15.酒は飲んでも飲まれるな
私は置かれたカクテルを目の前にして、じっと考える。
自分の主張をしたら緊張して喉が渇いちゃった。
でもお店で飲むならまだしも、男の子の部屋で、しかもほとんど男の人だらけの部屋で飲むって、あんまりよくないよね……。
「園田さん、飲まねーの?」
私に問いかけながら、二本目のビールをゴキュゴキュ飲んでいる緑川さん。本当に美味しそうに飲むんだ、この人……。
まぁ、私はお酒強い方だし……一本くらい大丈夫だよね?
私はついに誘惑に負けて、栓を開けて飲んじゃった。
一本だけ……一本だけね。
「あれ? もう飲んでんすか。とりあえずこれ、ツマミにしといてー」
晴臣くんが持ってきてくれたのは……焼き鳥と枝豆じゃない! これにはビールでしょ!!
私がジッと見ていると、平さんがニッコリしながらビールを渡してくれる。
「園田さん、すっごい飲みたそうな顔してるよ?」
クスクスと声を殺して笑う平さん。うう、恥ずかしい……けど、嬉しい。
まぁもう一本くらいなら、余裕でしょ。
私はビールを手にとって、プシュッと開ける。
ゴクゴク飲んでいると、それから次々に料理が運ばれてきた。
社会人には居酒屋系メニュー、未成年グループにはお洒落な創作料理が出揃ってる。どれを食べてもいいと言ってくれたから、私はお昼のお弁当と同じく、あちこちと摘んで飲み、三本目も開けちゃった。
もうどれもこれも……やっぱり美味しい。
緑川さんも、「俺、このチームでよかったなぁ」と噛み締めながら食べてる。
料理を終えた拓真くんが、私の隣に戻ってきて腰を下ろした。
「園田さんも飲んでんの? 平気?」
「あ、うん。このくらいは大丈夫」
未成年組は大人がなにも言わなくても、ちゃんとジュースかお茶を飲んでる。こういうところ、すごく好感が持てるなぁ。やっぱりいい子たちだ。
楽しいし美味しいし、心地良くって、ついついお酒も進んじゃう。もう一本だけ、ビール飲んじゃおうかなー。
って!! ダメダメ、拓真くんに大酒飲みだなんて思われたくない!!
ビールに手を伸ばそうとして引っ込めて、思わずチラッと拓真くんの顔を確認する。
「ん? これ?」
拓真くんはそう言いながら、ビールを一本取ってくれる。
「えーと……うん、そうなんだけど」
しかも、拓真くんがプルタブを開けて渡してくれた。
わぁ、飲まないわけにはいかなくなっちゃった!!
「おいおいタクマ、女の子にそんな飲ますなよ」
三島さんが呆れたように言って。
「ちょっとタクマくーん、女の子酔わせてなにするつもりー?」
緑川さんがからかう。
「なんもしねーって!!」
ちょっと赤くなって怒ってる拓真くん。こんな顔もするんだ、かわいいー。ゴクゴク。
「園田さんが酔ったら、ちゃんと家まで送るから」
うん、まぁ家は隣だもんね。わーい、送ってもらっちゃおう。ゴクゴク。
「ええ、タクマズッリイ!! 俺が園田さんを家まで送りてぇ!!」
「お前の家はここじゃねーか、晴臣。俺は家に帰るついでだし」
「くっそう! って、もう園田さんの住所聞き出してんのかよ?? お前、意外に手ェ早いんだな」
「いや、違くて……」
ゴクゴク。ん? どうして拓真くんは私を見てるの? あ、ビールなくなった。もう一本、プシュッと。
「園田さん、ペース早ぇけど、本当に大丈夫か?」
心配されるようなことはなにもありません。私、お酒は強いから。ゴクゴク。
「そう言えば、園田さんってなんで
三島さんの問いに「ああ」と拓真くんが口を開いた瞬間、別の声が重なって聞こえた。
「それはヒミツでーす!」
ぼんやりと目だけを声の主に向けると、結衣ちゃんは人差し指を口の前に置いてウインクしてる。
「秘密? 結衣ちゃんなんか知ってんの? 教えろー!」
「緑川さんってば。うーん、でも言わないって約束しちゃったし」
「園田さんベロベロじゃん。もう聞こえてねぇって」
失礼な。ちゃんと聞こえてるってば。ゴクゴク。
「うーん、まぁ相手が誰だか言わなければいっかぁ」
え? よくないよ。結衣ちゃん、なに言うつもり?
「あのね、実は園田さん……」
「うんうん!」
身を乗り出している緑川さん。他のみんなはあんまり反応してないみたい。
「好きな人の応援にきてたんだと思う」
ゆ、結衣ちゃん!? なんで知ってるの!? そんなこと言ったら……私の気持ち、拓真くんにバレバレじゃない!
この中で知り合いって言ったら、拓真くんしかいないんだからー!!
「なに!? それって、この中に好きな人がいるってことか!? 誰だよ、園田さんと知り合いの奴!!」
どどどうしよう……もうやだ、バレちゃう!!
拓真くんは驚いたように私を見てるし……
飲まなきゃやってらんない!! もう一本!! ゴクゴクゴクゴクッ
「それが、園田さんの知り合いっていうのとは、ちょっと違うんだよね〜」
……ん? なに言ってるの、結衣ちゃん。拓真くんは、ちゃんと知り合いだよ?
「もったいぶらないで、教えてくれよ結衣ちゃん!」
「えっとねー、今の知り合いじゃなくって、ずーっと昔の知り合いだって」
結衣ちゃん……もしかして、私は三島さんのことが好きで応援しにきたと思ってるの?
ち、違うよ!? そりゃ、昔は好きだったけど、このチームに初恋の人がいるなんて、思いもしてなかったんだから!
「ずーっと昔の知り合い? 誰だ? おい、園田さんのこと覚えてるやつ、挙手しろ。しなきゃ殺す」
無茶苦茶言ってる緑川さん。もしかしたら、三島さんが思い出しちゃうかもしれないと思ったけど、誰も挙手しなかった。
拓真くんも、昔からの知り合いではないから、手を挙げなかったみたい。どういうことかわからないみたいで、拓真くんはちょっと首を傾げてる。
「おいおい、誰もいねーぞ」
「向こうはもう忘れちゃってるかもしれないって言ってたし、本当に忘れちゃったのかもね」
「それで、園田さんはその人のことが好きだって、結衣ちゃんに教えたわけ? 会って間もない人に、好きなやつの話なんかするか?」
言ってない、言ってないよ! 私は拓真くんが好きなんだから、三島さんを好きだなんて絶対言ってない! 初恋の人だったってことも言ってないし!
「それがね、園田さんってば大胆なんだよ。あの体育館で、いきなり『大好きー!』なんて告白してるんだもん!」
あ!! あれは……違うのーー!! もういやーーーーッゴクゴクゴクッ
「多分、好きな人の活躍を見て、気持ちが抑えられなかったんじゃないかなぁ」
違うの、違うのーーーープシュッゴクゴクゴクゴクゴクゴクッ
「で、結衣ちゃんはその相手の野郎を知ってんだろ? 誰だよ?! まさか……忘れちまってるだけで、俺とか!?」
「それは言えないよー、園田さんとの約束だもん」
「うおおお、気になって今日眠れねーよ!! 誰だよ、教えてくれって!」
「うーん……じゃあ、園田さんには私が言ったっていうのは内緒にしておいてね」
ちょっと結衣ちゃん! 目の前で私、聞いてるんだけど!?
「園田さんの好きな人は……」
「結衣」
結衣ちゃんの言葉を直前で遮ってくれた人がいた。晴臣くんだ。
「もうやめとけって。園田さんだっていい気しないだろ。おしゃべりな女は嫌われんぞ」
「……」
晴臣くんの言葉に、結衣ちゃんは口を噤んでる。
ほ、助かったぁ……でももっと早く止めてほしかったよ、晴臣くん。
「晴臣〜〜」
「すんません、鉄平さん。でも俺、こういうの嫌なんで」
ああ、もう頭が重い……テーブルが、目の前に近づいてきてる……。
「園田さん、平気っすか?」
晴臣くんの声が響いて聞こえる。うん、大丈夫。意識はハッキリしてるんだよ。
ただ体が重くて動かないだけ。目も開けらんない。
「マズイな。晴臣、ベッド貸してくれ」
「こっちだ」
拓真くんと晴臣くんの会話の後、私の体は浮遊感に包まれた。
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