炎使いと氷の弟子

おくとりょう

第1話 お師匠

「……よし。これで、おーしまいっ!」

 先生はトンっと杖を下ろし、ため息混じりに呟いた。高めにまとめた総髪をバサッとほどくと、長くうねった黒髪が辺りの熱で静かに波打つ。

 彼はいつだって綺麗なのだけど、僕は仕事終わりのこの横顔が一番好きだ。炎に煌めく髪の間から覗く、陶器みたいに滑らかな肌。すすと返り血で汚れているけれど、それが白さを際立たせている。燃える魔物をじっと見つめる深い瞳は、長い睫毛の奥で憂いを含んで、少し潤いを帯びてるような気がする。

 あぁ、きっとそこには彼が殺した相手しか映っていない。だから、僕はいつも――。


「ほな、帰ろか。

 お腹減ったぁ。今日は晩御飯つくってくれるんやんな?ハンバーグが食べたいなぁ」

 振り返ってニッコリ微笑む先生。その無邪気な笑顔は返り血もちょっぴりついていて、ヤンチャな男の子みたいだった。僕はそっとその血をぬぐって、言葉を飲み込み、笑みを返した。

「……。惜しい、今夜はミートローフです」

「ホンマに?やったぁーっ!ミートローフって、ハンバーグみたいなヤツやろ?ほとんどうてるやん!いっえーい、楽しみぃー」

 パチンっと指を鳴らし辺りの炎を消すと、先生は鼻歌混じりに歩き始めた。薄暗い森には静寂が戻り、何もなかったかのように、冷たい木枯らしが吹き抜ける。

「待ってくださいよ。そんなに焦るとこけまますって……あぁー。ほら、もう」

 先生のローブをはたく僕の胸はほっこりポカポカ温かかった。まるでさっき消したはずの彼の炎がうつったみたいに。

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