19.次の依頼を聞いた
ケラックの実を収穫した見返りは、ギルドでもらう報酬以外にもあった。
甘味になるということで、管理人さんが持ってる作業場で作ったケラックゼリーを、お土産にもらったわけだ。やったね。
そう高いもんじゃないんだけど、あまり食べる機会ないんだよね。冒険者は、とにかく肉メインでがっつり食うもんだから。
「甘いです!」
冒険者ギルドの一角、食堂にて。リュントがそのケラックゼリーをひとくち食べて、赤い目をキラキラさせてるのはかわいい。ドラゴンだし、冒険者より余計に甘味に縁がなかっただろうしなあ。
「おお、そりゃ良かった」
「頑張った甲斐がありました。こんな素晴らしいものを、お土産としていただけるなんて」
もふ、もふ、もふ。
美味しそうに一口ずつ含んでは、しっかりと噛みしめる。半透明の白いゼリーはほんのり甘くて、依頼を終えた後の一服にはちょうどいい感じだよなあ、あー、この歯ごたえのある甘みがおいしい。
「ケラックゼリー、好きになったみたいだな」
「はい!」
「収納スキルでいくつかしまってあるから、ぼちぼち食べような」
お土産も、食料品である。ちゃんとしまい込んであるから、いつでも新鮮な状態で食べられるようにしてある。
まあ、そういうのは収納スキルを使う者には当然のことだからいちいち口にはしないけど。マジックバッグ含む。
「やりました! お仕事頑張った、ご褒美にします」
「そうしろそうしろ」
スキルはともかく、リュントのきらきら顔はなかなか見られるものではないと思うので堪能させてもらおう。
娘に喜ばれるお父さんの気分である。あ、やっぱ父親か、俺。
見た目は俺とリュント、そう変わらないんだけどなあ。三年前はリュント、手のひらサイズのトカゲだったからなあ。
「さて。次なんだけど」
ケラックゼリーを食べ終えたところで、椅子に軽く座り直す。既に次の依頼は受けていて……というか事実上強制というか。
やるべき仕事だってのははっきりしてるから、俺も受けたんだけどね。
「……何かありましたか、エール」
「荷物を運ぶ依頼があってね。俺にはちょうどいい仕事なんだけど、届け先がな」
「もしや、『竜殺し』コルト周り、ですか」
「まあ、そんなところ」
俺とコルトたちのこと、リュントはしっかり知ってくれてるから話しやすいな。あと、『太陽の剣』が大きな依頼を受けて外に出ていることも。
「正確には、ヒムロ伯爵領の冒険者ギルドまでポーションや毒消し、あとついでに食料品などのアイテムを運んでほしいってものなんだ。普段なら荷馬車が出るんだけど、ドラゴン騒ぎで敬遠してるみたいでね」
「そういうことであれば、エールは確かに適任ですね」
荷運び屋だけでなく、収納スキルを持つ冒険者が適任な依頼。危険な地域への輸送が、次の依頼である。
暴走したドラゴンを討伐するために出ている冒険者たちへの補給もそうなんだけど、現地の住民たちの生活を守るために必要な物資を送るってのが重要だからね。
「もちろん俺たちだけじゃなくて、他にも荷運び屋とかが別れて出ることになってる。魔物の襲撃を受けても、幾分かは運び込めるようにね」
「わかりました。私は全力でエールを守り、ついでに同じ依頼を受けている冒険者も守ってしまえば良いのですね」
あーうん、一応依頼の内容についてはご理解いただけたようで何より。
ただ、リュントはどうしても突っ走るところがあるよね。サーロの街まで一人で来て、その後は俺と二人パーティだから仕方ないのかな。
「できるならやってくれると助かるけど、他の冒険者パーティは基本的にもっと戦闘力あるからね。ちょっとお手伝いするくらいで、いいと思うよ」
ちゃんと、そのあたりの話はしたほうがいいよね。周りに迷惑かけないためにも。
「それに、ピンチのときならともかく普通は、パーティ内で連携して戦うもんだからね。もしかしたら、リュントの行動がじゃまになることだってありえる。そのあたり、気をつけてほしい」
「……」
まあ、俺だってろくに連携とかしてこられなかったけどさ。でも、それなりにコルトたちの動きを見ながら動いてた、と思う。
せめてリュントには、人の中で冒険者として生きて行くのに問題ないようになってほしいから。
「……私は、ソロでの戦い方しか知りません。エールに迷惑をかける訳にもいきませんし、他のパーティの戦い方を見て学ぼうと思います」
そうしてリュントは、ちゃんと分かってくれたようだ。
どうしても俺を中心に見てしまうらしいのだけれど、俺の周りにも気を使ってくれるようになれば。
「そうだね。今後、他の人たちと連携して戦うことがあるかもしれないし」
「しっかり働いて、エールの力になれるよう頑張ります!」
「あくまでそっちなんだ?」
本当に俺、なんだよな。名前つけたのが縁、ということなんだろうけどさ。
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