魔物(けいけんち)を育てたら魔王様と呼ばれるようになっていた
可空幼虫
第1話 ブラックパーティーで加入十年目のおっさん冒険者
冒険者ギルドのそばにある酒場、午後六時。
冒険者の仕事を終えたパーティーが、依頼報酬の金や物を分配している中、
その片隅で一つのパーティーが暗い雰囲気で話をしていた。
「なあ、ディア……悪いがパーティーを抜けてくれないか?」
「……はあ?」
何を言っているのかわからない、とパーティーの神官職……ヒーラーのディアは耳に小指を入れて数回まわす。
「ごめん、よく聞こえなかった。ハハハ、こんなに耳垢が溜まってたよ。で……」
ディアは耳に手を当てて首を傾げる。
「ナンダッテ?」
言いづらそうに二つ年下の戦士は顔を顰める。
「ディアさんレベル低いし……」
「うん、レベル10ってのはありえないよ……」
「ディアさんと同じくらいの年齢の人なら30台くらいにはなってるわよね」
パーティーの魔法使いと女武道家が追い打ちをかけるように続ける。
「ああ、そうだな。お前達をレベリングするために十年間お前達を優先にして経験値を捧げてきたからな。パーティー畜と呼ばれバカにされたが、俺はこの待遇で頑張ってきた。お前達は十分強くなったし、そろそろ俺のレベリングでもするのか?」
「いや、それも考えたんだけどさ。ディアさんをレベリングするよりも、新しいメンバーを入れてレベリングした方がいいかって話になったんだよね、ほら若い方がレベル上がりやすいしさ……ね、ねえ?」
「そうだな、お前達には苦労をかけると思う、ごめんな」
「いや、だからさ……」
婉曲にパーティーを抜けてくれと言う戦士と、理解できないフリをするディア。
いえいえ、どうぞどうぞ。いえいえ、だから……。
そんな無駄な遠回しなやり取りにしびれをきらした魔法使いがテーブルを両手で叩いた。
「もう、はっきり言いなよ!」
戦士が覚悟を決めたように、逸らしていた目を俺に合わせ、強い口調で言った。
「ディア、お前には感謝してる。だがもうお前は必要ない。抜けてくれないか?」
「……ナンダッテ?」
「……ディア、お前には感謝してる。だがもうお前は必要ない。抜けてくれないか?」
「……すまんが、隣国の島国の言語で言ってくれないか、イントネーションがよく理解できなくてさ」
もちろんディアは大陸生まれの大陸育ちである。
「隣国って言ってる時点でお前の国じゃないだろ……」
そして茶化して誤魔化そうとしたディアの次の言葉を遮り、戦士はもう一度言った。
「お前の代わりはもう居るんだ。すまない、抜けてくれないか?」
ディアは首をやれやれと軽く横に振る。
「もう、ざまぁ系はオワコンだって聞いたぞ、考え直してくれないか?」
「大丈夫だ。明らかにお前よりも優れた人材だからな」
「いやいや、俺が抜けたらお前達はまともに依頼を受ける事すらできなくなるぞ?落ちぶれて、『あぁ、ディアを残しておけば!』とか言っちゃうんだぜ?」
「大丈夫だ。明らかにお前よりも優れた人材だからな」
「女武道家も『レベルが高くなっても強くなれるとは限らないのねわよ!』とか言っちゃうんだぜ?」
「ディア、もしかして『わよ』ってつければ自然に女言葉になると思ってないわよね?」
「違うのわよ?」
「そういう舐めた態度をしてると女性蔑視で炎上しちゃうわよ?」
「まあ、とにかく、『ざまぁ』だったか?その心配はないんだ。だってもうお前抜きで何度か依頼を受けてるからな」
酒場から出ていくパーティーメンバー。いや、元パーティーメンバー達を眺め、ディアは酒を追加で注文し、ただ一人で泣いた。
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