翼の難事件 なまくら刀殺人事件
翼タイム
第1話
『なまくら刀殺人事件』
1
高校の教室で授業が行われている。
「ここがこうだから、こうである訳で……」
教師が、チョークで黒板に書きながら、授業の内容を説明している。
「あー、うめえ。おいしい」
高校二年生の本宮翼は、そう喜びながら、弁当の前にノートを立てて早弁している。
翼は、学力は全然ダメだが、IQは二〇〇で、今までいくつもの事件を解決している。世間では、少しだけ有名である。
「ちょっと翼ちゃん、懲りずにまた早弁なんかして……。バレたら、また先週みたいに廊下に立たされるわよ」
翼の横に座っている、光木レイナが促す。
レイナは、翼の幼馴染でクラスメイトである。
「大丈夫、今日はバレないように、匂いがもれないこの容器に入れてきたから」
「もぉ、しーらない」
レイナはそう言って、そっぽを向く。
「今日の弁当も最高だぜ」
翼は、そう食べていたら、
「ん? いたっ!」と虫歯が響き、右手で右頬を抑える。
翼の声を聞いて、教師が席まで歩いてくる。
「こら本宮! またお前は性懲りもなくそんな事をしおって! 廊下に立っとれ!」
教師が、廊下を指差して叫ぶ。
「へーい」
翼は席を立つ。
「ほら言わんこっちゃない」
レイナは、廊下に歩いて行く翼を見て呆れる。
昼休み。翼、レイナ、レイナの友達の三人は、教室で話している。
「くっそー、ついてないぜ。食べ終わりで虫歯が響くなんて……。まっ、歯科医の予約はもうしてあるけど」
翼が不貞腐れる。
「きちっと毎日歯磨いてないから、そんな事になるんじゃないの?」
レイナが、弁当を食べながら聞く。
「バーカ、俺は毎朝毎晩、ちゃんと磨いてるよ」
翼は、強く返す。
「それより翼ちゃん、三ヶ月後の約束ちゃんと覚えてるでしょうね?」
「約束?」
「ほら、今週の土曜日、坂田警部が、以前事件を担当した依頼者の方から山形の別荘に招待されて、警部と私達で一緒に行くって言ったあの話よ」
坂田警部こと、坂田武は、翼とレイナの知り合いである。
「山形? 別荘?」
翼は、そう不思議そうな顔をすると、
「あー、思い出した。そういや一か月ぐらい前、そんな話してたなあ」
と、口を大きく開けて天井を見る。
「えっ、なになに? デート?」
レイナの友達が、レイナに冷やかす。
「違うわよ」
レイナは怒ったように返す。
「あっ、その日は無理だ。その日は丁度、歯科医の予約を入れてるんだ。
レイナ一人で行ってくれよ」
「だめよ! もう二人分のバスの予約のチケット貰っちゃったんだから。
翼ちゃん、行かないって言ったら、翼ちゃんのお母さんに言いつけるから」
「はあー、坂田警部と関わると、いつもロクな事ねえからなぁ」
強気で言うレイナの言葉に、翼は、がっくり肩を落とす。
2
土曜日。翼とレイナと坂田武の三人で、バスに乗りながら、山形の別荘に向かっている。
「ふうー、天気もいいし楽しみだなぁ」
坂田が、気分良さそうに、窓の外を見る。
「本当そうですよねえ」
レイナも同調する。
(ふんっ、あんたといると、いつもロクな事がねえんだよ。あー、それにしても歯が痛え。明日帰ったら、すぐ予約取り直さねえと……)
翼が、坂田を見ながら、心の中で愚痴をこぼす。
「以前、関わった事件の依頼者は織田さんと言ってなぁ。とてもお金持ちなんだ。きっと、別荘はいいところに違いないぞ。
なんたって、貿易会社の社長さんだからなあ」
「へえー」
坂田の言葉に、レイナが期待を膨らませる。
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