16.晴臣くん
「う、うー……喉、渇いた……」
喉の渇きで目が覚めた私は、キョロキョロと周りを確認する。
……どこなの、ここは。
見たこともないベッドの上。着衣は……特段乱れてない。
「えっと……そうだ、拓真くんのバレー仲間と飲んでて……それで?」
途中から記憶がない。それまでは、しっかり覚えてるけど。
ベッドサイドの時計の表示は、午前……四時!?
きゃーー、ヤバい!! 今日は出勤だよ!! 男の子の家にお泊りだなんて、とんでもない!!
ガチャッと扉を開けて、リビングの方へ歩いてみる。
ソファーでは、拓真くんと晴臣くんが手足をはみ出させて寝てた。
晴臣くんのベッド、私が取っちゃってごめんなさい……っ!
二人を起こさないようにそうっとリビングに入って、置きっ放しのバッグを手に取る。
ありがとうって書き置きしておいた方がいいよね?
バッグの中のペンとメモ帳を取ろうとしたら、晴臣くんが目を覚ました。
「あ、園田さん」
「晴臣くん……ごめんなさい、起こしちゃった?」
「平気っす。それより園田さんは大丈夫なんすか?」
「う、うん、もう大丈夫……ごめんね、恥ずかしいところを……」
「かわいかったっすよ、園田さんの寝顔。だから恥ずかしがんなくて大丈夫」
え、ええー!? そんなこと言われると、余計に恥ずかしいんだけどー!?
あはは、と乾いた笑い声を上げると、晴臣くんは目がなくなるくらいにニカッと笑ってくれた。
かわいいなぁ、晴臣くんも。ぜひ弟に欲しい。
「園田さん、よかったら俺と携帯交換してくれないっすか?」
「あ、うん、ぜひ。今度、迷惑掛けちゃったお詫びさせて?」
「別に迷惑なんかじゃなかったけど、園田さんがそう言ってくれんなら、お願いしまっす」
嬉しそうに笑う晴臣くん。弟みがすごいよ。なにこれ飼いたい! 餌付けしたい! 餌付けされてるのは私の方な気がするけど!
「あ、俺ら月水土の夜はそこの市立の体育館で練習してるし、火曜は第二中の体育館で、金曜は北鳥白小学校の体育館で練習してるんで、よかったら見に来てください!」
「わ、すごい、ほとんど毎日練習してるんだね。仕事があるから行けない時もあるけど、行ける時は覗かせてもらうね」
「来てくれるんすか!? ありがとうございます!!」
この子……人を喜ばせるの、上手いなぁ。これだけ喜んでくれたら、気分も良くなっちゃうよ。
「うう……今何時……」
私と晴臣くんが番号交換のためにスマホをフリフリしていると、拓真くんが寝ぼけ眼で起きてきた。
きゃーー、寝起きの拓真くんを見られるなんて……神さま、ありがとうございます!!
「四時過ぎだよ、タクマ」
「まだそんな時間か……」
眠そうな大欠伸をして、頭を掻いてる。うう、もう死んでもいい。よくないけど。
「おっけ、園田さん。交換できたっす」
そう言われて私もスマホを見てみると、もう晴臣くんの情報が登録されていた。今の時代、携帯を振るだけで登録情報が交換されるから、楽だよね。
「園田さんって、
「えっ?」
私は、フリガナをソノダってまでしか登録してなかった。自分の名前の発音が嫌いだから。
当然のことだけど、みんなは私の名前を見て、ミキって読む。患者さんにもミキさんって言われることあるし、面倒だからいちいち否定して嫌いな名前を教えたりはしない。
「あー、じゃ、俺もミキさんって呼ぶわ」
「お前はいいんだよ、タクマ!! 俺だけが呼びてぇの!」
「あ? なんで? 別にいいだろ?」
「ぐーーーっ」
「んじゃあ、ミキならいいのか?」
「なんでお前は、年上の女の人の名前を平気で呼び捨てにするんだよ!」
「え? 別に普通だろ?」
晴臣くんって、表情がくるくる変わるなぁ。面白い。
「ふぁあああ。んー、ミキ。帰るなら送るけど、どうする?」
眠そうな拓真くんがサラッと私の名前を呼んでくれた。まぁ、本当の名前じゃないけど。それでもちょっとドキッとしちゃう。
「うちで朝ごはん食べてってもいっすよ。なんか作りましょうか」
晴臣くんの朝ごはん……食べてみたい気はするけど、昨日結構食べちゃったからお腹はまだ空いてない。
「ありがとう。でも帰ってお風呂に入りたいし、今日は出勤で用意もあるから、もうお暇するね」
「そっすか」
「本当に長い時間お邪魔しちゃってごめんなさい。ベッドまで占領しちゃって」
「別にいっすよ。お詫び、楽しみにしてますから」
あら、期待されちゃってる。なんにしよう……菓子折り? 製菓専門学生に?
なにが喜ぶんだろ、わからないや。また後で考えよう。
「じゃあ、ありがとう晴臣くん」
「んじゃ、学校でな、晴臣」
「バイバイ、ミキさん」
なんか、ミキさんって呼ばれるのがくすぐったい。
でもちょっと嬉しくなって、にやけそうになる顔を隠しながら、拓真くんと並んで外に出た。
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