第3話~李留~


「可愛く出来た♪」



真琴は、仕上げた向日葵の花束に、光沢のある少し落ち着いた赤色のリボンを、満足気に結びつけた。


「本当だ可愛い。真琴さんはやっぱりセンスがあるなぁ。それは今日のお客さんの花束ですか?」


黒髪で短髪のエプロン姿の少年が、そう真琴に尋ねた。


「そう、今日の予約の方の花束。向日葵が大好きなお母様への誕生日プレゼントなんだって。」


「話をしていたら、お客様が来られたみたいですよ真琴さん。」


花屋の入り口に目をやると、丁度ドアが開き、ひとりの少女が入ってくる所だった。


真琴は、笑顔で向日葵の花束を両手に抱えると、応対へと向かった。

少女はとても嬉しそうに、その向日葵の花束を受けとると、お金を支払い帰っていった。


「喜んでくれたみたいで良かったですね。」


「ええ、本当に良かった。ところで#李留__りる__#君は、そろそろ休憩時間じゃない?私、お店番しておくから行ってきてね。」


李留と呼ばれたその少年は、それじゃあ行ってきますとエプロンを取ると、休憩をする為に店を出ていった。


「さてと…。」


真琴は、ひとりになった店内で、次の予約の花束を作る為に、花の選別を始めた。

すると、店の扉が開く音がして、誰かがやってきた。


「いらっしゃいませ、って暖じゃない。どうしたの?お店に来るなんて珍しい。」


そこには、幼馴染みの暖が立っていた。


「いや、今おじさんのお見舞いに行ってきた所なんだ。少し真琴にも話をしておきたくて。」


暖は、父親への新薬を使った治療の支援を沙羅から断られた事。

それで、沙羅に機関に来ないかと言った事を、真琴に話して聞かせた。


「真琴も機関に来ないか?ふたりの契約金で新薬を使った治療は可能だと思うんだ。」


「お姉ちゃんは何て?」


「少し考えたいって。」


真琴は、少し考えこんだ。


「私はお姉ちゃんほど能力が強くはないし、それに、パパがひた隠しにしてきたのを裏切る事に、少し抵抗があるかもしれない。

でも、暖が心配してくれる気持ちは感謝するわ、お姉ちゃんとまた相談してみる。」


「うん、そうしてみて。俺、おじさんには元気になってほしいんだ。」


暖は心から心配そうにそう言うと、任務に戻ると言って足早に店をあとにした。


暖を見送った後、真琴は色々を考えた。


暖の言う通り、機関に志願をすれば、父親を助ける事が出来るのかもしれない。

そしてそれが出来るのは自分ではなく、きっと姉の沙羅だろう。


暖は、私達姉妹でと言ってくれたけれど、同じ双子でも真琴は姉の沙羅よりも、劣っている自覚があった。能力も、そしてこの髪の毛の色も。



「とりあえずお姉ちゃんと相談するしかないか。まずは仕事!」



そう言うと、真琴は中断していた花の選別を再開した。すると、李留が休憩から戻ってきた。


「ただいま真琴さん、交代しますから休憩に行って下さい。あと、オーナーが沙羅さんのカフェで待ってるからと伝えておいてとの事ですよ。」


エプロンを身に付けた後、李留は作りかけの花束を真琴から受け取りながら、伝言を伝えた。


「もう、オーナーったら、李留君にまたそんな伝言頼んだりして。有り難う、じゃあお願いするわね。」


真琴は顔を赤らめながらエプロンをはずすと、自分の財布を手に取り、そそくさと店を出て行った。



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