07.初メール
大晦日から元旦にかけての夜勤がようやく終わった。
私は家に帰って、拓真くんの携帯番号の入ったスマホを覗く。
今から、『明けましておめでとう』メールを送るつもりなんだ。颯斗くんに絶対に送るように言われちゃったから。
メッセージアプリは許可制みたいで登録されていないようだから、ショートメールで……ああ、緊張する!
『明けましておめでとう、拓真くん。今年もよろしくね。良いお正月を』
ふぁあああ、送っちゃったーーーーッ
へ、変じゃなかったよね? 大丈夫だよね!?
送った後で悶えてたら、すぐに拓真くんからメールが返ってきた。
『明けましておめでとうございます!!』
……え? これだけ?
まぁ、明けましておめでとうだけじゃ、会話はそう広げられないけど……もう少し、なんかあってもよかったんじゃないかなぁ……。
がっくり項垂れていると、もう一通、ショートメールが届いた。
通話無料のメッセージアプリの招待だ。URLとQRコードが載ってある!
私は急いで拓真くんを登録して、『招待ありがとう』のメッセージと、ナースがお辞儀しているスタンプを送る。
すぐに既読のマークが付いて返事が来た。
『今年もよろしくお願いします!! 今、家族で餅食ってます!』
次に送られて来たのは、リナちゃんと池畑さん夫妻がお餅を頬張っている写真。
わぁ。みんな、楽しそう! でもできれば拓真くんの写真が欲しかったー!!
『いいね! 拓真くんも食べてる?』
そんなの食べてるに決まってる。家族で食べてるって最初に書いてたんだから。でも送信っと。
そうしたら、やっぱりすぐに送ってきてくれた。私の口から「ぐふふ」っていう怪しい笑みが漏れちゃう。
多分、リナちゃんに撮ってもらったんだろうな。餅を咥えてビヨンと伸ばして、カメラに向かってピースしてる写真。
やーーんもう、かわいすぎる!!
最高、幸せ!!
私はすぐにそれをプリントアウトして、ボードに飾った。
これだけでもう、今年一年頑張れちゃうよー!!
メッセージに送られてきた『美味!!』のスタンプ。私は『Good』スタンプを返して、それで終わりになるかと思ってた。
それから少しして、キラキランとメッセージの入る音がする。誰かなと思って見てみると、拓真くんだった。
『リナが園田さんと話したいらしいんですが、電話していいですか?』
はわわっ、電話!?
緊張しながらも、OKのスタンプを送信する。既読マークがつくと、すぐに電話が掛かってきた。き、緊張するっ。
「も、もしもしっ」
『あ、そのださーん!』
あ、リナちゃんの声だ。最初は拓真くんが出るかと思ってたけど。
「リナちゃん、久しぶり! 風邪なんか引いてない?」
『うん、大丈夫だよー!』
リナちゃんの明るい声にホッとする。Uターン入院なんかになっちゃ、可哀想だからね。
「お正月はどこも人混みだから、気をつけてね。インフルエンザなんかになっちゃ、大変だよ!」
『わかってるよー。でもリナ、春になったらそっちに遊びに行っちゃうからね!』
「そっちって……鳥白市?」
『うん!』
「ああ、通院で来るってことでしょ?」
『違うよー、お兄ちゃんが春から鳥白市で一人暮らしするから、お兄ちゃんのところへ遊びに行くの!』
「え……ええ!?」
い、今なんて言った!?
拓真くんが……
製菓学校に行くって言ってたけど、まさか鳥白市のトキ製菓専門学校のことだったの!?
きゃーーーーうそーーーー!!
って、落ち着かなきゃ……っ! 怪しまれちゃう!!
「そ、そうなんだ。じゃあリナちゃん、寂しくなっちゃうね」
『うん、でも遊びに行くからいいんだー』
「そっか。じゃあこっちに来た時には声掛けてね。仕事が休みだったら、元気になったリナちゃんの顔を見に行くよ!」
とか言ってごめんね、それは口実で拓真くんに会いたいからだったりする。もちろん、リナちゃんにも会いたいんだけど。
『やったー! じゃあリナがそっちに行った時には、色々案内してね! リナ、ずっと病院にいたから、八ヶ月も鳥白市にいたのに、なーんにも知らないんだもん』
「そうだよね。任せて! 私、鳥白が地元だから、詳しいよ! 色んなところに連れていってあげる!」
『ほんとーー!? ありがとーー!! おにいちゃん、園田さんが色んなところに連れてってくれるってー!』
リナちゃんの言葉に、少し遠くの方で『マジ?』という声が聞こえた。その直後、『貸して』という声がして、一気に私の心拍が跳ね上がる。
『もしもし』
あああ、拓真くんだー!!
声を聞くだけで、心臓が張り裂けそうになっちゃうっ。
「あ、拓真くん?」
できるだけ、普通の声を出してみせる。内心はドキドキしていても、平然とした態度を取れるのは、看護師として身についた特性。
『色んなところに連れていってくれるって聞いたんだけど』
「あ、うん」
もしかして、ダメだったかな……病気の妹を連れまわすなとか?
拓真くん、妹思いだし、あり得るかもー! しまった、やっちゃったー!!
「で、でも、無理に連れまわすつもりじゃ……」
『園田さん、俺、四月からそっちで暮らすんで、家を決めなきゃいけないんだけど、どの辺がいいのか今度教えてもらってもいいですか?』
「……へ?」
予想外……。
本当に予想外の提案が!! 拓真くんの口から!!
『やっぱ、忙しいかな』
「だ、大丈夫! 休みの日ならいつでも付き合えるし、車も出すよ! 拓真くんはいつがいいのかな?」
『できれば早い方が。冬休み中がありがたいかな』
「えーと……私、次の休みが八日なんだけど、まだ学校始まってないよね? 大丈夫?」
『大丈夫! ありがとう園田さん! お願いします!』
ど、どうしよう、全身が熱い。これ、夢じゃないよね!?
絶対今、血圧がヤバいことになってるよ!!
「じゃあ、何時頃にこっちに着くかわかったら、またメッセージ入れといてくれる?」
『はい! 電車の時間確認したら送っときます! 失礼します!』
ハキハキとした心地良い拓真くんの声。もう私、倒れるかもしれない。
「じゃあ、八日にね」
それだけをなんとか言って、電話を切った。
切った瞬間から、急いで酸素を何度も取り込む。
もう、もう……嬉しすぎて死ぬかもーーーーッ
夜勤明けの体で悶え過ぎて、本当に息ができなくて死ぬかと思った!
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