崩れるバランス

 ~きっとどこかにある、4000年の歴史の国~


 この国を象徴する赤い旗をバックに、この国の主導者、国家主席は目の前にある世界地図を眺めていた。


 50年以上かけて、この国は大きく成長した。東の果てにある自由と正義(笑)を掲げる自称世界の警察にも負けない軍事的、経済的実力を身に着けた。


 まあそれの為にいろいろ犠牲に放って現在進行中でいろいろゴタゴタ起きているが、それはそれ、これはこれだ。


 政治の本質とは失政である。誰もが幸せになるというのは、言葉自体が矛盾している。幸せとは総体的な者だ。1という幸せの裏には1の不幸がある。


 これは当然の摂理だ。


 政治と言うのはそもそもが、誰かを不幸にするものである。


 重要なのはその不幸を無駄にしない事。

 しっかりと未来の偉業に対する礎にすることである。


 まあ現在進行形で半端ない数が死んでいるが

 ウン十年前の主席に比べれば誤差だ誤差。


 国の礎は人、そして人は石垣、人は堀、人は壁とはよく言ったものだ。

 実際この国の世界遺産である長城には、建設当時に死亡した労働者が人柱として壁に埋め込まれているのだが。


 まあ人間が一番安い国なのだから使いつぶさなければならない。

 為政者がすべき統治とは、大きな目的に対して小さな犠牲を払わせ続けることだ。


 ナヨナヨと民草の顔色をうかがって、「してもよろしいでしょうか?」などといった考えをもつのは、今の時代の皇帝がすることではない。


 必要なの棍棒と警察、そして党の政治だ。


 何十年もかけて、ようやく「東風とうふう」は敵対する諸国にばらまける充分な量が揃った。これを抑止力として、を起こすにはもう十分だろう。


 ようやく時は満ちたと言ってもいい。


「国家主席!!わが国でもついにアレが発生しました!!」


「言葉は正確に使いなさい。国防部長」


「アレコレソレ、私はお前のお母さんではない。ちゃんと説明しないと、次からはその部長の椅子に、新しい虎が座ることになるよ」


「消えました!『東風』が……!北夜鮮でも起きたあの現象です!!!」


「?!どういう事か!!」


「わかりません……これでロチアも含めて、我が方の核兵器は……そのほとんどが失われました!!」


「東西の核バランスの崩壊により、ナメリカから空母打撃群を含む艦隊が3つ、ハアイ、キシナワに展開を始めています。連中には筒抜けです!!」


「となるとやはり、ナメリカを中心とした西側が何かしているという訳か……」


「おそらく、間違いないかと」


「ふん、ナメリカめ、串国を甘く見たことを公開させてやる。我々は核兵器だけを頼ってきた訳ではない。北夜鮮と違って、串国は通常兵器にも十分な力を入れている」


「ハッ!!既に機械歩兵の準備は揃ってございます!!」


「ナノテクノロジー、コンピューティングの発達により、我が国の兵士一人一人は。もはや世紀の英雄と言ってもいいレベルになっている、であったな?」


「はい。ナノテクスーツと外骨格フレームにより、今や串国兵士個人の武装は、主力戦車とほぼ同等のレベルにあります。前近代的な軍備しかもたないナメリカに負ける我々ではありません」


「連中がその気なら、答えてやるまでだ。ロチア、イルン、北夜鮮と連絡を取れ。ようやくにして全ての問題を解決する時が来たのだ」


「通常兵器であればその質と数で負ける串国ではない。ナメリカめ、まだ自分たちが勝っていると思い込んでいるのなら、その幻想をぶち壊してやる」


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「おぉ~早速やる気出し始めてる。いいねいいねぇ、こうでなくっちゃ!」


「ニャルが喜ぶ姿を見ると嬉しい反面、ロクなことにならないだろうなっていう予感がすごいわー」


「まあ、そのためにしてますから?」


「でもすごいね、ニャルの言うとおりになった。普通強い兵器が無くなったらビビッて仲良くするもんだと思った」


「戦争の始まりって不思議なもので、負けに入ってる方から殴りかかるもんなんだ。差が広がりきって、絶対に負けるって前に仕掛けるパターン、これがとても多い」


「へえ?じゃあ串国っていう方がニャル的には不利なんだ?」


「うん、この串国って実は戦略資源の殆どが、自分の国では手にはいらないんだよね。掘り尽くせなくて残っているのは、石炭と鉄鋼くらいかな?」


「あらら……じゃあ串国って兵器の材料、ほとんど手に入らないんだ?長期戦になったら絶対負けるんじゃない?割とすぐ終わりそうだけど?」


「いやぁどうだろ?負けは認めなきゃ負けじゃないんだよぉ!!っていって案外続けるかもわかんないよ?」


「そんなおバカ、フツーいないでしょ?」


「なんだけど、そんなおバカは意外といるんだよね、しかも結構高い位置に」


「諦めの悪い奴って失敗してもそれを認めずに延々とチャレンジするから、いつの間にか偉くなってたりするんだよね」


「あー。」


「さて、大体やりたかった方向にこっちは動き始めたから、もう片っぽをどうにかするとしますか」


「ああ、例の子ね?なんか結構な動きになってるけど、こっちもニャル好みな展開になりそうだよねー」


「うん、どっちを見たらいいか、困っちゃうね☆」


「あんた、かおの形なんてないんだから、両面にして見ればいいじゃない」


「それはいいね!マイのそのアイデアで行こう!」


 ニャルの顔、そう言っていいか定かではない部分が形を変える。


 不定形の夜空に星が瞬くような暗黒の頭部はぐにゃりと曲がって、その名状しがたい形状をした、生物が光を感知する器官に似た感覚器で、「切れ目」を見据えた。


「じゃあさっそく、彼を取り囲む状況を見てみるとしよう」


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