第003話 初フロンティア


 俺は朝倉さんの説明を聞いた後、2階に行き、一番安い5万円の剣を購入した。

 剣は刃渡り70センチ程度のショートソードであり、軽い。


 正直、ものすごく心許ないが、金がないから仕方がない。


 俺は1階に下りると、暇そうな朝倉さんに手を振り、奥の通路へと向かった。

 そのまま通路を歩いていると、大きな門が見えてきた。


「これがゲートか……」


 教科書で写真を見たことがあるが、実際に見るのは当然、初めてだ。

 ゲートは幅が10メートル、高さが20メートルと聞いているが、本当にデカい。

 そしてなによりも、門の先が真っ暗で何も見えない。


「怖いなー」


 この門を最初にくぐった人を尊敬するわ。

 俺には無理。


 とはいえ、さすがにすでに安全であることはわかっているので、そのまま進んでいく。

 そして、門をくぐった。


 門をくぐった先は別世界だった。


 後ろには対になる門がちゃんとあるが、左右は草原が広がり、目の前には道がある。

 そして、その道の先には森があった。


「ここがエデンの森か……」


 ゲートは心の中で場所を指定すれば、色んなところに飛べる。

 もちろん、日本が借りている土地だけにしか飛べないが、逆に言うと、日本が借りている土地ならば、どこの支部からどこにでも飛べるのだ。


 俺は初心者御用達と呼ばれるエデンの森を選んだ。

 当然、儲けは他の場所よりも低いが、防具もロクにない初心者だから仕方がない。

 まずは慣れるところからだ。


 俺はまず、その場でジャンプをする。

 すると、いつもより身体が軽く感じた。


「これが魔力の恩恵か」


 フロンティアに来ると、魔力を得るらしい。

 それにより、地球にいるよりも身体能力が向上するのだ。


 俺は次に腰に付けたショートソードを抜き、振ってみた。

 すると、さっき武器屋で振った時よりも軽く感じ、振りも滑らかだった。


「高校の時よりも上だな。8年のブランクすら超えるのはすげーわ」


 まあ、ブランクがなかったらもっとすごかったんだろう。


 俺はショートソードを鞘に収めると、周囲の地面を見渡す。


「えっと……ステータスカード、ステータスカード……あった!」


 地面を見渡すと、すぐ後ろに黒いカードが落ちているのを見つけた。

 俺はそのカードを拾うと、カードに書かれていることを読む。




----------------------

名前 沖田ハジメ

レベル1

ジョブ 剣士

スキル

 ≪剣術lv5≫

☆≪錬金術≫

----------------------




 うーん、剣士か。

 まあ、剣を使っているし、剣士だろう。

 それに剣術のレベルが5もある。

 これは結構、すごい。

 剣術lv5は達人級とネットに書いてあった。

 さすがは俺である。

 とはいえ、これは新しく手に入れたスキルではないのでどうでもいい。


 むしろ、気になるのは…………


「錬金術ってなんだ?」


 俺、錬金術師なん?

 いや、ジョブは剣士なんだけどなー。


「確か、タップすれば、詳細がわかるんだっけ?」


 俺は講習会で聞いたとおりに錬金術の部分をタップしてみる。




----------------------

☆≪錬金術≫

  素材を消費し、新たな物を作ることができる。

  レシピはスキル保持者のレベルが上がれば増える。

----------------------

レベル1

  回復ポーションlv1、性転換ポーション

  眠り薬、純水

----------------------




 うーん、すごいような気がする。


「しかし、なんで錬金術なんてスキルが俺にあるんだろう?」


 初期からスキルを持っている人間は普通にいるらしい。

 元々、技能を持っていれば、それがスキルになるのだ。

 実際、俺の剣術がそうだろう。

 だが、錬金術なんて知らない。


「それにこの星マークは何だ? 何か特別なスキルなのかな?」


 もし、そうならラッキーだ。


「とりあえず、やってみるか…………えーっと、回復ポーションは薬草と純水がいるのか…………純水は作れるな。えーっと、純水は…………水なら何でもいいのね」


 ということは、必要なのは薬草だ。

 薬草はフロンティアに生えているらしい。


「よし、探そう!」


 俺は意気揚々と森へと入っていった。


 そして、薬草を探し始めて、5分後……


「薬草ってどれ?」


 ぼく、わかんない……


「そうだ。スマホで知らべよう!」


 俺はスマホを取り出す。


「…………うん、圏外! 知ってた!」


 ダメだこりゃ……

 このスキルは帰ってから検討しよう。

 薬草くらいならネットで買えるだろ。


「それにしても、他のアイテムは何だろう?」


 眠り薬はまあ、わかる。

 睡眠薬だろう。


 問題は性転換ポーションだ。

 名前からして性転換するんだろうけど……


 俺が飲めば女になる。

 朝倉さんに飲ませれば男になる。


 うん、いらね。

 女風呂とか更衣室に侵入するくらいにしか使い道がないだろ。


「ま、まあ、一応、必要素材くらいは確認していくか! 別に他意はないけどね!」


 えーっと!

 眠り薬は…………眠り草と塩。

 いや、眠り草だけで寝そうだろ!


 さ、さて!

 覗き……じゃない!

 性転換ポーションはっと…………え?


「水と小麦粉?」


 は?

 お好み焼きでも作んのか?


「そんな材料で覗き……じゃない。性転換できるのか………………え? 待って。これ、朝倉さんに報告するの?」


 俺は急に冷静になった。


 よく考えたら眠り薬も犯罪臭がやべーな。

 不眠症の人のためにって言ったら信じてくれるかな?

 でも、多分、一緒にご飯には行ってくれそうにないな。


 だってねー?

 眠り薬を作れる男とご飯に行きたいと思う?

 俺が女なら行かない。


「まあ、しゃーない。前向きに考えよう、まずはモンスターを倒して、ドロップだわ」


 金がないのだ。


 俺は薬草探しを諦め、モンスターを探すことにした。


 この森に出てくるモンスターはスライム、ゴブリン、ウルフだ。

 まあ、名前だけでおおよそわかるし、そこまでは強くないと聞いている。

 ただ、森の中だと見通しが利かないのでウルフの奇襲だけは要注意らしい。


「さて、行くか……」


 俺は森の探索を開始し、周囲を見渡しながら森の奥へと進んでいく。

 すると、草むらがごそごそと動いていることに気が付いた。


 俺は右手を剣の柄に持っていき、腰を少し落とし、じっと待つ。

 しばらくすると、草むらからポヨンという擬音が聞こえそうな感じで数十センチ程度のゲル状の生き物が現れた。


「スライムか……」


 どう見てもスライムだ。

 口も目も角もないが、スライムだろう。


 スライムは体当たり程度しかしてこないし、雑魚中の雑魚らしい。

 とはいえ、俺は油断しない。

 どんな敵でも初見は要注意なのだ。


 俺は静かに剣を抜くと、正眼で構えた。

 スライムは地面を這いつくばるようにゆっくりとこちらに向かってきている。


 次の瞬間、スライムがジャンプして体当たりしてきた。

 俺は冷静に飛んでいるスライムに向かって、剣を軽く振ると。スライムは真っ二つに斬れる。

 そして、ドロップ品である草を残し、煙となって消えていった。


「うん、確かに弱い」


 これならそこら辺の人間でも倒せるだろう。

 下手すれば子供でもいける。


「なんだろ、これ?」


 俺はドロップ品の草を拾い、観察する。


「うーん、雑草じゃないだろうし、多分、これが薬草な気がする」


 とはいえ、確証はないし、下手をすると、毒草かもしれない。

 毒ポーションが作れるとは思わないが、念のため、ギルドで確認してもらってからの方が良いだろう。


 俺は次にいこうと思ったが、拾った草を持ったまま、固まった。


「…………ドロップ品を入れる袋がない」


 俺、何も持ってきてねーわ。

 よく考えたら飲み水も食料も持ってきていない。


「いくらなんでも舐めすぎたか……」


 考えや対策を怠っていた。


「しゃーない。今日は試しだし、帰ろう」


 俺は草をポケットにねじ込み、来た道を引き返すことにした。


「あー、よく考えたら迷子になる可能性もあるな…………」


 そこまで奥に来たわけでもないので迷うことはないが、今後のことを考えると、その辺が必要になる。

 この世界はスマホが使えないのだからなおさらだ。


「朝倉さん、説明しろよ…………」


 俺は全部、朝倉さんのせいにすることにした。


 俺が愚痴をつぶやきながら来た道を引き返していると、またもや、草むらがガサゴソと動いているのが見えた。


 大きさ的にさっきのスライムじゃないな。


 俺はその場でじっと待つ。

 すると、今度はすぐに小さなナイフを持った小人が出てきた。

 その小人は耳がとがっているし、醜悪な顔をした緑肌のモンスターだった。


「どう見てもゴブリンだな。ほら、来い」


 俺がゴブリンに手招きをすると、それに応じたかはわからないが、ゴブリンが走って襲ってくる。


 俺はタイミングを計り、踏み込むと、そのままゴブリンの首を飛ばした。

 首がなくなったゴブリンはその場で崩れ落ち、煙となって消える。

 そして、ドロップ品として、持っていたナイフを落とした。


「ナイフねー……絶対に安そう」


 俺は汚いナイフを拾いながらつぶやく。


「まあ、いいか。帰ろ」


 俺はナイフをポケットに入れるわけにはいかないので、そのまま手に持ち、引き返していった。

 そして、ゲートまで戻ると、そのままゲートをくぐり、ギルドに帰還した。


 俺の初めての冒険はカバンを忘れるというしょうもない理由により、1時間も経たずに終わってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る