第10話
「ここなら安心だろう」
俺達はゾンビから逃げる為に休む事なく走り続けた。勿論ただ逃げ回っていたわけではなく、目的地は俺が決めていた。
後ろにいるこいつは逃げる事に精一杯だったのか一切目的地について聞いてくる事は無かった。
(こいつゾンビの前の方がしおらしくて可愛げがあるじゃねぇか……)
そんなことを思っているとやっと目的地の前へ着く。
「こ、ここは……?」
「俺の家の前だ」
「……え?」
「ん?……あぁそかそか……」
(そういえば女を俺の部屋に招き入れるなんて状況一度も無かったからすっかり忘れてたけど、こりゃ勘違いされてもおかしく無いな……)
男が女を部屋に入れる。それはつまり必然とエロいムードになるのだ、俺が実際にそういうことをしたいからでは無く、男と女が二人で密封された部屋に居るということがそれを嫌でも意識させられるのだ。
しかもプライドだけは一丁前に高いこいつの事だ、この状況で警戒しない訳が無いのだ。
(あーーだりぃ……。けどなぁ、こんな外じゃ長々と話はできないしな。その点俺の部屋なら食い物あるしゾンビからも姿を隠せて色々と楽なんだよな……)
俺は誤解をさせない為にも部屋に入る前に忠告して置いた。
「あーー勘違いすんなよ?俺の部屋になら食い物あるし安全だから連れてきたんだ。俺にお前を襲うような度胸も無いし、頼まれても御免だな」
「なっ!?別に勘違いなんてしてないわよっ!」
顔を真っ赤にして眼をキッと細めて反論をする。その顔は「誰が貴方のような猿に意識するもんですか!」と訴えているようであった。
だが俺の部屋だと分かってから明らかに緊張をしていたのでそれは嘘なのだとすぐに分かる。
それを言うとややこしくなるのは確実だから言わないけどな。
「へいへい、そうかよ。無駄に気遣った俺が悪かったな」
「そ、そう……分かればいいのよ!」
そう言い「ふん!」とそっぽを向く。何かあれだな……これがいわゆるツンデレキャラなのだろうか?いや、別にデレたりしてないからツンデレとは言えないんだろうけど……。
俺はそんなどうでもいいことを考えながらアパートの二階への階段を上がり、ドアのロックを解除して部屋に入る。
部屋に入る俺にそぉっと後ろから付いてくるように自分も部屋へ入る。
「……お邪魔します」
俺の部屋は1DKの為あまり広くは無く、座らせる場所は俺のベッドの上か床しか無かった。
ベッドの上は流石にまずいため俺のクッションを用意して床に座らせようとした。すると俺の後ろで立っていた女は部屋に入らずに窓下の床の方をじっと眺めていた。
俺もそこに視線をやるとその床にはまだ片付けていないガラスの破片が散らばっていた。俺がゾンビに襲われた時のままだった。
何故片付けていないかと言うと別に片付ける必要が無かったというか、映画とかはベッドの上で見ていたためあまり気にすることが無かったのだ。
「そんな見なくても片付けるよ……」
俺は女がガラスが散らばった床に座りたく無いのだと思い、どこかに仕舞ってあるちりとりを探そうとする。
「え、ち、違う!そんなことをさせたくて見ていた訳じゃ無いの。ただ窓の割れ方に違和感があって……」
「は?あぁ……ゾンビが鍵を開ける為に割ったんだよ」
俺は襲ってきたセーラー服の女子高生のゾンビが、鍵を開ける為に窓を拳一個分ほど割っていたことを思い出し説明する。
「ゾンビに?ゾンビにそんな知能ある行動ができるって言うの?」
「さぁ……実際にやっていたんだからそうなんじゃ無いのか?」
「そんなの……厄介極まりないじゃ無いっ」
ゾンビが鍵を開けているとこを想像したのか、不快そうに顔を歪める。
「でも貴方よく生き延びられたわね。部屋に侵入された訳でしょ?」
「まぁな、一回噛まれたけど……」
俺は自分の秘密をここで打ち明ける事にした。あのゾンビの大群の中から俺が抜け出すことができた以上勘くぐられるのは間違い無い。なら変に曲解されるよりも正直に話して味方につけるしか無いと思った。
「え……本当に言ってるの?」
「あぁ、別に何ともねーけどな」
「そんなことって……か、噛まれた跡は?」
「ほらよ」
俺は言われた通り脛辺りの噛み跡を見せる。そこには人間に噛まれたとは思えないくらいにくっきりと歯型が残っていた。
「嘘……じゃあ本当に……。でも何でまだ化け物じゃ無いのよ?」
「さぁそこは俺も知らない。一度気を失ったけど起きたら近くにはゾンビがいなくなっていたんだ」
目の前の女は理解し難い話に明らかに混乱をしているようであった。
「そ、そうなのね……。でも凄い事じゃない、そのお陰でゾンビに狙われなくなってさっきの窮地から抜け出せたのでしょう?」
「まぁな」
女はパッと顔を明るくし、目を光らせながら話を進めようとする。この後に言う言葉など分かっている。
「じゃあ貴方がいれば多くの人間を救えるじゃないっ。食糧も問題なく運べるし私を助けた時みたいな行動もできるし……奇跡みたいなことだわ。まるでフィクションみたい……」
「そう、フィクションのような事だ。だから俺はお前ら人間の輪には入る訳にはいかない」
「え……?ど、どうしてよっ!?」
この女が思い描いていた理想を俺が否定する。すると裏切られたような顔と泣きそうな眼で問い詰めてきた。
「俺がお前らに協力して食糧を運ぶなり生存者を救出する。あぁいい話だな、俺はお前らに一生こき使われるんだろうな」
「な、何を言ってるの……?」
当然現段階では分かるはずもない。俺という異質な存在に慣れてからでないと理解できない。
「そしてお前らは俺に依存する。自分たちが何をしなくても俺がやってくれると思い込み始める。俺もお前らと同じ人間のはずなのに……俺の事を人間と同じように扱ってくれなくなる」
「! そ、それは……」
俺の話にハッとしたような顔をする。こいつも薄々勘付き始めたのだろう……俺はという存在の終着点を。
「お前たちはゾンビに襲われるのに俺だけが襲われない。つまりはお前らから見て俺はゾンビ寄りの人間という認識になるんだ。ただの人間の言葉が通じるゾンビとしてな……。なぁ俺は果たしてお前らと対等に生きていけるのか?俺は見捨てられないのか?」
「っ……!」
何も言い返すことは無かった。何故なら俺の考えとこの女の考えが一致したからだ。俺のこれからの可能性についての話ですら否定する事ができない。つまりは十分にあり得る未来だということだ。
目の前の女は拳を強く握りながら下唇を噛んで俯いていた。自分の先程までの安易な考えを嘆いているのだと思った。
(話の分かる奴で良かった。他の短絡的な奴なら俺の可能性の話を頭ごなしに否定して俺を利用するだけだっただろう……)
「ご、ごめ……」
「止めろ。誰だってそんな考え思い浮かばないんだ。理解があるだけ助かる」
「……じゃあ」
「?」
顔を上げて俺の目を見つめる。その真剣な眼差しからは何を考えてるかは読み取れなかった。
「何で私を助けてくれたの?」
「!そうか、そりゃそう言う話になるよな……」
こんな話をするなんて俺にデメリットしか無い。あの場面で何故リスクを抱える私を見捨てなかったのか?その理由を聞いているのだ。
その時の俺は感情がぐちゃぐちゃに混ざっていて、正直何故かよく分からないが助ける選択を取ってしまった。
けど今なら分かる気がする。俺は……
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