ナイトストーリア

あさひ

 ストーリア《ある騎士の始まり》

 群青が支配する雲一つない空

しかし騎士団の食堂で

皿を積んでいく女性には興味すら持たれない。

 食道楽に走るのは悪くないが

見た目に気を配れば光るタイプの騎士だろう。

 誰もがそういった印象を持つが

目標がないだけで進む道を知ればどこまでも走る

そういった性格は一応にも有していた。

「カリン…… お前はなんでここにいるんだ?」

「ほうひましたか?」

「任務を頼んだはずだったがな」

 依頼書を横に置いたまま

食堂の限定メニューであるチキンの香味炒めを

パンと共に頬張り続ける。

 結果的なことを言う

部隊を待たせていた。

 女性騎士団長でありながら

仕事は書類整理が多く

管轄の騎士団長とバカにされる。

「任務ならまだ時間が……」

 無理に飲み込み

腕につけていた魔道具を見ながら

絶句した。

「気が付いたか? 待ち呆けていたぞ?」

「そっそうですか……」

「大丈夫だぞ? 後衛から前衛にしておいたからな」

 後衛と前衛の違いは仕事の量の違いだ

後衛は休むことが許されるが前衛は警戒に加え

観測と会敵時の判断や神経と行動に気を配る。

「でなくては納得されんからな」

「そうですよねぇ……」

「早く行かなければ減給も検討せねばな」

 そう聞くまでもなく

流れるような走りで屯所前に走り出していた。

 その様子に安堵した大人びた女性

実は先ほどの女性騎士より若く

出世がとても早いで有名になった。

 だからこそ

管轄の騎士団長とバカにされる。

「カリンさんは本当は出来る女性なんですがね」

 その言葉に食堂のおばちゃんは

頷きながら苦笑していた。

「あの娘は食べることが好きみたいでねぇ」

「理由は知っているので申し訳ないのはありますね」

「そうなの? 私はここに最近来たからねぇ」

 少し難しい顔で逡巡した後に

話を続ける。

「実は財政難を拭えずにいました」

「財政難? そうは見えなかったけど?」

「私利私欲に走っていた団長がいましてね」

 空を仰ぐように切ない表情をした

腕を握りながら不甲斐なさを語り始めた。

「単純な理由でした……」

「どういう意味なの?」

「報酬を請求されなかったからです」

「ん? されなかった?」

「はい…… カリンさんは団を心配して過度な報酬を計上しなかった」

「他の人が代わりに嘘をついてせしめていたのかしら?」

「その通りです……」

 管轄がおざなりで

報酬を横取りするやからは少なくない。

 経理を担当する部署が

莫大な資産が流れる姿に魔が差した。

「我慢を強いていました」

 どれだけの強大な魔物を狩ろうとも

報酬を断らせるほどに横取りが激しく

大概が情報を知っている輩の嘘が原因である。

「知っているだけというより監視しているだけで

金貨を何百枚も得られるなら誰でも魔が差すでしょうね」

 カリンが大食いに走るのは

腹を空かせてでも我慢しながら毎日のように

討伐に邁進したからだ。

「叱る資格がないかもしれませんね」

「そんなことないわよ? リーフィさん」

「ん? どうしてですか?」

「カリンちゃんは食堂が新しくなったことを

ひどく喜んでいたわよ」

 食堂にはこれまでメニューが少なく

安いものしかなかった。

「それは罪滅ぼしです……」

「お互い様らしいわね」

 よくわからない言葉を口走る食堂の料理人に

疑問を浮かべる。

「それはどういう意味ですか?」

「代価を請求することが出来なかったから

管轄の騎士団長にしてしまった」

 カリンがいつもボヤいている言葉だ

それを食事をする度に洩らしていた。

「過ちはつきものだけどねぇ……」

「だけど?」

「トラスト討伐戦を覚えているかしら?」

 少し戸惑いながら頷くリーフィ

トラスト討伐は騎士団のある街

アルスアンバーに大打撃を加える。

 そしてリーフィは戦線こそ違うものの

ある立場で参加していた。

 経理部門という原因の担当課であり

報酬の管轄である。

「私財を投じたんじゃなかったかしら?」

「ええ…… 財閥の令嬢という形で参加していました」

「カリンちゃんの方が申し訳ないと思っているわ」

「なぜですか?」

「えっと…… わからないかしら?」

 驚いた様子で食堂のカウンター越しから

覗き込んできた。

「もし報酬を少しだけで良いと言えていたら

負担を掛けなかったし、騙されはしなかった」

「良いと言えていたら?」

「きっと無駄に払わなくて良かった

それ以上にあなた自身が

お金を手に入れるために奔走しなかった」

 嘘で自身の立場を落としていく

財閥の令嬢がプライドも思いも捨てて

金持ちの護衛をしている。

「嫌なことも言われても耐えるしかなかったんでしょ?」

「それは仕方ありま……」

 理解した様子でカウンターの方を向く

単純に痛かったのだ。

 嘘の報告をした連中は

街の酒場で謳歌するほどにヘラヘラと笑っている

それなのにリーフィはお金のために嫌なことに耐える。

 カリンは地獄だった

討伐は重要だし、逃げれない。

 リーフィが苦しむ原因のために命を削る

なんと惨たらしいと世界を恨んでいた。

 言葉が届かない

階級制度すら変えようと必死になる。

 しかし届かなかった

報酬なんかいらないから

花が咲いたような女性の笑顔を望んでいた。

 しかし嘘をつく連中は

悦楽のために無下にする。

【毎日のように心を削り命を削った】

【嘘つき達が貪っていく】

【なんのために?】

【正義なんてどこにもいない】

【届かないんだ】

【弱いから? 望まないから?】

【ねえ…… 教えてよ】

【なんで苦しいのに逃げないの?】

【なんのためになんだよ!】

【うあぁああああああああああああああっ!】

 そんなことを叫びながら魔物を狩り続けて

性格が一変した。

 それがカリンという女騎士であり

リーフィの訓練候補生同期という女性だ。

「覚えていた……?」

「そうみたいよ」

【もし騎士団に

戻って来たなら私が前線で

リーフィは指揮官だね】

 その夢が苦しめていたのだ

縛ってしまったのだ

苦しい地獄に引きずり込んだ。

 夢があれらの餌にされ

理想をバカにするやつらが君から

様々なものを奪い取る。

 命の在り方も何もかもが

わからなかったのだ。

【わからない癖に奪うな……】

【優しさも笑顔もあいつらのものじゃない】

【許さない……】

 男性を信じられなくなった

全てが奪うために近くにいる。

 そう見えてきたのは

濡れ衣を着せられ始めたのが始まりであり

その証明のために護衛ばかりをしていた。

 少しでも情報が欲しい

被害はリーフィだけではなく

あらゆる女性ばかりで

罪まで着せてきた男達は嘘によって

女性たちから信頼すらも奪う。

 ある時には悪魔の化身とも

嘘つきなどと罵られた。

 証明するために

自身の信頼を捨て置く

それが最善とみなし

銭ゲバを演じる。

【私は悪魔だからどうせ迷惑な存在だから】

【暴けるんだ】

【きっと最後には笑ってもらうんだ】

【美味しいねって言ってもらうんだ】

【辛そうな顔なんて二度と見たくない】

【そのために演じるんだ】

 これは愛情だろうか

それとも狂気だろうか

可笑しいだろうかな

痛いよ 辛いよ 苦しいよ

息をするたびに肺が潰れそうだ

心臓なんて生きた気がしない

でももっと苦しいんだ

リーフィはもっと痛くて苦しいんだ

文句も言ってしまうけど

こんな程度なんだ 私の痛みは

こんな程度で済んでいるんだ。

 そんなことを少しずつ吐いていた

傷だらけの足も眩むような空腹も

理不尽なこともしなければ攻撃の目を向けらない。

 恐ろしい化け物でなければ

きっとひどい目に遭う。

 今以上に苦しいことに

遭ってしまうんだ。

【嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ!】

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ナイトストーリア あさひ @osakabehime

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