山茶花の君を守りたい!

茶葉まこと

第1話 何で来ちゃったんだろう

「植物園…?」


 仕事終わりの帰り道。ふと目に入ったのは、植物園の案内看板だった。

毎日通っている道なのに気付かなかった。いや、違う。いつも忙しすぎて景色を見て歩くなんて余裕がなかったのだ。


まあ、今も余裕があるわけじゃないんだけれど。本当に『たまたま』うん、この言葉に尽きる。私は肩からかけた鞄をもう一度かけなおして、看板に近づいた。


 どうやら閉園時間30分前だ。今ならギリギリ入れるだろうか。いや、もしかしたら受付の人に断れるかな、うーん、って悩んでいる間に時間が過ぎてしまっては勿体ない。


すう、と息を吸って私は植物園の受付へ足を運んだ。




「すみません、まだ入れますか?」

「大丈夫ですよ。」

「ありがとうございます。」


 深々と頭を下げ、入園料を支払って私は植物園の門をくぐった。



「広…。」


入ってすぐ後悔した。思いのほか植物園が広かったのだ。いくらローヒールの靴とはいえ、ヒールはヒール。この植物園を一周するにはちょっとキツイ。


それに閉園時間間近で日が落ちてきている植物園は、人がほとんどいない。

さわやかな雰囲気とは程遠い。薄暗さがほんの少し恐怖心を抱かせる。


まだ門をくぐってものの数分しか歩いていないのに。

はあ、とため息交じりに、私は近くにあったベンチに腰を下ろした。


ヒヤっと冷たい風が頬を撫でる。はあ、私何してるんだろう。無駄足だったかな。





「何で来ちゃったんだろう。」


ポロリと口から零れる言葉。




「花を見るためじゃないですか?」



顔を上げると、そこには知らない青年が立っていた。彼はにっこりと人懐っこい笑みを浮かべている。外灯が丁度彼を照らし、まるでそこだけスポットライトが当たっているようだった。






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