05 のこちゃんと森の武神様?!


剣持けんもちとら こと のこちゃん の人生は、くなった父親がやくざ者だったので、生活環境的せいかつかんきょうてきな理由から波乱万丈はらんばんじょうになりそうだった。


結果としては、ティハラザンバーに強制変換コンバートという形で本当にそうなってしまったにせよ、それまでも割とビックリする事が多かった様に当人も認識にんしきしている。


おさなころは、お父さんにれられてお出かけすると、街でやたらいかつい顔やガッシリした体つきの男の人たちから次々つぎつぎと声をかけられて、そのたびにドキドキしていた。


お正月に神社みたいな大きなお屋敷やしきへ新年のご挨拶あいさつに行けば、和服姿わふくすがたのおじいさんから大きなお年玉ぶくろをもらって、い上がったりもした。


あとから思い返せば、あのおじいさんがお父さんの親分だったのだろうと気が付いて、その羽振はぶりの良さにも合点がてんがゆく。


のこちゃんからすると、お父さんは、お父さんである。


だから一緒いっしょに歩いていても日常にちじょうの一コマにすぎないのだが、そう言えば、まわりの道行く人たちにはけられていた気もする。


見ず知らずの人からとは言え、あからさまな態度たいどをとられれば、幼心おさなごころにはショックだったにちがいない。


そんな生活だったので、やはりくなった母親の実家である佐橋さはしの家へ引き取られると決まった時は、子供心にも、それなりのあつかいをされる覚悟かくごをしていた。


けれど実際にしてみると、意外にも家族としてあたかかくむかえられただけでなく、自分専用せんようの部屋まで用意されていたのにはおどろかされた。


ただ、それに合わせて転校した小学校では何故かやくざ者の娘という噂話うわさばなしが流れていて、クラスメイトたちからはけられ教師たちからもものあつかう様にせっせられたので、予想した肩身かたみせまさを思わず体験してしまったのだが。


これは、ビックリしたと言うよりも、戸惑とまどったと言った方が正しい。


いくら父親がやくざ者だったとは言え、当然ながら、数々かずかず修羅場しゅらばをくぐってきました的な経歴けいれきなどは無いのこちゃんである。


当初は、学校生活をしてゆく中で平凡へいぼん女児じょじに過ぎないその実態じったいまわりに知られてゆけば、いつかおさまるだろうと思っていた。


ところが、誰も噂話うわさばなしの向こうがわにいる本人を見ることはなく、のこちゃんは、気が付けばそのまま孤立こりつしてしまった。


そんな暗澹あんたんたる小学校生活が続く中、叔母おばに当たる きょう姉さん は、のこちゃんをはげます様に自身の趣味しゅみである特撮ヒーロー作品をたくさん見せてくれた。


その関連かんれんからいもづるしきで、のこちゃんは日曜日の朝、ついにチャムケアシリーズと運命の出会いをしたのだ。


その衝撃しょうげきたるや、それまでくすんで見えていた世の中が、またた色鮮いろあざやかな景色けしきへと反転はんてんしたほどである。


言うなれば、『ローリンゲット!チャムケア』の主人公ケアタリアーの口癖くちぐせである、"うはぁ~、ライブし~にっく!"そのままであっただろう。


ケアタリアーに変身する鳥社とりやしろひなは、幼少期ようしょうきから小学生時代のすべての時間を、長い闘病生活とうびょうせいかつうばわれてしまっていたのだが、中学生に上がる段となってようやく病床びょうしょうより解放かいほうされた経緯けいいを持つ。


苦しかった入院中をささえてもらった両親をはじめとする多くの人たちへ、また、未来へ向けてみ出せる事への感謝と世界はこんなにもうつくしかったのだという感動から、自然と口をついてこぼれ出たセリフである。


それは、チャムケアと出会い、どんどん元気さをもどしていったのこちゃん自身にもふかさった。


しかも、『ローリンゲット!チャムケア』の放送と合わせて中学校へ上がり、気の合う友だちができて一気に生活が明るく変わった辺りもシンクロしたものだから、あまりにも分かりみが強すぎた。


のちに、実はその大病たいびょうの原因だった事が判明はんめいした敵の幹部怪人かんぶかいじんたお展開てんかいでファンの間でも賛否さんぴが分かれたものの、ケアタリアーに感情移入かんじょういにゅうはげしかったのこちゃんは、もちろんガッチガチの肯定派こうていはである。


当該とうがいエピソードの視聴中しちょうちゅうには、憤慨ふんがいしながらふざけるなそんなヤツぶっとばせと、テレビの前で熱く応援おうえんしていたのも仕方がない。


いずれにしろ、チャムケアに出会う前ののこちゃんからしてみれば想像そうぞうがつかなかった楽しい生活であり、その中で起こった一つ一つの出来事できごとおどろきの連鎖れんさだった。


人間、生きていれば何が起こるか分からないとは、よく言ったものである。


もっとも、一番の驚愕きょうがくは、生涯しょうがいをティハラザンバーとしてあらためられてしまった事なのだが。


凡庸ぼんような中二女子のそれから、巨体へ白銀しろがねよろいを部分的にまとった、黄金の毛並みに漆黒しっこく縞模様しまもようを持つ直立した虎の様な怪人かいじんへのイメチェンと来れば、なかなかのギャップだろう。


ちなみに、のこちゃん本人は、怪人かいじんである事をみとめていない。



中身がのこちゃんのまま人生をティハラザンバー生へ移行いこうしてからこちら、元聖女せいじょであるトレーナーのフォローがあるとは言え、やはりおどろきの連続であった。


そしてそこへ、今また一つの事案じあんが追加された。


ティハラザンバーの咆吼ほうこうこたえるかの様に、埴輪はにわの巨人が、まるで意志がある者のごとくしゃべったのだ。


「(…知性があるの?!)」


相手があらかじめ決められた行動をなぞるだけの単純な存在であれば、こちらから呼びかけたりみずからのをおおわびする事に、意味は無い。


しかし、正確に大きなつるぎあやつ埴輪はにわの巨人の攻撃行動には、まわりの状況じょうきょうをしっかり認識にんしきしている様な手堅てがたさが見えた。


何より、ティハラザンバーの存在を観測かんそくして行動していたきらいがあるのだから、自律性じりつせいうかがえる。


であれば、のこちゃん自身が予測よそくした通り、埴輪はにわの巨人の本質ほんしつは、状況次第じょうきょうしだいみずから動作を適宜てきぎえられる自律型じりつがたロボットに似たモノの可能性が高い。


のこちゃんが期待したのは、会話ではなかった。


神器じんぎ恩恵おんけいつうじるとされる言葉によって、戦わない意志をとどける事。


それにより、埴輪はにわの巨人の動作モードのえをうながし、えず攻撃をめさせられないかというこころみだったのだ。


あわよくば、そのまま平穏へいおんおさまって欲しかったのである。


そのアプローチ自体は、間違まちがっていないだろう。


ただし、埴輪はにわの巨人が自由意志を持っている様な、想定そうていよりもさらに高度な存在だった場合は、その前提ぜんていも変わってくる。


突然の事だったので、すべてをハッキリと聞き取れた訳ではないのだが………


「(何かゆるせないみたいな事を言っていた様な)」


そもそも、最初から"思うところ"があってティハラザンバーを絶対ぜったい抹殺まっさつしようと追ってきた絶殺ぜっころ巨人であったのなら、よほどの事でもない限り急な戦闘の停止ていしむずかしい。


登山家とざんかがそこに山があるからのぼると言うのであれば、埴輪はにわの巨人がティハラザンバーをおそうのは、そこにティハラザンバーがいるからという事になる。


やりたいからやる。


それが、意志を持つ者の面白おもしろさであり、厄介やっかいさでもある。


登山とざんの際には、天候てんこうや足場のコンディションこそ気にしても、のぼられる山の気持ちなど想定そうていされていない。


もしも本当に山が遠慮えんりょして欲しいと人間の言葉でうったええかけてきたなら、さすがに大凡おおよそ登山家とざんかは、おどろいて撤収てっしゅうするだろう。


だが中には、どんな事があろうと初志貫徹しょしかんてつしてしまう登山家とざんかもいるかも知れない。


同様に、埴輪はにわの巨人は、のこちゃんのもうを聞いた上で引く気もないらしかった。


当のティハラザンバーは、巨木きょぼくみきに頭を下にした格好かっこうで、へばりついたままかたまっている。


のこちゃんは、思い切り動揺どうようしていた。



「って、今、敵対宣言てきたいせんげんされた気がするんですけど、つくられたモノに意志は無いってトレーナーさん言ってませんでした?言ってませんでした?」


大切な苦情なので、つい2回かえしてしまった。


『ふむ、2回言わなくとも、話はつうじているぞ。

確かに、"ちから道筋みちすじ"がとらえられぬ以上は、何者かによってつくられたモノに心など無いと、言っている通りであろうよ…のこ』


のこちゃんが"らめきの流れ"ととらえ、トレーナーが"ちから道筋みちすじ"と言うそれは、意志ある者の攻撃の軌道きどう前触まえぶれの様に察知さっちする極意ごくいである。


生前せいぜん白銀しろがねよろい聖女せいじょばれていたころのトレーナーが見出みいだしたらしい。


トレーナーご謹製きんせいのティハラザンバーには、はじめからそなわっていた特典とくてん能力のうりょくといった所だろうか。


これまで便利に利用していたのであるが、埴輪はにわの巨人の攻撃からは、それが見えなかった。


しかし、現に埴輪はにわの巨人は、意志がある者の様に言葉を発したのだ。


本当に知性をそなえ、みずからの意志にそって攻撃を実行しているとすれば、その理屈りくつ矛盾むじゅんする。


そもそも、つくられた者と言うのであればティハラザンバーと何がちがうのかと、のこちゃんがトレーナーに反論はんろんしようとしていたところ、眼下がんか埴輪はにわの巨人に動きがあった。


ティハラザンバーの咆吼ほうこう余韻よいんおさまり、しばし静寂せいじゃくもどしていた巨木きょぼく大森林だいしんりんに、かたい物がいきおいよくぶつかった様な甲高かんだかい音がひびく。


そちらへ注意をもどしてみれば、黄土色おうどいろの顔を守る様に左右へ展開していた青黒い岩のフェイスガード、所謂いわゆる"かぶと吹返ふきかえし"部分がじて顔をかくす形へ変わっていた。


目の位置にだけほそみぞ隙間すきまが残り、そこから外をのぞけるつくりになっているのだろう。


埴輪はにわよろしく元々もともとの目があなであったにも係わらず、視認しにんが必要な構造こうぞうになっているとなれば、その奧にカメラの様な、埴輪はにわの巨人にとっての重要な部分があるのかも知れない。


どうやら、戦闘で顔へ、つまり弱点への損傷そんしょうを発生させないための措置そちらしい。


「あんなギミックまであったのか………」


ヒーローっぽくてちょっと格好良かっこういいかも的な感心をのこちゃんがしていると、埴輪はにわの巨人の足下あしもとで、地面がミシリと悲鳴を上げる。


何が起きているのだろうかと、事態じたい把握はあくがなされる前に、地上へ出ていた巨木きょぼくの根ごとその地面がぜた。


あろう事か、全身をいわよろいおおわれた重そうな姿でありながら、埴輪はにわの巨人は、いきおいよく跳躍ちょうやくして見せたのだ。


巨大なつるぎも、ティハラザンバーへ痛恨つうこん斬撃ざんげきをお見舞みまいせんと、力をためてりかぶられている。


「はあ!?!」


岩塊がんかいが重さを感じさせないスピードでおのれに向かって飛んでくるだけでも恐ろしいのに、人の形で、しかも攻撃態勢こうげきたいせいまでとっているのだ。


みるみる近づくその迫力はくりょくたるや、のこちゃんに限らず、パニック必至ひっしのシチュエーションだろう。


あれほどのヘビー級が身軽みがるにジャンプするはずがないという思いこみがあったからこそ、つるぎとどかない巨木きょぼくの高い場所に陣取じんどっていた訳であり、その意表いひょうかれた形でもある。


のこちゃんは、何も方向をさだめないまま、取りついていたみきからティハラザンバーを全力ぜんりょく離脱りだつさせた。


常人じょうじんの感覚であれば、すべも無く呆然ぼうぜんとして、巨大な質量しつりょうに押しつぶされるまで動けなかったにちがいない。


瞬時しゅんじ反応はんのうできただけでも、ティハラザンバーになってからのあれやこれやで、のこちゃんも多少は成長していると言える。


その際、思わずキャーとさけんでいたのは言うまでもない。


背後はいごからは、これまでの巨人のつるぎみきをえぐった音とはくらべものにならない振動しんどうと、巨木きょぼくのざわめきが押し寄せる。


『待てっ、そちらはまずい、のこ!』


しかし、同時に、あわてた様子のトレーナーから警告けいこくが発せられた。


その話を聞くにつけ、こまけぇこたぁ良いんだよのイメージが強い、豪快聖女トレーナーにしてはめずらしい。


これには、のこちゃんもハッとわれに返った。


刹那せつなちゅうおよぐティハラザンバーの視界しかいが、一気に明るくひらけてゆく。


「あっ!」


どうやら、さかいけて、巨木きょぼく林立りんりつする森からティハラザンバーは完全に飛び出てしまったのだ。


埴輪はにわの巨人が見せた機動性に加え、執拗しつよう的確てきかくな攻撃行動を上乗うわのせする巨大なつるぎのリーチは、障害物しょうがいぶつの無い平地へいちにおいて絶大ぜつだい脅威きょういになるだろう。


しかも、たよりの"らめきの流れ"はきで、そのすべてに対処たいしょしなくてはならない。


事態じたいを理解すると、のこちゃんは、やっぱり引けば良かったと後悔こうかいかさねた。



ティハラザンバーは、湖畔こはん沿ってひらけた土地へいきおいよく着地する。


白銀しろがねのブーツが土煙つちけむりを上げ、地面をけずっていきおいを殺してゆく。


やや前かがみのくの字になりながら、大きな擦過音さっかおんと共に地をすべり、それでも立つ姿勢しせいくずさない。


こんな状態じょうたいころんだりしないのは、猫的な身体になった超バランス感覚のおかげなのだろう。


それはそれとして、性懲しょうこりもなくうかつな行動をかさねた事で、のこちゃんの気持ちはころんでいた。


「やっちゃったぁ!!」


言っても仕方がないと分かっていても、さけばざるをない。


『そらっ、注意を途切とぎらせるな、追ってくるぞ…のこっ』


「うえっ」


のこちゃんは、地上を滑走かっそうするいきおいを利用して、スピンターンしながら涙目のティハラザンバーを森の方へ向きなおらせた。


その途端とたんに、空中をせまってくる、大きな人型ひとがた岩塊がんかいが目に入る。


恐らく、埴輪はにわの巨人は、それまでティハラザンバーがいた巨木きょぼく激突げきとつした後、みきって追跡ついせき跳躍ちょうやくふたたびやってのけたのだ。


やはり、その鈍重どんじゅうそうな姿に反した機動性には、目をみはるものがある。


青みがかった金属製の剣身けんしん陽光ようこう反射はんしゃして、大きな光のつるぎと化していた。


上から下へ、体重と加速の乗ったやいばひらめきが、空中から容赦ようしゃなくティハラザンバーをねらう。


着地の後を考えない、いかにも頑丈がんじょうつくりの身体をアテにした、豪快ごうかい攻撃体勢こうげきたいせいだ。


しかも、そこに正確さまでせ持つのだから、いかにも合理的ごうりてきたちが悪い。


その意味では、巨体ぶりを生かした圧倒あっとうでもあり、のこちゃんのイメージ通りロボ系のそれなのかも知れない。


有無うむを言わせないその行動力こうどうりょくには、恐怖さえもおぼえる。


生きてきずつきたおる者の視点からすると、それは、素朴そぼく率直そっちょくな感想にちがいなかった。


相変わらず、肝心かんじんな"らめきの流れ"は見えておらず、自分がいかにあのガイドラインをたより切っていたかと実感するのこちゃんである。


「こんなの、どうしろって?!」


と言いつつも、埴輪はにわの巨人が突貫とっかんしてくる軌道きどうはずして、のこちゃんは何とかかわす。


客観的きゃっかんてきに見れば、視認しにんしてから到達とうたつまでは、一瞬いっしゅんであった。


そのまたたに、巨体のリーチによる攻撃範囲こうげきはんいからの離脱りだつこそ容易たやすくなさそうなものだが、ティハラザンバーにはそれを可能とするポテンシャルがある。


直後、埴輪はにわの巨人の激突げきとつした衝撃しょうげきが、大地をらす。


幾度いくどかバウンドして、地面をいきおいよくころがったかと思えば、そのまま何事もなかったかの様に巨体がスックとき上がった。


残念ながら、大きなつるぎも折れたりはしていない。


存在のすべてが、あきれるほどの強度きょうどだ。


『ふむ、戦闘巨人ゴーレムとはくあるべきか…のこ』


トレーナーが変な感心をしている中で、のこちゃんは戦慄せんりつしていた。


実際に、そびえ立つ様な埴輪はにわの巨人と対面してみた所、背丈せたけの差が思っていた以上なのである。


ファーストコンタクトが、"たまたまそこにいた動物"のてい偽装ぎそうしたつんいだったので、正直よく分からなかったのだ。


尖角兵団せんかくへいだんの頭であるベルクも間近まぢかだとあおぎ見る感じだったものの、これは、それ以上かも知れない。


もう、ティハラザンバーでさえ4メートルくらいはあるのだから、人間のサイズから見ればビルに近い高さがある。


ちょっとしたどころか、十分じゅうぶんに巨大ロボのいきへとんでいるだろう。


「こんなの、どうしろって………」


さきほど思わずさけんだ事を、またポツリとかえしてしまう、のこちゃんである。


遠からず近からず、両者のあいだ絶妙ぜつみょうはなれたためこうして観察できるものの、つるぎの間合いに入ってしまったらそんな余裕よゆうは無くなるだろう。


のこちゃんは、考える。


恐らく、逃げてもあのいきおいで追ってくるとなると、シマユリとの合流がむずかしい状況じょうきょうは変わっていない。


停戦ていせんもうても受け付けないとなれば、どうにかしてしのぐしかないのだが、そのどうにかする手段が、戦う以外に思いつかない。


かと言って、何がゆるせないのか知らないものの、おそってくる理由がハッキリしないまま、なしくずしに埴輪の巨人こんなのと正面からぶつかるのは、りかかるにしても納得なっとくがいかない。


のこちゃんは、意を決して、ふたた埴輪はにわの巨人へびかけようと思った。


本当に知性があって、何かしら原因げんいんがあるのならば、こたえてくれるかも知れない。


「あ、あのっ、さっきも言ったんですけど、こちらに戦うつもりはありませんっ。

攻撃してくる理由を教えてください!」


「………………モハヤ、モンドウムヨウッ」


こたえてくれなかった。


いや、会話が成立したのだから、埴輪はにわの巨人に知性はあるらしいという確証かくしょうられたのだろう。


そして、やはり戦いはけられそうにない確認かくにんも。


「………こうなっちゃった以上、何か作戦はないですか?」


どうしても戦わなければならないとすれば、シマユリの安全を確保かくほして逃げる時間をかせぐためと、今は強引に納得なっとくしておく。


となれば、無力化までとゆかずとも、せめて埴輪はにわの巨人をしばらく動けなくするくらいの形勢けいせいにしなくてはならない。


ただ、正直な所、のこちゃんにはやれる自信が無かった。


ここは、歴戦れきせんのトレーナーにたよるしかない心情がまさる。


『ふむ、心許こころもとないのならば、双剣そうけんかまえておけば良い…のこ』


さくなど立てずとも、白銀しろがねよろいと同じく神器じんぎなのだから、力任ちからまかせでるわれている大きさだけのつるぎに打ち負ける理由など無いと、トレーナーは軽い口調くちょうで助言した。


えて、余裕よゆうのある態度たいどしめし、のこちゃんの気負きおいいをかるくしようという心遣こころづかいなのだろう。


しかし、せんだって警告けいこくしたのもハッキリ不安要素ふあんようそがあるからにちがいないと、のこちゃんは確信している。


それは、他でもない、のこちゃん自身の事であろうと。


ティハラザンバーそのものについては、伝説の神獣しんじゅうと伝説の聖女が愛用していた神器じんぎが材料なのだから、その能力のうりょくも折り紙付きだ。


これまでも、トレーナーと共に、ずいぶんと助けられてきたという自覚はある。


「ですよね」


それに、この事態じたい収拾しゅうしゅうさせると決めたのは、のこちゃん自身なのだ。


自信があろうと無かろうと、今は、挑戦ちょうせんするしかない。


のこちゃんは、双剣そうけんを押し入れから取り出して、ティハラザンバーの両手ににぎらせた。


それをけと見たのか、埴輪はにわの巨人は、おもむろにティハラザンバーへ向かってけだす。


岩の山が地響じひびきを立ててせまる。


その手にあるつるぎも、これまで以上に大きく見えた。



あらためて明るい所で見てみると、全身をおおう青黒い岩のよろいもどこか神々こうごうしい意匠いしょう細工さいくであり、気のせいかやや光をはなっていた。


ヒロイックなフェイスガードのギミックも合わせて、埴輪はにわの巨人が、自分ティハラザンバーくらべると何か正義っぽいなと思ったのこちゃんである。


多少、自虐じぎゃくも入っているかも知れない。


「あれ?、もしかしてシマユリちゃんが言っていた、武神様ぶしんさまって…」


『集中するのだ…のこ』


思い切り加速できるのだろう。


障害物しょうがいぶつの無い平地をける埴輪はにわの巨人は、巨体故きょたいゆえ歩幅ほはば加味かみしても、すさまじいスピードだった。


同時並行どうじへいこうして、手にしたつるぎが、その長大ちょうだい剣身けんしん見合みあう大きなをくるりとえがく。


それも、むやみにまわしている訳ではない。


ティハラザンバーへさき到達とうたつした時、最大威力さいだいいりょくになる様に、全力ぜんりょくかつ冷徹れいてつ調整ちょうせいされている。


巨体よりろされるというだけでも脅威度きょういどはかれず、かわそうとして下手へた体勢たいせいくずす方がむしろ命取りと、感覚的にわかってしまう。


「………………ッ」


埴輪はにわの巨人が、裂帛れっぱく気勢きせいんだ。


地面がれ、必殺のさきはしる。


「来た!」


暴威ぼういぶには、あまりにもはやするど斬撃ざんげきと言えた。


確かに、ティハラザンバーの眼力がんりきをもってすれば、その剣筋けんすじ見失みうしなう事はない。


それでも、のこちゃんとしては、双剣そうけん交差こうささせて受けるのが精一杯せいいっぱいであった。


それも、ティハラザンバーの身体能力のうりょくがあってこそなのだ。


刹那せつな、大きなつるぎ双剣そうけんが火花をらし、金属と金属が正面から激突げきとつした重い衝撃しょうげきが腕から全身へと波及はきゅうする。


「はうっ」


「………………ッ」


受け止めた!とのこちゃんが喜色きしょくを上げた瞬間しゅんかん埴輪はにわの巨人はつるぎめたちからゆるめ、ティハラザンバーの体勢たいせいをあっけなくくずした。


必死ひっし力比ちからくらべの様なつもりで前のめりになっていた、その裏をかかれた形である。


咄嗟とっさみとどまったものの、間髪入かんはついれず、ティハラザンバーの背後はいごより衝撃しょうげきが走る。


「あっ…」


前段ぜんだん斬撃ざんげきにはとおおよばないとは言え、埴輪はにわの巨人がつるぎ一撃いちげきを加えたのである。


距離きょりが近すぎてさいわいしたのか、みじかりで、さほど威力いりょくが乗っていなかったらしい。


一応、背中せなか白銀しろがねよろい部分へかわの服ごしだった事もさいわいして、ダメージは通っていない。


のこちゃんはあわてて、双剣そうけんの片方を埴輪はにわの巨人との間にませ、続く斬撃ざんげきふせいだ。


「この!」


今回も初撃しょげきほどの威力いりょくは無く、ティハラザンバーの腕力わんりょくをもって、なん無く巨大なつるぎかえす。


ただ、くずされてしまったバランスからの無理矢理むりやりあやつった剣撃けんげきとあって、格好かっこうは良くない立ち回りだ。


「………………ッ!」


近接きんせつ不都合ふつごうを理解したらしい埴輪はにわの巨人は、みずからティハラザンバーより距離きょりを取るべく、バックステップで飛びすさった。


大きなつるぎ威力いりょく十全じゅうぜんとするためには、それ相応そうおう距離きょりが必要なのだ。


みの時といい、足をさばたびに地面がズシンとれるので、やはり見た通りの重量じゅうりょうではあるのだろう。


もちろん、のこちゃんもこれさいわいにと、ティハラザンバーの残念な体勢たいせいととのえる。


『こやつ、巧者こうしゃではないか…のこ』


手強てごわいぞと、トレーナーの口調くちょうは、心底しんそこ感心かんしんした明るいものだ。


うれしくないんですけど………」


間近まぢかあいまみえてみれば、ティハラザンバーの頭は、埴輪はにわの巨人の腰くらいまでしかなかった。


あらそって難敵なんてきなのは、実際に当たる前から分かりきっていた。


とは思いつつも、確かに、"らめきの流れ"が無い以上、五感ごかんませて、この身体を最大限さいだいげん駆使くししなければならない状況じょうきょうちがいないと、のこちゃんは気をめる。


こうしている今だって自信は無いままだ。


見上げて対峙たいじしなければならない、埴輪はにわの巨人も怖い。


しかし、そんな自分がトレーナーの言葉にささえられて、立ち向かえているのもまた事実である。


のこちゃんひとりであったなら、こうはなっていなかっただろう。


それにしても、さきほどのあわてた警告けいこくは、何だったのだろう。


あんずるな、いくらでも勝機しょうきはあろうよ…のこ』


双剣そうけんにぎるティハラザンバーの両手に、ちからめられた。



バックステップから一拍いっぱくいて、埴輪はにわの巨人が大きなつるぎかまなおす。


両手でつかにぎり、剣身けんしんを巨体の下段げだん右後方へ、引きずる様にかくす形だ。


剣道で言う、脇構わきがまえが近いだろう。


「………………ッ」


自分からはしゃべらない埴輪はにわの巨人なのだが、攻撃する気満々まんまん姿勢しせいくずさないため、その仕草しぐさ一つ一つに鬼気迫ききせまるものを感じる。


のこちゃんが警戒けいかいを強めると、埴輪はにわの巨人は、ふたたびステップをみだす。


つるぎかまえた姿勢しせいのまま、その場で直立した巨体を左方向へ、回転ドアの様にターンさせた。


ズシンと地がれ、一回、二回、三回、くるりくるりと素早くそのまま連続回転し始める。


ステップのたびに回転の速度もして、地のれは、地響じひびきへとなってゆく。


足捌あしさばきが正確であるからか、回転する巨体のじくが安定していて、さながらフィギュアスケートのスピンだった。


「これって…」


状況的じょうきょうてきには、前にいをしたおおかみ獣人じゅうじんのセイランが見せた、よどみの無い回転で攻撃を仕掛しかける舞踏ぶとうの様な体術たいじゅつている。


しかし、こちらには軽妙けいみょうさのかけらも無く、視界をおおかくす様な巨大な岩塊がんかいが、ド迫力はくりょくでスピンしているのだ。


どちらかと言えば、落石らくせきとか崩落ほうらくとか、大規模だいきぼな事故現場に遭遇そうぐうした感じである。


それでも、双方そうほう共通きょうつうしているのは、その場で大きな力を生み出すために回転するのが有用ゆうようという事だろう。


巨大な物体が高速回転しているため周囲しゅういに風が巻き起こり、土埃つちぼこりはげしい。


視界をさえぎるほどでないにせよ、もうもうとした空気が辺りに立ちこめ始める。


場所が湖岸こがんとあって、水面みなもの様子は、振動しんどうにより波立なみだっていた。


まなじティハラザンバーの五感ごかんするどいため、風を切り地をらす轟音ごうおん間近まぢかで当てられ、のこちゃんの危機感ききかんあおられる。


「うっ…くっ…」


間もなく、回転は最高潮さいこうちょうへとたっした。


『ふむ、そろそろ仕掛しかけてくるぞ。

こやつの思惑おもわくは、分かっているのであろう?…のこ』


トレーナーのささやいた通り、地響じひびきを共なって、スピニング埴輪はにわの巨人はティハラザンバーへ急接近きゅうせっきんを開始する。


恐らく、その回転するいきおいでわきかまえたつるぎくつもりと、のこちゃんはすぐにさっしがついた。


「…はい、もちろん…」


もちろん、分かった所で、上手じょうず対処たいしょできるとは言っていない。


セイランの時は、わざと攻撃を受けてそのいきおいで飛び退けたものの、あれこそ"らめきの流れ"が見えていたから可能だった曲芸きょくげいである。


下手へたをすれば、威力いりょくが最高になっているつるぎ直撃ちょくげきされかねないだろう。


それでも、そのままボーッとっている訳にもいかず、普通に飛び退かせる事を始め色々いろいろとティハラザンバーで退避行動たいひこうどうこころみたのだが、そのたびピタリと方向をさだめてせまってくるのだ。


巨大ゆえに、追跡ついせきする効率こうりつの良さは、残念ながら埴輪はにわの巨人へ有利ゆうりはたらいている。


かくれる場所が無い場合、地をう虫などがどれほど必死に逃げ回ろうと、人間がちょっと身をひねったくらいですぐにつかまえられてしまう関係性が分かりやすい。


しかも、ティハラザンバーの毛並みが金色にピカピカ光っていて目立つものだから、そうそう見失みうしなわれる事は無いだろう。


そう考えると、平地へいちのリスクは、なかなかにきびしいものだった。


「だめだ、れないっ」


埴輪はにわの巨人がつかれて攻撃行動を中断する事も無いであろうし、いずれ、その攻撃圏内こうげきけんないとらえられるのは明白めいはくである。


みずうみ波打なみうぎわつめめられ、これが背水はいすいじんかぁなどと、やや諦観ていかん気味ぎみにしみじみと思ったのだが………


「あっ、そうか!」


『さて、どうするのだ?…のこ』


こうですと、のこちゃんは、素早すばや双剣そうけんを押し入れへしまって、ティハラザンバーをみずうみませた。


振動しんどう波立なみだ湖面こめんに、新しく大きな水柱みずばしらが立つ。


何も、窮地きゅうちにあって、背水はいすいに入ってはいけない決まりなど無い。


それに、チャムケアと同じ放送枠ほうそうわくでお馴染なじみのフルヘルムナイトシリーズでも、どんなひどいダメージをわされていようと、川や海といった水の中へ落ちたら生存確定せいぞんかくていとまで言われているくらい何とかなるものなのだ。


むしろ、ピンチ展開の時には、視聴者の安心のために奨励しょうれいされているフシまである。


のこちゃんの個人的な感想です。



咄嗟とっさにとは言え、本気でティハラザンバーを跳躍ちょうやくさせたので、かなり水深すいしんのあるおきまで到達とうたつできたらしい。


みずうみそこへ立てば、完全に身体が水没すいぼつしていて、陽光ようこうきらめく水面すいめんを見上げている。


しかし、埴輪はにわの巨人ならば、せいぜい肩くらいまでのふかさだろう。


んだ衝撃しょうげきで発生した気泡きほうおさまってゆくと、水中の見通みとおしも良くなってゆく。


このくらいの深度しんどになれば何かしら水棲生物すいせいせいぶつがいそうなものの、湖岸こがんと同様に魚の一匹も見あたらないのは、今のさわぎで逃げ出してしまったのだろうか。


息を止めて、グッと閉じたティハラザンバーの口から、多少のあわがこぼれかぶ。


「ん?こんな状態じょうたいでも声が出せるんだね」


また新しい能力のうりょくを発見してしまったと、のこちゃんは、ハハハとかわいた笑いもこぼした。


『ふむ、思い切ったな…のこ』


トレーナーの語気ごきには、どこかおどろきがふくまれている様子だった。


「いえ、これくらいであきらめる相手とは、思ってませんよ」


それでも、あのまま無策むさくでぶつかるよりマシだろう。


その上、水にステップの足を取られて回転を阻害そがいできるし、ただでさえ目立つティハラザンバーの姿もごまかせる。


そうなれば、のこちゃんでも、つけすきが生まれるかも知れない。


『いや、確かおおティハラは、体毛たいもうがベットリして感覚がにぶるとかで水が苦手だったと記憶している…のこ』


「そ、そうでしたか」


平時へいじならばかく、その要素ようそいだティハラザンバーが戦いで水に落ちてはまずいと懸念けねんしていたのだが、みずかむとは思わなかったぞ…のこ』


「ああ、さっきの警告けいこくって、そういう事ですか…」


魔の神獣しんじゅうといっても変な所が猫っぽいなと、のこちゃんは、身体ティハラザンバーをくねくねさせて何か異変いへんがないか確認する。


気をそらしたのは、ほんの一瞬いっしゅんであった。


刹那せつな強烈きょうれつな爆発音と水圧すいあつおそわれ、一気に押し流される。


不意ふいかれた形なので、ティハラザンバーは水のうねりになすすべもなくころがり、湖底こていでもみくちゃに翻弄ほんろうされてしまった。


「?!?!?!?!?!?!?………」


文字通り目を回す、のこちゃんである。


『落ち着くのだ、あれが回転のいきおいを殺さずに、んできたのであろうよ…のこ』


こちらを見失みうしなってはいないはずであるから攻撃に注意するのだと、淡々たんたん状況じょうきょうの見立てを話すトレーナーの言葉で、のこちゃんは落ち着きをもどしていった。


爆発に衝撃しょうげきを発するほど、あの回転には、エネルギーがあったという事だろう。


いきなりぶつかってみなくて正解である。


それに、この身体ティハラザンバーは、そこそこヤワじゃない事を思い出す。


「そ、そう言えば、最初からティハラザンバーを見つけて来てたっぽいですからね」


埴輪はにわの巨人は、目視もくし以外の感知方法かんちほうほうを持っていると考えるのが自然である。


どうりで、あんなスピンをしていても、正確に追跡ついせきされてしまう訳だ。


もっとも、ティハラザンバーもそんな埴輪はにわの巨人を感知かんちし返したのだから、相手の事は言えないのだが。


しかし、水の中では、それもよく分からなくなっている。


確かに、おおティハラ由来ゆらいの部分は、水が苦手だったらしい。


またしても早まった行動だったのかと、のこちゃんが意気消沈いきしょうちんしかけた所で、次の動きが見えた。


『失敗でもない様だぞ、身構みがまえよ…のこ』


「え!?」


トレーナーが言うやいなや、頭上ずじょうに影がす。


ハッとして見上げれば、水面の上からりかかってくる、埴輪はにわの巨人の姿があった。


恐らく、水中での直接的な攻撃の続行ぞっこういとい、その機動力きどうりょくをもってわざわざ飛び上がった模様である。


もう、回転はしていない。


おのれが水の外にり、つるぎだけを打ち入れるのであれば、まだマシであっただろうよ…のこ』


埴輪はにわの巨人は、自身の巨体ごと湖面こめん再突入さいとつにゅうして、りかぶった大きなつるぎはなつ。


「!!!!!!!!!!………あっ」


当然ながら、その巨体がゆえに、水の中で生み出される衝撃しょうげきによってティハラザンバーは押し流される。


加えて、巨大なつるぎ剣筋けんすじも水の影響えいきょうわずかに阻害そがいされた。


これでは、正確な攻撃などできはしないだろう。


すなわちち、のこちゃんが期待した、つけすきしょうじているのだ。


まぁ、しょうじれば良いなぁくらいの思いつきだったので、これをねらっていた訳ではなく、所謂いわゆる"結果オーライ"なのだが。


『なるほど、恐れていただけでは、活路かつろ見出みいだせぬのであろうな…のこ』


トレーナーが感心した口調くちょうで何やら言っている様子だったのだが、のこちゃんは、現在このチャンスをどう生かすべきか必死ひっし思案しあんのまっ最中さいちゅうで、それどころではない。


いざ"つけすき"ができても、どうつけるのか考えていなかったのだから、それはそうなる。


あまり戦いの経験則けいけんそくも無いので、これといったひらめきもないまま、あせりがつのるばかりであった。


つい、そう言えば『ハードチャレンジ!チャムケア』のケアタラッタは、敵の身体にまれて、チャムケア史上初しじょうはつの"チャムケアの浄化必殺技じょうかひっさつわざをその身に受けたチャムケア"だったよなぁとか、余計よけい雑念ざつねん現実逃避げんじつとうひしそうになる。


ただ、そのあいだも今度はうねる水に翻弄ほんろうされる事なく、流れに動きを合わせ、ティハラザンバーを埴輪はにわの巨人のまわりで移動させていた。


またぞろ、湖底こていにてつんいとあり格好良かっこうよくはないのだが、文字通り虎視眈々こしたんたん獲物えものねらていに見えなくもない。


それをまず状況じょうきょう判断はんだんしたのだろう。


埴輪はにわの巨人は、ふたたび水中よりだっしようと、跳躍ちょうやくちからをためるべくひざをくの字にして身をかがめる。


その瞬間しゅんかん、のこちゃんにもめるべきポイントがひらめいた。


「それだ!」


『ふむ、好機こうきだな…のこ』


のこちゃんは、渾身こんしんちからで、ティハラザンバーに湖底こていらせた。


水の抵抗ていこうをものともせず、はじんだティハラザンバーは、両方のこぶし標的ひょうてきさだめた場所へ思い切りき入れる。


うらみはないけど、ごめんね!」


「………………ッ?!」


シマユリを危険にませないためにも、この訳の分からない追跡者ついせきしゃの機動力を、できるだけうばっておきたい。


ティハラザンバーの位置も良かった。


埴輪はにわの巨人がげたひざ真裏まうらを、直接ちょくせつねらえたのだ。


つまり、乾坤一擲けんこんいってきひざカックンである。


水中ににぶい音がひびき、埴輪はにわの巨人は、脱力だつりょくする様な動きで仰向あおむけにたおれる。


全身をささえるかなめへダメージを通せた事により、自重じじゅうで上半身がられたのだろう。


手応てごたえも確かだった。


ただ、ぶつけたりころんだりと何も心当こころあたりがないのに痛くなるひざで苦労していたおばあちゃんの事を思い出して、のこちゃんは少しだけ後ろめたかったのだが。



自重じじゅうがかなりあるとは言え、水中で転倒てんとうしたのでは、あたえた衝撃度しょうげきどの意味で心許こころもとない。


時間をかせぐならば、何かもう一押ひとおししておきたい、のこちゃんであった。


膝裏ひざうらへの痛打つうだを成功させた後、その場から緊急退避きんきゅうたいひしたティハラザンバーを、湖底こていで横たわってる埴輪はにわの巨人へふたた接近せっきんさせる。


恐らく、ひざへのダメージ次第しだいなのだが、戦闘力せんとうりょくを決定的にうばえた訳でもないため、かなりの注意が必要だろう。


「………き上がらないですね」


『ふむ、つついてみるか?…のこ』


しかし、一押ひとおしを追加しようにも、現在ティハラザンバーが打てる手は少ない。


「もったいないけど、双剣そうけんの片方で、足をここへいつけるとか…」


漂流結界ひょうりゅうけっかいの"おり"の中、双剣そうけん神獣しんじゅうおおティハラをふうじていたイメージを、のこちゃんは思いえがいた。


ものすごいきおいで近づき、埴輪はにわの巨人が対応たいおうできない内につらぬいて、全力ぜんりょく離脱りだつすれば何とかなるかも知れない。


『ふむ、それは無理だろうよ…のこ』


「あっ、やっぱり大切な神器じんぎを、そんな使い方したらまずいですよね、言ってみただけですっ」


天空の女神リナリーシア関連に対して大凡おおよそがセンシティブなトレーナーである。


怒られる前にと、速攻そっこう予防線よぼうせんるのこちゃんは、かなりの早口だった。


割と本気だったのだが。


『いや、神器じんぎは、その身から遠ざける事ができないと言った方が良いだろう。

以前、"双剣そうけん"と"のこのたましい"は、同化どうかしてつながっているとかたった事をおぼえているな?…のこ』


そう言えばそんな事を聞いた様な気がするなと、のこちゃんは、朧気おぼろげな自分の記憶をさぐる。


「え~と確か、わたしの成長に合わせて、一緒いっしょに強くなるとかなんとか…」


語尾ごびがごにょごにょしているのこちゃんにおかまいなく、トレーナーは続ける。


すで双剣そうけんは、白銀しろがねよろいと同じく、のこ自身と決してはなせぬ存在となっている。

それは、精神的せいしんてきな意味はもちろんなのだが、身体からもほぼはなれないという事なのだ。

目の前にくくらいはできても、使いてる様なマネをした所で、すぐに手元へもどってよう…のこ』


だから、戦いの中での投擲とうてきもかなわぬぞとの説明に、のこちゃんは、伝説のイメージで見たせいザンバー=リナが、双剣そうけんいて何かを飛ばす攻撃をしていた姿を思い出した。


あれは、遠い間合いの相手へ双剣そうけん対処たいしょせざるをない場合、使われるものなのだろう。


「(そうだ、あれ、かなり格好良かっこういいから、やり方をおそわらないと!)」


そんな攻撃をティハラザンバーが使用すると、いかにも怪人かいじんっぽい絵になる事を、のこちゃんはまだ気が付いていない。


それはそれとして、現在の問題をどうするかである。


近づいてみたものの、埴輪はにわの巨人が急に動いてもけられるであろう位置で、ティハラザンバーは手を出しあぐねていた。


気軽にさわっても大丈夫だいじょうぶ状態じょうたいなら、サクッと近づいて、さらしばるものでもあれば事足ことたりる話なのだが。


そもそも、押し入れの中に緊縛きんばく用のロープを用意していないので、これからは、こんなケースも想定そうていして準備じゅんびしておいた方が良いのかも知れない。


と言うよりも、双剣そうけんが気軽に使いてられないらしいので、もう少し色々いろいろ選択肢せんたくしやす必要がありそうだ。


いざとなったら使いてる気でいたのかと、トレーナーに怒られそうなので、本心はぼかしておく。


その辺り、何かと気をかけてくれる、ジャガー獣人じゅうじんのベニアにでも相談してみよう。


そんな調子で、のこちゃんがうわのそらになるクセを、見抜みぬかれていたのであろうか。


横たわっていた埴輪はにわの巨人が、突然、つるぎにぎっていない方の手をティハラザンバーへばした。


手を動かす事の比喩ひゆではない。


本当にうでびて、またたに、ティハラザンバーの足をつかんだのだ。


もちろん、上腕部じょうわんぶから切り離してうでだけ飛んでいたら何かがあぶなかったものの、物理的ぶつりてきびているだけなので、あるあるの範疇はんちゅうである。


「なっ?!」


『ほう、これはまた面白い仕掛しかけだな…のこ』


「………………ッ!!」


水中は不利と判断はんだんしての擬態ぎたいだったのだろう。


たおれた姿で、ティハラザンバーのすきねらっていたにちがいない。


埴輪はにわの巨人は、一気いっきうでを元の長さにもどし、ティハラザンバーを引きせた。


「なにそれぇ!?!」


またしても、つるぎとどかないであろう距離きょりを安全とする思いこみで、そのうらをかかれた形である。


た様な失敗をかえしてしまったショックもあってか、のこちゃんは気が動転どうてんして、反抗はんこうの行動へと切り返せない。


一瞬いっしゅんでティハラザンバーを抱きかかえると、埴輪はにわの巨人はいきいよくき上がり、そのまま跳躍ちょうやくして湖中こちゅうより脱出だっしゅつしてみせた。


水飛沫みずしぶきはげしく広くちゅうる中で、みずうみから飛び出した岩塊がんかいからられた何かが、金色にきらきら光っている。


はたから見れば、ある意味、そんな幻想的げんそうてき光景こうけいだった。


実際は、ティハラザンバーが埴輪はにわの巨人に羽交はがいめされた状態じょうたいで、拉致らちされているにすぎない。


いや、湖岸こがんへ向けての強制空中搬送きょうせいくうちゅうはんそうが、状況じょうきょう説明としては適当てきとうだろうか。


『そら、次の仕掛しかけが始まるぞ…のこ』


本当に楽しそうなトレーナーの口調くちょうに、何をのんきなと、のこちゃんから発せられた怒気どきは、精神的せいしんてき活力かつりょくへと転換てんかんされる。


活力かつりょくもどれば、思考力しこうりょくも復活する。


一番の起爆剤きばくざいは失敗をかえしてしまったはずずかしさもよみがえったせいなのだが、そんな気勢きせいが、豪腕ごうわんでガッチリ拘束こうそくされ身動きの取れないティハラザンバーに双剣そうけんにぎらせた。


白獅子しろじし御大将おんたいしょう こと じっさん との決闘でも見せた様に、押し入れの中から直接ちょくせつ、両手へ顕現けんげんしたのだ。


何かコツがあるのかもと思いつつも、反撃はんげきのチャンスとばかりに、のこちゃんは、気持ちをえる。


しかし、反撃はんげきするにしても、ずは、この拘束こうそくかねばならない。


何とか、双剣そうけん埴輪はにわの巨人にき立てられないものかと、もがいてみる。


「この…おわっ?!」


埴輪はにわの巨人はそんなのこちゃんの思惑おもわくを許さず、おそらく跳躍ちょうやく到達地点とうたつちてんおぼしき湖岸こがん平地へいちへ、思い切りティハラザンバーをてた。


それなりの高さからなので落下のエネルギーも加わり、無防備むぼうびに地面へたたきつけられれば、ティハラザンバーといえどもただではまないだろう。


「………………ッ」


そして、ふたたび空中にて大きなつるぎかまえなおすと、埴輪はにわの巨人は、追撃ついげきする形でティハラザンバーをねらうつもりらしかった。



みるみるせま地表ちひょうたりにして、いつもののこちゃんならば、半狂乱はんきょうらんだったのかも知れない。


「あったまきた、ひとの事をゴミみたいにして!」


しかし、今は怒気どきまさってなのか、反骨はんこつ反撃はんげきモードなのか、やる気にちて状況判断じょうきょうはんだんみょうにスムーズである。


地面へ向かって投げ飛ばされたティハラザンバーは、のこちゃんの"このままでましてなるものか"の意向いこうみ、クルリと宙返ちゅうがえりして体勢たいせいえる。


足を下に、追ってくる埴輪はにわの巨人へ正面から顔を向け、キッと見据みすえた。


両腕りょううでが左右に開かれ、双剣そうけんは、つばさの様に広げられている。


落下する姿勢しせいみょうに安定している事に、のこちゃんは気が付いていない。


『ふむ、良い調子だ…のこ』


はげましているとおぼしきトレーナーなのだが、語気ごきふくまれる喜色きしょくが、現在ののこちゃんにはニヤニヤしている感じに聞こえてしまう。


もう、実際に動かなきゃならないこっちの身にもなってくださいよと、さら怒気どきの火へ油がそそがれる。


間もなく、ティハラザンバーは、そのままのいきおいで足から大地に到達とうたつした。


着地の轟音ごうおんが、巨木きょぼく大森林だいしんりんにもこだまする。


身体へかかるはずであった落下の衝撃しょうげきを逃がすために、また地面を滑走かっそうしたのだが、そのあとがだいぶえぐれていてエネルギー量の大きさを物語っていた。


白銀しろがねブーツの頑丈がんじょうさも大きいものの、大凡おおよそ負荷ふかは、ティハラザンバーの身体能力のうりょくでいなしたのだろう。


あとは、それでもころばない猫的な超バランス感覚サンキューといった所である。


間髪入かんはついれず、埴輪はにわの巨人が相変あいかわらずな攻撃姿勢こうげきしせいで、落下の加速と重量じゅうりょうと共にりかかってきた。


「………………ッ!」


つるぎと言うよりも、巨体そのものが風を切る音でせまる。


「ふざけんっ、なっ」


状況判断じょうきょうはんだんがスムーズであっても冷静れいせいとは言いがたいのこちゃんは、即座そくざこうからの迎撃げいげきへとった。


通常つうじょう精神状態せいしんじょうたいであれば、そのままつぶされかねないと、退避行動たいひこうどう優先ゆうせんしただろう。


トレーナーももくして、のこちゃんの選択をとらえている模様もようである。


しかし、交差こうささせて受けるひまが無いので、身体の左右へハの字に開いていた双剣そうけんを、き出されて来る大きなつるぎはさむ様に直接ちょくせつぶつけた。


まさしく、おうナンボのもんじゃいやったらぁ的な、完全にいきおまかせの暴挙ぼうきょと言える。


生半なまなか刀剣とうけんであれば、埴輪はにわの巨人が持つ質量しつりょうに負けて、くだかれるのがオチなのであろうが………


「え!?」


予想された激突げきとつ衝撃しょうげきしょうじない。


「………コレハッ?!?」


その代わり、突如とつじょとして、ティハラザンバーと双剣そうけん起点きてん強烈きょうれつ突風とっぷうが発生した。


それは、自重じじゅうと落下のエネルギーをせた埴輪はにわの巨人のいきおいに、カウンターとしてとどめるにとどまらない威力いりょく暴風ぼうふうである。


埴輪はにわの巨人は、一瞬いっしゅんふわりとかぶ様な挙動きょどうを見せた後、ティハラザンバーの前からき飛ばさた。


双剣そうけんたたき付けられた所から、大きなつるぎくだる。


ついでに、たいしたものであろうとトレーナーのドヤ声が続いた。


『その手にるは、他ならぬ天空の女神リナリーシア様の神器じんぎなのだ。

こと、この大気がみちであれば、地上であれ空であれ何も恐れる事はない…のこ』


何なら、この大気に斬撃ざんげき威力いりょくだけを乗せて飛ばせるのだぞと、自慢じまんめいた方向へ話が展開してゆく。


一方、のこちゃんは、いつもの様に急で大事おおごとな現象にビックリしてかたまっていたので、ノーリアクションである。


数泊すうはくの間を置いて、あれ、じゃあ水の中って本当にヤバかったのかもと、通常運転の復活と共に、のこちゃんの危機感ききかんも仕事をし始める。


何しろ、おおティハラの部分はハッキリと水が苦手であり、逆に大気の満ちていない場での神器じんぎ微妙びみょうそうなのだ。


「う、運が良かったんですね………」


怒気どきたかぶっていた気持ちが、すとんと一瞬いっしゅんで引いた。


やはり、トレーナーが危惧きぐしていた通り、ティハラザンバーにとって水中は鬼門きもんという事なのだろう。



き飛ばされた埴輪はにわの巨人を見やれば、大地に投げ出された格好かっこうたおれ、もぞもぞき上がろうとする所だった。


「………………ッ………ッ」


今度こそはダメージがあるらしく、動きがぎこちない。


この様子なら、十分じゅうぶんに目的を達成たっせいできたと、のこちゃんは安堵あんどする。


シマユリと合流しても、うしろを気にする事なく武神様ぶしんさまを探しに行けるはずである。


ただ、さきほどいだいた疑念ぎねんの通り、シマユリの言う武神様ぶしんさま埴輪はにわの巨人だった場合は、状況じょうきょうえがかなりこじれてしまうのだが。


「まさかね…」


刹那せつな、何かの光がティハラザンバーを背後はいごかららす。


けるのだっ、のこ!』


またしても、らしくないあわてたトレーナーの警告けいこくだった。


「え…」


それと同時に、不意ふい衝撃しょうげきがティハラザンバーをはじき飛ばす。


「がはっ?!」


身体がきりもみ状態じょうたいとなって、地面へころがされる。


まるで、強く一点にしぼられた密度みつどの高い衝撃しょうげきで、無理矢理バランスをくずされた感覚である。


大丈夫だいじょうぶかっ、のこ!』


そして、かれた様な痛みが、衝撃しょうげきく。


「うぐっ……」


のこちゃんがとらえる"らめきの流れ"は、確かにそこにった。


しかし、背後はいごからの不意打ふいうちとあり、気か付いたのはトレーナーのみだったのだ。


知覚ちかくし、対処たいしょできてこその手段である。


のこちゃんはショック状態じょうたいおちいって、ティハラザンバーをうめかせる事しかできない。


さらに、相次あいつぐ"らめきの流れ"と共に、光の衝撃しょうげきちをかけた。


その都度つど、ティハラザンバーははじかれ、周囲しゅういの地面もえぐれてゆく。


どうやら、光による射撃しゃげきの様な攻撃らしい。


のこちゃんがティハラザンバーへと生まれ変わって以来いらい、感じた事のない激痛げきつうが、次々つぎつぎに全身をおそう。


『しっかりせよ、のこ!、のこ!』


「……くあぁぁ、あぁぁっ」


それでもティハラザンバーにしてみれば許容範囲きょようはんいのダメージなのか、生き物ならば持っているであろう精神せいしん苦痛くつうからはな安全装置あんぜんそうちはたらかず、のこちゃんの意識いしきは失われないままである。


しくも、のこちゃんとティハラザンバーのいびつさが垣間見かいまみえた瞬間しゅんかんだった。


周辺しゅうへん土煙つちけむりが立ち、その中でころがったティハラザンバーが、黄金の毛並みをかがやかせながらのたうつ。



しばらくすると攻撃はみ、林立りんりつする巨木きょぼくの間にうずくまる暗闇くらやみの中から、そのやみを切り取った様な人影が湖岸こがんの開けた土地へ歩み出てきた。


「まぁ、派手はであばれちゃってなぁ…」


若くはない、粗野そやで野太い男の声であった。


背丈せたけは2メートル前後の、人間であろうか。


ティハラザンバーにくらべれば、半分ていどにすぎない。


全身が漆黒しっこくのその姿は、よろいとはちが雰囲気ふんいき金属装甲きんぞくそうこうで、頭からつま先までをおおう。


左右に羽根飾はねかざりを付けた丸い頭部には、双眸そうぼうおぼしき二つの光点こうてんともっている。


その者は、埴輪はにわの巨人を一瞥いちべつして、あ~あとため息をいた。


「どこのどいつか知ったこっちゃねぇんだけどな、あのデカブツはこっちの獲物えものなんでな、結構けっこうこれが手間てまかかってんだよ………………

横から勝手かってに手ぇ出してんじゃねぇぞ!」


要は、埴輪はにわの巨人に対する、先約せんやく主張しゅちょうである。



処刑騎士団しょけいきしだんのアビスガルダ、暗闇くらやみ色の男は、そう名乗った。

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