第5話 因果
「『キメラウイルス』ってそんな………」
歴史の闇に葬られた衝撃の出来事が再び歴史の表舞台に姿を見せたと言うブリューゲルの発言にラカムはただ驚嘆した。
「どこの国のどんなやつがなんの目的でそんなモノを作り出したのかはわからない。じゃがウイルス同士を掛け合わせ更に強力なウイルスを作ろうとして生まれたウイルスが『チャツウェルウイルス』なんじゃ」
「『チャッウェルウイルス』は熱や喉の痛み、倦怠感。酷いときには味覚と嗅覚の麻痺。最悪死に至るって聞いたけど」
「症状としてはあっておる。じゃが『チャツウェルウイルス』が世界中に伝染したのと同時にとある目撃情報が報告されるようになった。」
「それが『キメラ』みたいに人間を超えた身体能力を持つ人達ってこと?」
「その通り………そしてこれはあくまで儂の独自調査の結果じゃが、その目撃情報を追ってゆくとその者達にはとある共通点があった」
「とある共通点…………」
「それは、【『キメラ』の血を受け継いだ末裔の未成年】という事実じゃ」
「なんでそんなことわかるんだよ?そもそも『キメラ』は絶滅したんだろ?」
「それは儂の一族『ダンスフォード家』が自らに課した贖罪。【『キメラ』の監視·保護】をこの数百年人知れず続けておったからじゃ」
「『キメラ』の監視と保護って」
「…………『キメラ狩り』で絶滅したと思われた『キメラ』は『キメラ狩り』が終えるまで身を隠していたに過ぎなかったんじゃ」
「なっ………」
「しかし『キメラ』達も馬鹿では無い。人との共存は不可能と考えていた『キメラ』達はそのまま身を隠して暮らすという選択をした。『キメラ』は絶滅していないと考えていた我が一族は独自に探して見つけ出し『キメラ』達と協定を結んだ」
「協定?」
「『キメラ』達は緩やかに自分達が絶滅することを望んだ。だから今後『キメラ』間で子孫は残さないこと、『キメラ』の男達は自らの生殖機能を断ち繁栄を捨てた。その見返りとして我が一族が『キメラ』達を自然消滅するまで保護し守るとそして協定を破るものが出ないように監視すると」
「でも今日まで絶滅しきれなかった。」
「そうじゃ、その頃には『キメラ』は世界各地に散らばっていての、一部の『キメラ』が人間との恋に落ちその者達がまた新たに繋ぎ………確実に『キメラ』の血は薄まり無くなりかけてはいるもののまだ一部で脈々と受け継がれているのが現実じゃ」
「そしてその血が俺にも流れていると?」
「そういうことじゃ、『ルガール家』は現在残る『キメラ』。『ウルフキメラ』の血を受け継ぐ末裔の1つじゃった。」
「俺が・・・・・『キメラ』の末裔・・・・・」
ラカムはこれまで抱いていた自分と周囲の差・・・・・違和感が消化されていくのを感じた。
「すまなかった。間に合わず」
「なんで・・・・・なんで俺の家は襲われたんだ?」
「襲撃してきたのは、恐らく『フル・ブラット』」
「『フル・ブラット』・・・・・」
「純血主義を唱える宗教団体・・・・・民族の数だけ多くの分派が存在する得体の知れん宗教団体じゃ。どれだけ枝分かれしていても共通してその団体に言えるのは【ありとあらゆる混血を認めない】という1点。例えば最近増えているA人とB人のハーフだとかクォーター。異なる人種による婚姻。すごい分派は遺伝子組み換え食品にまで文句をつけてくるらしい。そんな宗教団体が『キメラ』の歴史について把握していたとしたら・・・・・」
「当然反発するよ。人どころか他の生物との間に出来た子どもなんて。存在そのものを否定してもおかしくない」
「あくまで可能性の話。その団体と決まったわけではない。これから調べて立証しなければならん段階だ」
「・・・・・なんで爺さんさっきから謝ってるんだ?」
「儂がお前さんの存在を知ったのはつい最近なんじゃ」
「一族として『キメラ』を監視・保護していた爺さんが?」
「お前さんの『分家』の存在を知ったのがこの1ヶ月前の話じゃ」
「分家・・・・って『ルガール家』って他にあるのか?」
「儂の認知しておる『ルガール家』からお前さんの家系は外されておって。お前さん達の存在を認知しておらんかった。」
「爺さんの知ってる『ルガール家』は影響受けてないのかよ」
「全員成人しておるから今の所は影響を受けておらん」
「そう・・・・なのか」
「すまん。儂がお前さん達の存在をもっと早く認知していれば・・・・・」
「なあ爺さん。俺これからどうしたらいい?」
「ラカム・・・・・」
「唯一の大切なモノを訳のわからない組織に奪われて、でも母さんは強く幸せに生きてっていうんだ。俺どうしたらいいかわかんないよ」
「恐らくお前さんのやってしまったことは今事件として扱われ、指名手配犯じゃ。そして最も儂が恐れているのは『フル・ブラット』が『キメラ』の存在を知っていたとして、世間に公にすること」
「・・・・・。」
「そうなれば、お前さんは『フル・ブラット』だけではない。世界中から厳しい視線を向けられるじゃろう」
「どうすればいい?爺さん」
「儂の養子にならないか?」
「養子だ?」
「こんな初対面の老人にいきなりそんな話をされても、困惑じゃろう。じゃが儂の養子となればラカム。お前さんを匿ってやれる。どうじゃ儂の養子にならないか」
「・・・・・。」
「これが儂に出来るせめてもの償いじゃ」
「爺さん・・・・・。頼むよ」
「ラカム」
「俺、学校でも浮いてて一人も友達いなかったんだ。だからきっとこのまま彷徨っても俺は生きていけない。それに母さんに言われたんだ【強く幸せに生きて】って。だから爺さん。俺に生きる術を教えてくれ」
「・・・・・よし。ならばすぐに支度じゃ。動けるか?」
「爺さんの飯のお陰で」
(あんな簡易的なそしてあの量でこの回復具合・・・・・いかんなこれでは儂も奴らと同じじゃ)
(父さん、母さん、ゴメン。弔ってあげられなくて。俺約束通り、強く・・・・生きるよ。幸せに・・・・・生きるよ。さようなら父さん、母さん)
ブリューゲルに連れられラカムは強い決意を胸に故郷を後にした。
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