ。


「回復ポーションは純水がいるし、純水から作るか……」


 俺は立ち上がると、キッチンに行き、コップに水を入れ、戻ってくる。

 そして、コップをテーブルの上に置き、コップをじーっと見始めた。


「よーし! 純水ー、純水になれー!」


 俺がじーっと見つめていると、コップに入っている水が一瞬、光った。


「………………終わり、か?」


 水は何も変化していないように見える。


「…………水が純水になってもわかんねーわ。よし、次にいこう!」


 俺は今度はその水に持って帰った薬草を入れ、じーっと見る。


「回復ポーションになーれ!」


 すると、今度はさっきより強く光った。

 そして、光が止むと、何故かコップに入っていた水と薬草がフラスコに入った青色の液体に変わっていた。


「あれぇ!? コップも変わんの!?」


 薬草と純水で回復ポーションになるのはわかるが、コップがフラスコに変わってしまった。


「まあ、いいか。100均のだし…………しかし、これがポーションかー」


 俺はフラスコを手に取り、よく見てみる。


「これ、どんなもんなんだろう? 売れるかな?」


 俺はフラスコをテーブルに置き、スマホを開いた。

 そして、回復ポーションを検索してみる。


「おっ! へー、モンスターからドロップするんだなー」


 とはいえ、低確率らしい。

 レベルもちゃんとある。


 どうやら鑑定というスキルがあるらしく、すべてのギルドには鑑定持ちの職員が常時、いるっぽい。

 その鑑定士が持ち帰ったアイテムを鑑定するようだ。


「なるほどねー。いくらだろう……えーっと………………へ?」


 俺は変な声が出た。

 何故なら、ポーションlv1の買い取り額が50万円だったからだ。


「ごっ!? 50万…………これが?」


 俺は目線をスマホからさっきのフラスコに移す。


「50万…………スライムからドロップした薬草と水で50万…………俺の最高貯金額を簡単に超えおった」


 おい、おい、おい!

 すげーじゃん。

 こんなに簡単に作れる物が50万って!?


 俺、すげー!

 勝ち組じゃん!


「ひゃっほー! 1日で元が返ってきたぜ!」


 はい、講習会の料金15万は安いと思います!


「マジかー……すげーなー。あ、そうだ。錬金術のスキルや星マークについて調べてみるか」


 俺はスマホを再度、操作して、錬金術のスキルや星について検索するが何も出てこなかった。


「うーん、ゲーム情報ばっかだな…………」


 こりゃ無理だ。

 錬金術で検索をかけてもゲームの攻略サイトばかりで一向に見つからない。

 でも、ポーションの値段を考えても錬金術がメジャーなスキルとは考えにくいだろう。

 それにあさく……カエデちゃんには見えていなかった。


「これは俺の他に持っているヤツがいても報告してねーな。まあ、するヤツはいねーか」


 報告しなければ独占できるし、下手をすると、ギルドにスキルの使用を制限される可能性もある。

 この金儲けのチャンスを不意にするバカはいないだろう。


「問題は……これをどれだけ作って、売るかだ…………」


 10個売れば500万

 100個で5000万だ。


 だが、ポーションについて調べてみると、ドロップ率が低く、本当に希少なものらしい。

 それにポーションlv1程度でも傷口がふさがり、病気もそこそこ対処できるっぽい。


 そんなものを100個も売れるか?

 出所を調査されるに決まっている。


「クソッ! いっそ、レベルを上げて、めっちゃ高いポーションを1つ売るか?」


 俺の錬金術はレベルが上がれば、レシピも増える。

 今はレベル1のポーションしか作れないが、そのうちもっと高価なポーションを作れるようになるだろう。


「うーん、でも、お金……」


 お金は大事だ。

 それはブラック企業に勤めていた俺にはよくわかる。

 金こそが幸せの指標と考えてもいい。


「まあ、とりあえずはこれだけでも売るかー……」


 後で考えよう。

 50万と残っている貯金があれば3ヶ月は生きていける。

 冒険者としての収入もある。


「それよりも次かー…………」


 俺は買い物袋から小麦粉と塩を取り出し、カエデちゃんからもらった紙袋から眠り草を取り出す。

 そして、再度、キッチンに行き、別のコップに水を入れ、テーブルに置いた。


「コップを買わないとなー…………さて、どっちから行くか?」


 まあ、性転換ポーションかな?

 眠り薬は効果がわからんし、寝てしまうかもしれん。

 先に効果がわかる方だわ。


 俺は水の入ったコップに小麦粉を入れていく。


「さて! では、ハジメ君からハジメちゃんになりますか!」


 俺はコップに入った水と小麦粉をじーっと見る。


「性転換ポーションになっちゃえー!」


 すると、またもや、コップが光りだし、一瞬にして、白い液体が入ったフラスコへと変わった。


「まーじですげー。しかし、白いと牛乳にしか見えんな……」


 小麦粉だから白いのかな?


「さて、飲んでみるか……」


 さっき、錬金術について調べた時に性転換ポーションも調べてみたが、載ってなかった。

 まあ、当たり前だ。

 そんなもんがあったらニュースになってる。


 俺はフラスコを手に取ると、立ち上がり、フラスコのコルクを開けた。

 そして、腰に当て、迷いなく飲みだす。


 危険かもしれないが、何故かこの薬は安全だとわかるのだ。

 多分、スキルの影響だと思う。


「うーん、味がない! ただの水!」


 俺がすべてのポーションを飲み終えると、急に視界が下がった。

 それどころではない。

 体が重くなったように感じたうえに、身体のあちこちに違和感を覚える。


 俺は自分の体を見下ろした。


 俺はジャージを着ているが、明らかにさっきまではなかったふくらみが見える。

 そして、手を股間にもっていくとあるはずのものがなかった。


「すげー! マジで女になってるし。これで覗き…………じゃない。えっと、これ、何の意味があるんだ?」


 レディースデーにでも行くか?

 ショボいな、おい!


 俺はふと自分の髪を触る。


「長っ! どうなってんねん!」


 俺の髪は黒いが、腰まではある。

 ここまでの長い黒髪はあまり見ない。


「うーん、しょうもない薬だなー。性転換手術をしたい人にしか売れねーだろ……まあいいや。次に行こう」


 俺は最後の薬である眠り薬を作りにかかる。

 眠り薬の材料は眠り草と塩だ。

 今回は液体ではない。


 俺は眠り草をティッシュペーパーの上に置き、塩を振りかけていく。


「料理しているみたいだな……」


 俺は適当にかけ終えると、じーっと眠り草の塩和えを見る。

 すると、眠り草の塩和えが光りだし、丸薬へと姿を変えた。


「これが眠り薬かー……飲んでみるか」


 俺は丸薬を口に入れ、一気に飲み込んだ。

 そして、スマホを手に取る。


「えーっと、今は4時か――」




 ◆◇◆




 俺はふと目が覚めた。


「あれ? 俺、寝てたんか…………って、え!?」


 なんだこの細腕!?


 俺は自分が触った腕にビックリした。


「あ、いや、性転換ポーションを飲んだままだから女のままなんか…………しかし、暗い」


 俺は立ち上がると、部屋の電気をつけた。

 そして、スマホで時間を確認する。


「10時すぎ……6時間は寝てたわけか」


 しかし、この眠り薬はすげーわ。

 速攻で効いた。

 ますます犯罪臭がするな。


「うーん、麻酔の代わりとして売れるかもなー…………でも、金儲けは難しいかもしれん」


 となると、やはり現状では回復ポーションかな?


「どうしよ…………まあいいや、トイレ」


 俺は尿意を催したため、トイレに向かう。

 そして、小便をしようと思い、便器の前に立ち、ズボンを下ろした。


「あ、ねーんだわ。ウケる」


 俺は仕方がないので、座って小便をする。


「めんどくせーなー。さっさともう1個作って、戻るか」


 俺は小便を終えると、洗面所で手を洗う。

 そして、ふと、正面の鏡を見た。


「これが俺かよ…………」


 鏡に写るのは嫌そうな顔をしている美人だ。

 はっきり言って、俺の面影はないと思う。


「うーん、別人やね。これでイタズラでもできそうだわ…………待てよ!」


 そうか、この姿で売ればいいんだ。

 そうすれば、ポーションを大量に売ったのはこの女になる。

 俺ではない。


「わはは! 俺ってば、てんさーい!」

『うるせーぞ!! 隣!! 隣……あれ?』


 俺が高笑いしたせいでお隣さんからいつもの怒鳴り声がした。


「さーせん!」

『……………………』


 あれ?

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