9 五十年後

彼が、行方不明になり、半世紀がたった。姫子は今でも、彼が見つかることを願っているが、なかなか見つからない。

「では、相川姫子さん。お話願います。」

「はい、私は今から半世紀ほど前、相川遠也という、同い年の男子に出会い、結婚しました。」

「それで、遠也さんとは、いつ結婚したのですか。」

「大学二年生の時です。」

「それで、子供の出産が大変だったのは本当ですか。」

「はい、本当です。」

「どのように、大変だったのですか。」

「彼が妊娠を知ったとき、彼は子供のとき、身体が弱かったと聞いてました。」

「それで、遠也さんはいつ、行方不明になったのですか?」

「あのときです。」

「異変が起きた時です。」

「異変とは?」

「白血病です。」

「そのあとは?」

「彼は、どうしようか迷ったあげく、私にこう話してきました。彼は長野県、富士見町という町で生まれ、彼が一歳のとき両親が離婚し、母親に引き取られ、父が一年後多重事故で死んで、母は入院し、一人ぼっちだったんです。」

「そうですか…。」

「もし、色で表すなら黒ですね。」

「ありがとうございました。」

彼女の目には、涙がたまっていた。

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