第71話 無駄に意志のこもった瞳

──そんなこんなでお出掛け当日。自分から修羅場をセッティングしたような気もしなくはないのだが、まあ仕方あるまい。どうせ時間の問題だっただろうし。


「……」


 ま、それはともかくだ。もうすぐ待ち合わせ場所の駅前に着くのだが、正直かなり気まずい部分がある。

 なにせこの時だけは、近藤さんと二人きりなのだ。千秋さんは移動先で合流することになってるから。……完全に我が家に馴染んでるから忘れそうになるけど、千秋さん電車で通ってるのよな。定期圏内とは言ってたけど。

 対して、バイト以外ではあまりの接点のなかった近藤さんが近所……ってほど近所でもないが、同じ最寄りなあたり、人生って不思議だなって思う。

 それを言うなら、今の状況自体が相当に不思議ではあるのだが。本当に変な縁がある。どちらも発端がストーカーなあたり特に。


「っと、着いたけど……」

「あっ。み、水月さん! えっと、こっちです」


 おっと。どうやら既に近藤さんが到着してたらしい。一応、待ち合わせ時間の十分前に来るようにしたんだが……。


「もしかして待たせた?」

「い、いえ! 私も今さっき来たとこなんで! ぜ、全然大丈夫です!」

「あ、うん」


 一目見て分かるぐらいガチガチである。この間までの緩い近藤さんは何処行ってしまったんだ……。

 そしてアレだ。この反応で、千秋さんの推測が一気に真実味を帯びてきた。今までは『ワンチャンないのでは?』と思ってたんだけど、この様子を見るに希望的観測も難しそうである。

 だって態度だけじゃないもん。凄いお洒落してるもん。俺も女性のファッションに対して詳しいわけではないが、それでも気合いが入っていることだけは分かる。

 多分だけど、近藤さんができる中で最高レベルの準備をしてきたんじゃないかなと。……マジで千秋さんにヘルプ頼んだのが申し訳なくなってくるな。


「えっと、今日はゴメンね? せっかく誘ってもらったのに、知り合いも呼んじゃって」

「あっ、それは、はい。大丈夫です。……本当は二人きりが良かったですけど」

「それは勘弁してください。何かあった時が怖すぎる」

「心配しすぎじゃないですか……? 私もネットでちょっと調べましたけど、付き合うのも大学生とかならセーフって書いてありましたし。一緒に遊ぶぐらいなら、全然問題ないと思うんですけど」

「あの辺はね、調べれば調べるほどドツボに嵌るんだよ……」


 俺だって気にしすぎかなって思ったけど、調べたら逆に怖くなってくるんだよ。なんか色々ありすぎて。

 まず法律の文面が難しくてよく分からん。ザックリな理解しかできないし、そこに特例がどうこうってあって絶対大丈夫な確証が持てないんだよ。

 それに加えて条例とか慣例みたいなのもあってややこしいし、じゃあ実際はどうなのって実例を調べても、それも結構パターンがあってなぁ……。

 それで出した結論が、未成年の異性、特に学生の場合は十分に安全マージンを取って接するなのだ。なるべく二人きりで会うことは避け、それが無理なら夕方には解散する方向で動くと。


「特に今は、お互い変に注目されてる時期だからね。まあ、もう既に次のネタに食い付いてるっぽいけど、念には念を入れておきたいのよ」

「……言ってることは分かるんですけど」


 それでも不満ですと、近藤さんがそれとなく態度で主張してくる。

 だが無視します。応えるわけにはいきません。いや、普通に遊ぶだけだったら一考ぐらいはしても良いんだけど、近藤さん絶対普通に終わらせる気ないでしょ……。

 こうもバッチリ決めてこられるとねー。やっぱり警戒しないわけにはいかないので、千秋さんへのヘルプはやはり仕方ないなと。……格好としては似合ってるし素敵なんだけどね?


「それで、その……。今日ご一緒する人って、どんな人なんですか? 女性なんですよね?」

「あー、千秋さんね。えーと、前にどっかで話したと思うんだけど、俺の家で家政婦っぽいことをしてる人だね」

「……やっぱりその人なんですね」

「あれ予想してたの?」

「ええ。まあ、はい。そうじゃないかなぁって。水月さん、あんまり自分のこと話さないじゃないですか。そんな中で、唯一会話で出てきたのがその人でしたし」

「なるほどー」


 大した記憶力である。記憶力とかではなく、思うところがあって頭の中に残った可能性もなきにしも非ずだご。


「でも、大丈夫です。知らない人であっても、私は物怖じとかしないんで」

「……そのわりには、やけに気合い入ってない?」

「これは武者震いみたいなものなんで気にしないでください!」

「ア、ハイ」


 そっかー。武者震いかぁ。一体何に挑むつもりなんだろうなー。

 まあ、深くは追及しまい。それがやぶ蛇であることは猿でも分かる。


「……それじゃあ、移動しようか」

「はい! いざ!」


 いざって言ってるけど、俺はツッコまないよ。






ーーー

あとがき


ちょっと重要なお知らせ。

商業版の本作ですが、残念なことに一巻完結の予定で話が進んでおります。

売上はぼちぼちではあったそうなのですが、二巻を出すほどではないなぁ、って感じだそうで。

まあ、これからの売上次第で、二巻発売の可能性はゼロではないのですが、それは本当に売上次第なので。二巻を熱望している方は、引き続き購入や布教をしていただければと……。


で、本題です。ここまで読んでくださった方なら察してると思うのですが、この作品は本来一章の部分で終わる予定でした。

それでも続けてたのは、一章終了が書籍版の発売前だったので、二巻発売の可能性もあったからです。ぶっちゃけ、本当にぶっちゃけてしまえば、二章以降は物語的には蛇足です。

まあ、つまりです。二巻の可能性が一旦なくなったので……その、ね? 一度休載しようかなぁと、思っておりまして。

一応、気まぐれで投稿することもあるかもなのですが、基本的には他の作品にリソースを回していこうかなと。

連載再開は、なんかの拍子で二巻の発売が決まったら、ですかね。

なので続きを読みたいと思う方は、本を買ってください。Web小説の一つ程度にしか思ってない人は、見切りをつけていただいて構いません。


以上、モノクロウサギでした。

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