【幕間】喫茶 月明り

「もっと街中で喫茶店したらいいのに」

「君、人の多いとこ苦手じゃないか」

「そうだけど」

「それに此処だって悪くないだろう?」

「……うん。星が綺麗で好きだよ」

「さて、そろそろ開店時間だ。君は?」

「もう少し描く。今日は三日月の日だから」

「宙海猫達が喜びそうだね」

「うん」


◆◆◆


空に夜の天幕がかかる頃に開店する喫茶店がある。

イーハトーヴの何処かにあると言われているが詳しい住所はわからない。

客となる存在は気付いたら店の前にいる。

そんな不確かな喫茶店だ。


店内には常に静かなクラシック音楽が流れ、マスター一人がカウンター内に佇んでいる時もあれば沢山の客で賑わっているときもある。

店内の宙を淡く光る魚や海月が泳いだり、テーブルの上を小さな光の粒を纏った猫が行き交ったり、『人では無いもの』が客として来ていて話が出来たり……とても不思議な経験が出来るという。


誰かが一度マスターへ店への行き方を尋ねたらしい。

人懐っこい笑みを浮かべたマスターは指先で小さな宙色の猫をあやしながら答えた。


「特別な行き方は無いのです。必要な方なら皆この店の灯りを見つけられますので」


今日もイーハトーヴの何処かで、誰かの為に喫茶 月明りの店先に明かりが灯る。


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