流浪のダンジョンマスター

くずやま猫夫

第1話・主人公は二度死ぬ


ふっと、目が覚めた。


……あれ?ここはどこだろう?


寝ぼけまなこで周囲を見回してみる。

石の壁に石の天井、石の床には真っ赤な絨毯が敷いてある。

そして、王様が座るような立派な椅子。

どこぞのお城の「謁見の間」みたいなところに俺はいた。


……夢か?ありがちな行動だが、頬っぺたをつねってみる。

痛っ!強くやり過ぎた。滅茶苦茶痛い。

どうしてこんなところにいるんだろう?

俺は駅にいたはずなのに……


「え~と…たしか、俺は駅のホームから落ちて…」


そうだ。俺はスマホに夢中になってて、ホームから足を踏み外したんだ。

目の前に迫ってくる電車が見えて……。


「俺は…死んだ…?」


いやいや。俺、生きてるし!。息してるし!つねった頬っぺたも痛いし!


「夢じゃなさそうだな…」


どうしちゃったんだろう、俺……。

とにかく、ボーっとしてても仕方ないんで、今いる「謁見の間」を観察することにしてみた。


広さは学校の教室くらい、王様の椅子に赤絨毯、扉は無い。

そして、何より目立つ物が部屋の中央にはあった。

それは高さ1メートルほどの六角形の台座に鎮座してあった。

大きさは20センチほどの水晶玉、それが七色の光を明滅させている。


美しい……。すべてを惹きつける美しさの宝玉だ。

俺は、その宝玉に魅入られたように手を伸ばした。

そして、その宝玉を手に取ると自然に、さも当然というが如く宝玉を捧げ持った。

すると突然、宝玉が輝きを増し、光の奔流が俺を包み込んだ。


「おぉ!!こ、これは!!!」


怒濤の如く流れ込む情報!そう!俺は生まれ変わったのだ!!

俺はあの瞬間、死んだ。そしてこの世界に転生したのだ。

ダンジョンマスターとして!!

そう、これは神から与えられた宿命。

俺はこの世界でダンジョンマスターとして君臨し、全てを支配する存在とならなければならない。

そのためには、この宝玉を守らなければならない。

この宝玉こそ、俺の「命」そのものなのだ!!


この世界を生き抜くために必要な情報が、洪水のように俺の頭の中に流れ込んでくる。

魔法、スキル、身体能力と精神の改造、すべてが一気に進んでいく。

身体が、脳が、精神が悲鳴を上げる。

耐えろ!耐えろ!!

歯を食いしばって、地獄の責め苦が如き苦痛に耐える。

永遠とも思える一瞬が過ぎると、宝玉は静かになった。

全てが終わった時、力が抜けた。


「あっ」


宝玉が手から滑り落ちる。ゴトっと重い音がして宝玉が石の床に転がる。

そして……パカっと割れた。

視界が暗転した。俺はまた死んだらしい。





ふっと、目が覚めるとそこは白一色の世界だった。

ただ、目の前にはとても神々しい女性が、美しい脚を組んで俺を睨み付けていた。

たぶん、この人は女神様だ。そして、かなり怒っていらっしゃる。

あえて、もう使われていない死語で言うならば、「激おこぷんぷん丸」ってヤツだ。


「ちょっと、アンタ。何やらかしてくれてんのよ」


返す言葉もございません。

こんな時、日本人には素晴らしい謝罪の文化がある。

そうそれは、土下座だ。


「申し訳ございませんでした!!」


額から血が出んばかりに床に擦りつける。


「こっちの身にもなってよね。転生させるんだって大変なんだからね」


本当に申し訳ない。何を言われようが平身低頭。

女神様は、なにやらブツブツ文句を言いながら、タブレットみたいな透明な板をスライドしたり、タップしたりいてる。


「始まって2分でゲームオーバーって。どんだけヘッポコよ。今時、小学生だってもっと長持ちするわよ」


次はちゃんとやりますから、ほんと勘弁してください。


「次のところは、ちょっと難易度上がるからね。二度とあんなドジ踏むんじゃないわよ!」


そう言って女神様は、何やら俺に投げてよこした。


「次のところで必要な物だからね。よく読んでおくのよ」


それは小冊子だった。茶色の質の悪い紙で出来ている。

今時のコピー用紙ではなく藁半紙ってヤツだ。

しかも印刷は手書きっぽい。いわゆるガリ版刷り。

ウサギとタヌキが汽車に乗っている拙い絵が書いてあり、ひらがなで「たびのしおり」と書いてあった。


「…昭和?」

「は?なに言ってんの?」

「いや…藁半紙だし…ガリ版刷りだし…」

「…いらん事言ってないで!さっさと転生しろーー!!」


そして、俺は光に包まれ二度目の転生をした。

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