第22話
奏でと別れた俺は家に帰りベッドで寝転がっていた。完全にやる事を無くしだらけてしまっている。
奏は無線通信機で拠点にいる人間と通信をしながら、パトカーを使い拠点まで行く事にした。車を使うと非常に目立ってゾンビが集まってしまうが、車の中ならパトカー自体の車体の強度もあってしばらくは保つだろうと考えた結果だ。
その後はパトカーが近づいてくるのを見つけた拠点の人間がゾンビに対して囮なりつつ、上手くフォローをして拠点にパトカーごとひきいれるつもりらしい。
俺はその詳細を奏が通信して話している横で聞き、ひとまずそれなら余程の事態が起こらなければ無事辿り着けるだろうと思った。
その後は特に会話も無く、あっさりと奏と俺は別れてしまった。
「はぁ……俺はどうするか……」
正直映画や漫画を見る気にはなれない。奏と後に合流することを決めたのは俺だ。俺の問題を解消するために行動する必要がある。
俺の問題はゾンビに狙われないこの体質だ。この謎を解明するために俺は自身のことを知っていかないといけない。俺という劇薬を内紛に繋げないためだ。
しかし……どうすればいいのかは全く思い浮かばない。そもそも俺自身の謎な体質なんて誰が分かると言うんだ?どこに行けばわかる?
最初に思いつく選択は俺の事を噛んだ女子高生のゾンビだ。思えばあいつだけ他の奴と比べて知性が高いように見えた。窓を割って鍵を開ける行動、これを他のゾンビもできていたらきっと厄介だっただろう。
しかし蓋を開けてみればそんな知性ある行動をできるゾンビは他に見当たらなかった。これはつまり、あの女子高生のゾンビが特殊体だということに他ならない。
だから俺は噛まれてもゾンビにならなくなり、このおかしな体質になってしまったのだ。
だからその女子高生を探すことが俺の謎を解明するのに一番手っ取り早い。しかし……その女子高生がどこにいるなんて分かるわけがない。
「ゾンビって生前していた行動を繰り返すって聞くけど、そうなるとあの女子高生のゾンビはどうなるんだ?」
普通の女子高生があの昼過ぎの時間帯にしていることと言ったら学校での生活だ。ならその学校を探すべきなのだろうけど……正直あの制服を見ても学校名は思い当たらない。
しかも俺が噛まれたのはこの家の中だ。普通学校にいるはずのあの女子高生のゾンビが俺の家の近くにいるのもおかしい。
「はぁ……考えても無駄な気がしてきた。後回しだなこりゃ」
見つかる気がしない。遠くにいないことは確かだと思うが、このニ週間であの女子高生の着ている制服すらも見かけなかった。
スマホを使って一つずつ近くの学校を探すのもありだが……中々に効率が悪い。学校一つあたり300人以上もいる学生の顔を一人ずつ確認していく作業は非常に面倒臭い。
その広い範囲の中からあの女子高生をピンポイントで当てるのは困難だ。もしかしたら学校にいない可能性もまだあるのだ。それを考慮すると……優先順位は下がる。
「なら……探すべきは専門家だな」
人間の体に詳しい専門家。そんな専門家を身近で探すとしたら必然と行くべき場所は見えてくる。
つまりは病院だ。ここの近くに総合病院がある。そこでまずは生きている医者を確保して医療機器を使えるように回復させて、俺の血を提供して研究してもらえば分かることがあるはずだ。
「特殊体はその過程で見つけられたらラッキーくらいにでも思ってれば良いか」
俺の血をサンプルにするだけでは不十分。特殊体の血もサンプルで差し出すべきだろう。
「よし、そうと分かれば準備だ」
俺にとっては特に大きな危険は無いが、警察署にいたような狂人がどこかに潜んでいるかもしれない。それなら武器は必要だ……後は生存者のための食糧とかだな。
「またコンビニに寄らないとだな……」
基本俺の家の食糧は持って行かないようにしている。その理由は単純、自分のための食糧をわざわざ減らしてまで他の人間に分け与える必要がないからだ。
コンビニにも多少は食える食糧が残っているだろう。それを与えてやれば良い。そうすれば空腹で味覚がおかしくなってる奴らだ、食えるだけで感激のあまりに俺を崇めるだろう。
「食糧を持ってくる代わりに俺の研究に付き合ってもらう。それで行こう」
「見るからに大量だな……うぇ気持ちわりぃ」
俺は総合病院の入り口で立ち止まってその大きな敷地と建物の窓を眺めていた。警察署とは比べものにならない建物と敷地の大きさ、そしてゾンビの量だ。
「まぁ……当然だよな。病院には職員だけじゃ無くて満足に動けない患者も沢山いるわけだしな」
その事を考えると患者の生存者は期待できそうに無いな。
「頼むから誰かしら生きててくれよ……」
俺はそう言いながら病院の敷地内へ入った。
「どうやって探して行こうかな……」
合計8階まである病院のため、1階ずつ隅々まで調べるのが定石だが中々に大変そうで億劫だ。しかも普通に生存者を見つけてはダメであり、俺の正体を隠しながら生存者と接触しなければならない。
なるべくゾンビのフリをして探さないといけないが、ゾンビのフリをして人間を脅そうとするのは危険だと前回のことで学んだため、静かに誰にも気付かれないように歩く事にする。
そして生存者がいれば、自分もたまたま近くで隠れていたように装って合流しなければならない。
それに気を付けながらこの広い階で生存者を探すのだ。面倒な事この上ない。
それでもやらなければいけない事のため俺はしらみ潰しに一部屋ずつ生存者を探してはドアを開けたままにしておく。
これはその部屋には生存者はもう居ないというサインだ。もし閉まっていればそこに生存者がいる可能性が大ということである。
「どこの部屋にもゾンビがいるな……こんなの隠れられる場所あるか?」
まぁ無いことは無いのだろう。経験則で語ればトイレとロッカーがそれにあたる。しかし一階は今のところそこにも生存者は見当たらなかった。
「これで一階は終わりか。まったく居る気配感じないんだけど……」
一階しか確認して居ないから当然のことなのだが、せめて分かりやすいように鍵など閉めて閉じこもるなどしてくれないと非常に見つけにくい。
というか俺が生存者を見逃している可能性も少なからずある。その場合その人間はご愁傷様というだけの話だ。
俺は二階に上がる階段をゆっくりと足音を立てないで上がる。
「二階か。はぁ……やるか」
「全然っ……いねぇ……」
まさかここまで誰一人生存者を見つけることなく七階まで来てしまうとは……。もしかして俺が見つけてきた生存者って結構奇跡だったりするのだろうか?
そう思いながら俺は一つずつ部屋を潰して行き、次の部屋に行こうとした時だった。
次に行こうとした部屋のドアが開けられたのだ。その勢いよく開け放たれたドアから飛び出してきたのは純白なナース服を纏った胸が大きい女だった。
その女は何故か開けられたドアの前の床におでこをくっつけながら寝そべって居た。
「え?」
「あぁっ!う、嘘ぉ!開いちゃったぁっ!?」
なんとこの女……ゾンビが蔓延る廊下に間違えて出てきてしまったらしい。ポーズを見れば分かる、明らかに転んだ勢いでドアを開けて出てきてしまったのが反応だけでも分かる。
「い、いやぁっ!ゾンビ!?ご、ごめんなさいごめんなさぁっいー!」
ナース服を纏った如何にもアホ丸出しの女は、ドアを閉めることもせずゾンビの前で頭を両手でクロスして巻きつけるように守りながらその場で縮こまって居た。
「いやドア閉めろよ……」
俺は口に出してそう言わずには居られなかった。
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