第13話② ドキドキした夜
それは部屋を暗くして冬夜と一緒にゾンビ映画を見ていた時のこと……。
(……まさかこの映画と同じ事が現実でも起きてるなんて……本当に信じられないわ)
序盤の序盤、一匹の化物が一人の人間に噛み付き、そこから仲間を増やしていって気が付けば人間は極少数派となり、化物が支配する世界となってしまったいた。
(まさに……今の私達の状況と同じね)
私も最初は普段通り大学生活を満喫していただけだった。まぁあの男が私をストーカーしていた時は不快極まりない時間であったけど……それ以外を除けば私は十分に充実していた。
友達とか彼氏などは居ないけど一人でも楽しめる事は沢山あり、それが私にとって本を読む事や映画を見る事だった。
しかしそれも化物がこの地に踏み込んでしまってから全てが変わってしまった。化物に噛まれた人間は同じ化物へと成り果て、私達は逃げるだけで精一杯だった。
そんな最悪な世界でも化物と同じくらい、いや偽りの仮面を被り続ける事ができる知恵を持っている分人間の方が何倍も恐ろしかった。
私は見た。極限状態に陥った男性の本性というものを。あんな猿達と同じ部屋にいるだけで身の危険感じてしまう……。
私達女性は化物だけでなく男性という猿からも自分を守らなければならないのだ。
(そんな事を考えていた私がまさか部屋で男性と一夜を共にするとはね……)
黒藤冬夜。私と同じ大学で初めて見たのは同じ授業で隆史と話していた時。あの時の印象は隆史と同じで最悪だった。
けど一人で心細かった私を見つけてくれたのが冬夜である。あの時は鼻歌を歌いながらトイレに入って来ていて自分の耳を疑った。とうとう化物が鼻歌をするまで至ったのかと……しかしそれは化物ではなく冬夜であった。
そして冬夜は化物の巣窟から外へ私を連れ出してくれた。
それだけではなく、私に食べ物と寝床を与えてくれた。
でもやはり一番嬉しかったのは私を真剣に怒ってくれた事。私を見捨てず助けに来てくれて事。きっと他の人だったら私にそこまでしてくれない。
だから冬夜は他の男とは違う。冬夜に対してだけは苦手意識が無い。手を引っ張られた時も少し痛かったけど……嬉しかった。
(冬夜は私のことどう思ってくれてるんだろう……?)
少しでも私の事を意識してくれているのだろうか。
私は若干の期待の眼差しでバレないようにチラリと横を見る。現在映画を見ているであろう冬夜の顔を覗こうとする。
「ぐがっーぐがっー」
「……ね、寝てる?」
嘘……私がこんなドギマギしていたのに貴方はそんな気持ちよさそうに寝ていたの?
「し、信じられないっ!」
私はその気持ちよさそうな寝顔に無性にムカついてしまい、両手でほっぺたを掴み横に引っ張る。
「少しはっ!意識!しなさいよっ!」
「ぐがっぐがくがっー」
私はここまで引っ張ったら絶対痛いであろう所まで引っ張るが、それでも起きる気配はない。
起きないことを察してしまった私は諦めてそのほっぺたから指を離した。
「はぁ……はぁ……もう何なのよっ」
私ってそこまで魅力ないのかしら?手を出せとまでは言わないけどそこまで意識されていないと逆に不安になるじゃない。
(私これでも自分に自信はある方なのよ?)
「映画もつまらないし……私も寝よう」
私はベッドで寝るために立ちあがろうとすると、冬夜の体がこちらに体重を乗せてきた。
「え、えっ?」
「ぐがっーぐがっー」
「ね、寝てるわね……」
私はこのまま立ち上がって起こしてしまうのも悪いと思い、しばらく体を預けられる事を良しとした。
まぁほっぺたを引っ張っても起きないくらいだから多分起きないだろうけど……私もこの状態は嫌では無かった。する事がないから寝ようとしただけで、それ以外に特に移動する理由もない。
「この状態で寝たら風邪ひくわよ……」
そう言いながら私は近くの布団を引っ張りお互いの足に被せる。
(温かいなぁ……)
久しぶりの人の温もり。それも心を許せそうな男性相手に。私はこの状態が思いの外心地が良く、心が満たされて行った気がした。
「これ、好き……かも」
私はあまりの気持ち良さにウトウトし始めて、そのまま眠りについてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます