第002話 再会


 俺はあれから結局、寝ることができなかった。

 酒で潰れて、昼間に寝すぎたからだ。

 なので、スマホで冒険者について調べた。


 冒険者になるためには資格がいる。

 そのためには講習を受けないといけないらしかった。

 俺は早速、講習を申し込んだ。


 講習は週に1回やっているらしかったため、数日後に講習を受けにいくことにする。

 講習では特に試験とかはないようだが、受講料が15万もかかった。

 めっちゃぼったくりと思ったが、試験があるよりかはマシかと思う。


 だって、受かんねーもん。

 そんな頭があれば、もっと良い大学に行っていたし、ブラック企業に就職していない。


 俺は数日後、講習会場に向かうと、受付を済まし、講習を受けた。

 講習は色んな場所でやっているのだが、この会場は平日の昼間ということもあって、人はそんなに多くなかった。

 ただ、受けている人はみんな若い。

 学生っぽいのもいる。


 俺は心の中で俺も若いぞと思いながら待っていると、講習の先生(?)が会場にやってきた。

 俺達はその人から冊子をもらい、色々な説明を受けた。

 基本、俺はそんなに頭は良くないので大事なことだけをメモっていく。

 まあ、決められた範囲以外は行ってはいけないとか、法律は守ることみたいな当たり前のことが多い。


 俺は講習を終えると、終了証をもらい、講習会場を出た。

 そして、電車で冒険者ギルドに向かう。


 冒険者ギルドというのは例のゲートがある施設である。

 そこで受付を行い、フロンティアに行き、冒険をするのだ。


 俺は目的地の池袋駅に到着すると、スマホの地図を見ながら冒険者ギルド池袋支部へと向かう。

 俺はでかでかと【冒険者ギルド 池袋支部】という看板があるビルに到着すると、早速、中に入った。

 ギルドの中はロビーになっており、利用者はあまりいない。

 それなのに受付が8つもあり、アンバランスだなと思った。


 俺は8つある受付を見比べる。


 男、男、女、女…………あそこだな。


 俺は受付を見比べ、一番若くてかわいい受付嬢がいるところにまっすぐ向かった。


 俺は座っている受付嬢のところに来ると、会釈をし、講習会場でもらった終了証を提出する。

 しかし、受付嬢は終了証を受け取らず、じーっと俺の顔を見ているだけだった。


「あ、あのー……何か?」


 こんなにかわいい子にじーっと顔を見られると、緊張しちゃうんですけど…………


「沖田先輩ですよね?」


 かわいい子が首を傾げながら聞いてくる。


「そうですけど…………」

「やっぱりー! お久しぶりですぅー!」


 かわいい子がぱーっと花が咲くような満面の笑顔になった。


 えっと…………誰?

 知り合い?

 終了証を見ずに俺の名前を言い当てたってことは知り合いで間違いないだろう。

 でも、誰?


「ひ、久しぶりだね」


 俺はごまかしを選択した。

 会話をしながら探っていく作戦だ。


「え? 私のことを覚えてないんですか?」


 作戦は速攻で終わった…………


「覚えてるよー……」


 俺はそう言いながらかわいい子のそこそこある胸を見る。

 もちろん、邪な感情ではなく、名札を見るためだ。


 だが、さっと手で名札を隠されてしまった。


「覚えてませんね?」


 かわいい子がジト目で見てくる。


「うーん、ちょっと待ってね」


 俺はそう言いながらかわいい子を隈なく観察する。


 顔はかわいい。

 髪はセミロングの茶髪。

 身長は座っているからわからない。

 胸の大きさはそこそこ。


 うん、いい女だね。


 あとは…………先輩と呼んだか?

 つまり、俺の後輩になるわけだ。


 会社か、大学か、高校か……

 会社は女子の後輩がいたことはないし、中学までさかのぼるとさすがにわからない。

 ならば、大学か、高校……

 高校の剣道部の後輩?

 いや、違う。


 大学か…………

 …………あ! ゼミの後輩の子だ!


「もちろん、覚えているよー。朝倉カエデちゃんでしょー」

「20秒かかりましたね」


 数えんな。


「……ちょっとね」

「ひどい先輩ですねー」

「いやいや、朝倉さん、髪を染めたでしょ。前は黒だったじゃん」


 髪の色を変えられたらわかんねーわ。


「気分転換に変えたんです。てか、髪の色だけでわからなくなるのはひどくないです?」

「ごめん、ごめん。でも。そこまで仲良くなかったし」

「えー! たまにご飯に行ったし、家まで送ってもくれたじゃないですかー」


 …………やべー。

 ご飯は覚えているが、家に送った記憶はない。


「ごめんね……」

「これはそれすらも覚えてないな…………」


 見破られた!?


「今度、ご飯に行こうよ。儲かったら奢ってあげる……」

「おー! 先輩のくせに積極的!」


 くせにってなんだよ。

 あ、でも、デートとは言わないが、女の子を誘ったのか。

 俺、すげー!


「儲かったら、ね?」

「あ、そういえば、先輩、冒険者になるんですか?」


 朝倉さんがようやく俺が提出した終了証を読み始める。


「そそ。だから儲かったらね」

「先輩、2個上だから26歳ですよね? 今からですか? 仕事は?」

「一念発起」

「クビですかー。世知辛いですねー」


 こらこら。

 適当なことを言うじゃねーよ。

 合ってるのが悲しいけど。


「だから儲かったらね?」

「なるほどねー。そら、無職は女の子を食事に誘ったらダメだわ。でも、大丈夫。その時は奢ってあげます」


 な、なんていい子なんだろう!


「俺、失敗したらお前のヒモになるわ。よろしく」


 結構、マジで言ってる。


「絶対に嫌ですよ。せめて、成功したら専業主婦にしてくださいよ。寄生しますんで」

「まあ、冗談は置いといて、仕事してよ。残金30万切ってるし」

「ひっでー貯金額ですねー」


 ひどいのはお前。


「しゃーないじゃん。講習料が高すぎだって」

「あー、そういうクレームが多いですね。でも、そういうもんです。苦情は別の窓口でお願いします」


 この反応からして、ギルド側は苦情に辟易してそうだな……

 でも、1時間の講習会で15万は高けーよ。


「クレームじゃないから」

「まあ、そうですね。えーっと、じゃあ、進めていきますね。一応、確認なんですけど、フロンティアで何が起きても自己責任なんですけど、大丈夫です?」 


 これは講習会でも説明を受けたな。


「大丈夫、大丈夫」

「軽いですねー。まあ、いいです。次にフロンティアで得た物はすべてギルドに提出ですけど、同意しますか?」


 あれ? そうだっけ?


「持って帰っても良いんじゃなかったっけ?」


 俺も一応、調べている。


「あー……持ち帰る場合も一度は提出する義務があります。危ない未知の物を持ち帰られても困りますしね。ですので、一度、すべて提出し、そこで換金か持ち帰りです。ただ、持ち帰り不可の物もありますので注意です」


 爆弾なんかあったらマズいからかな?


「了解。それでいいよ」

「はいはーい。先輩みたいな素直な人ばっかりだと良いんですけどねー」


 こら、相当、苦労してんな。


「大変だねー」

「ホントですよ。だから愚痴を聞いてくださいね。奢りますから」


 愚痴を言いたいだけか……

 久しぶりの再会のラブロマンスは?


「はいはい。それで終了?」

「まだです。今からフロンティアに行く流れを説明します。まず、絶対に受付をしないといけません。勝手に行くのは重罪ですので気をつけてください。先輩はこの窓口ですね」

「え? 決まってんの?」

「先輩は私の専属になりました」


 いつの間に……


「専属って何?」

「先輩は絶対に私のところで受付をし、私のところに素材を持ち帰ってください。そうすると、私の査定が良くなります」

「そんなシステムがあんの?」

「今、作りました」


 おい!


「いや、まあ、別にいいけど……」


 知り合いの方がいいか……

 後輩だし、助けよう。


「よろしくでーす」

「儲かるかはわかんないけどね」

「大丈夫ですよー。先輩、剣の達人でしょ?」


 ん?


「なんで知ってんの?」


 大学では言ってないはずだ。

 高校は剣道部だったから知ってるヤツもいる。

 はい、自慢です。


「ほら、覚えてない。先輩、お酒を飲むといっつも自慢してましたよ。しまいには送っていった私の家に上がり込んで包丁で机を斬ってみせるとかほざいてましたよ」


 そいつ、あぶねーヤツだな。


「そんな男を家にあげちゃダメだよ?」

「お前じゃい」

「ごめんね」

「その気持ちで頑張ってください」


 よし! 俺、朝倉さんの専属になろっと!


「はーい」

「じゃあ、次です。冒険者はフロンティアに行き、様々な素材を取ってくるのが仕事です」

「知ってる」


 その素材を売って儲けるのだ。


「素材は拾ってくるでもいいですが、一番いいのはモンスターを倒し、ドロップすることです」


 フロンティアにはモンスターがいる。

 そして、そのモンスターを倒すと、煙のように消え、代わりに色んなアイテムを落とすのだ。


「よーわからんけど、知ってる」

「私もわかりません。モンスターは強いのもいれば、弱いのもいます。気をつけてください。無理と思ったらすぐに逃げてください」

「そらね」


 いのちだいじにの精神でいこう。


「次にレベル、ジョブ、スキルの説明です」

「それも調べてるけど、聞いとく。あ、メモする」


 俺はポケットからスマホを取り出した。


「先輩、スマホ、昔のままなんですね」


 よー覚えてんな。


「変えるタイミングがなくてねー」


 忙しかったし、めんどくさかった。


「ですかー……じゃあ、説明しますよ」

「おねがい」


 俺はスマホのメモ帳を開いてメモの準備をする。


「まず、フロンティアに行くと、ステータスカードというカードが現れます。これは絶対に失くさないでください。それが先輩の冒険者としての証明になります。また、それはギルドで管理しますので持ち帰って提出してください」

「はいはい」

「そのステータスカードには先ほど言ったレベル、ジョブ、スキルが書かれています。他人には見せない方が良いですが、ギルドは管理しますので報告してください。まあ、ステータスカードを見ればわかるんですけどね」


 これは冒険者のスキル情報を知っておかないと、犯罪に使われた場合に困るからである。

 たとえば、透明化のスキルがあるとして、何かの事件が起きた時に透明化のスキルがどんなもので誰が持っているのかを知っていると知らないとでは大違いなのだ。

 そして、それが犯罪抑制にも繋がる。


「りょーかい」

「では、説明は以上です」

「短くね?」

「本当はもっと丁寧に説明しますし、まだ言わないといけないこともあるのですが、後にします。先輩では覚えきれません」


 めっちゃバカにしてるし。


「お前、先輩に対してひどくね?」

「後輩を忘れてた人が何を言っているんですか?」


 ごもっともです。


「さて、では、後輩に奢るための資金を稼いでくるかな」

「その前に武器を用意してください。丸腰で行く気ですか?」


 …………だね。


「武器は何でもいいの?」

「武器はこのビルの2階で売ってます。ちなみに、3階が防具です。先輩はお金がないでしょうし、とりあえずは武器だけでいいです」

「武器も高くね?」

「ピンキリです。30万しかないなら安物の剣を買ってください。5万円です」


 5万……

 高いなー。


「ちなみに、刀とかない?」

「あります。一番安いので50万円です。おとといきやがれ」


 朝倉さんがニコッと笑う。


「高いなー」

「素材が普通の鉄とかじゃないんですよ。フロンティアの素材です。早く稼いで刀を買ってくださいよ」


 そうしよう。


「頑張る」

「では、武器を買ったら奥に進んでください。そこの通路の奥にゲートがあります」

「よっしゃ!」

「最後に…………必ず生きて帰ってください。フロンティアは夢の世界ではありますが、多くの人が犠牲にもなっています」


 それはもちろん知っている。

 毎年、少なくない犠牲者が出てる。


「俺が死ぬわけないじゃん」

「そうですね。頑張ってください、先輩」

「任せとけ」

「…………ちなみに犠牲者で一番多いのは先輩みたいなクビになった人や脱サラ組です」


 嫌なことを言うなー……

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