靑色研究所短編集
猫市
明けぬ夜の話
此処の所ずっと朝が来ない。
時計は真面目に太陽の時を刻む癖に、空は煌々と月が照り星が散らばったままだ。変な事もあるものだと思いながら靑色研究所へ何時もの様に出向けば、所長は変わらず無愛想な顔でコーヒーを出してきた。出されたコーヒーを啜りながらふと視線を下げた先、ソファーの上に見慣れぬものを見つけた。コーヒーカップを置き、手を伸ばす。
それは手のひらに収まる小さな巻き鍵だった。
渋い金色の巻き鍵で上部には革製の紐が括りつけられている。首からかけるにはちょうどいい長さだ。照明の光で鈍く光る巻き鍵を眺めていたら茶請け菓子を持った所長が戻って来た。そして私の手にしている鍵を見て僅かに驚いた顔をした。
「ああ、そこにあったのか。やっぱりうちに忘れていったのだな」
一体なんの巻き鍵なのか?手渡しながら聞けば肩を竦めて苦笑いをする。
「夜を巻き上げる装置の巻き鍵だ。うちに来た夜守がうっかり無くしてしまってな。随分と夜守主に怒られたらしく泣きそうな顔で探しに来たが見つからなかったんだ」
成程、それで朝が来なかったのかと納得した。後でわかったが夜守は帰り際に入った書庫でとても読みたかった本に出会い、嬉しくて小躍りした際に巻き鍵を落としたらしい。とんだうっかり者だ。
巻き鍵はその日のうちに夜守に届けられたらしく、次の日は久方ぶりに朝が来た。
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