02.入院してる

 チャンス到来。


 拓真くんが、私の勤務している形岡県立医大付属病院に入院する。

 病気だとかケガだとかじゃなくって、リナちゃんへ骨髄を提供するための入院と手術のため。

 ああ、休憩時間にお顔見に行けるかなぁ。でも、他の病棟を白衣であんまりウロウロしたくないし。

 どうせなら、小児病棟に来てくれたらよかったのに。そしたら堂々とお世話もできたのになぁ。拓真くんはもう『小児』じゃないから、小児病棟には入院できないんだけど。すごく残念。


 拓真くんの入院は三泊四日だけど、仕事の関係で、行けそうなのは骨髄液を採取した後の夕方しかなかった。

 仕事を終えて急いで私服に着替えて、一般病棟を訪れる。


 はぁ、緊張する。なにを話せばいいんだろう。

 なんで来たんだって思われるかな? 気になって来ちゃった、とか? 軽い?

 リナちゃんに様子を見てきてって頼まれたからとか……嘘はダメだよね。後でバレちゃったら困るし。


 うーんと悩みながら歩いていると、あっという間に病室の前に着いちゃった。

 ど、どうしよ……頑張ったね、とか、お疲れ様、とかでいいかな?


 どっきどきしながら中に入ってみるも、拓真くんは目を開けてはいたけどぼんやりしていた。

 麻酔がまだ抜けきっていないんだ。

 いつもの元気がまったくなくて、拓真くんじゃないみたい。


「大丈夫、拓真くん」

「あー……うん……」

「お疲れ様、頑張ったね」

「リナは……」

「リナちゃんは、病室で元気にしてるよ。お兄ちゃんは頑張ってるかなぁって気にしてた」


 そう伝えると、ほんのわずかに拓真くんの口元が上がる。


「リナに、俺は大丈夫って……」

「わかった、伝えとくね。他にはなにかしてほしいことない?」

「のど……渇いた……水……」


 今の拓真くんの状態を見て、私は眉を顰めた。

 この状態では、水の許可はまだ出ないに違いない。でも朝からなにも飲み食いしていない状態じゃ、いくら点滴をしていたって喉は渇く。

 喉の渇きというのは、耐えられないくらい苦しいってことくらい、私にもわかる。

 うがいだけでもさせてあげたいけど、まだ起きられる状態でもないし……そうだ。


 私はナースステーションに行って事情を話し、許可をもらって小さく砕いた氷を一欠片ひとかけらだけ貰ってきた。


「氷なら、少しずつの水分だから構わないって。はい、口開けて」


 拓真くんの開いた口に氷を入れてあげる。

 カチッと歯に当たる音がして、その小さな氷を頬張っていた。


「ああ……うまい……」

「そう、よかった。じゃあ、私は帰るけど、なにかあったらナースコールしてね」

「うん……」


 ほんの少しだったけど、拓真くんの笑顔を見られてよかった。

 もっと色々と話して、できれば電話番号も交換したかったけど。今の状態じゃしょうがないよね。

 残念な気持ちはあったけど、滞りなく骨髄採取も終わったようだったし、私はホッとして家路に着いた。

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