パーティーから追放されて、ざまぁされる奴(中)



 勇者達を襲う危険は多々ある。


 野外で遭遇エンカウントする怪物モンスター

 迷宮ダンジョンに仕掛けられたトラップ

 人間の悪意が勇者を陥れることもあれば、悪意なき自然現象が勇者に牙を剥くこともある。

 

 そして、今、勇者たちを――


「これより六本木勇者同盟ポンギッギーズは郵便物の仕分けを開始するッ!」

「……うざってぇどぉぉぉ!!!!オデ!全部ビリビリに裂いてやりてぇぇどぉぉぉぉ!!!」

「中に大事な手紙とか混じってるからッ!」

 

 事務作業が襲う。


『新年おめでとう。今年こそ勇者は殺す。(邪神)』

『気が滅リークリスマス。(邪神)』

『お歳暮に、呪いを贈る、はやく死ね。(邪神)』


「邪神野郎、行事に合わせて送ってきてんじゃねぇッ!」

「む……ムカつくど!特に『気が滅リークリスマス』は自分が面白いこと言ったみたいな感じが出てて、オデ……怒りで覚醒しそうだど……ッ!」

「文面を見る時はなるべく感情を殺そ!?」

 六本木勇者同盟の持つ魔法の鞄はある種の異空間になっており、あらゆる場所から六本木勇者同盟宛の手紙を受け取ることが出来る。だが、それが災いしてか彼らの討伐目標である邪神からの呪いの手紙も受信するようになってしまっている。すぐに死ぬような強力な呪いではないが、長く鞄の中に所持していればその微量な呪力によって体調は崩れるし、累積すれば最終的に死に至ることは間違いない。


『拝啓、ギロッポン様。季節の変わり目で体調を崩しやすい時期ですがお変わりありませんでしょうか。先日は邪神四天王の一人、苦痛龍を撃破していただきありがとうございます。部下ともども大変喜んでおります。近いうちに復讐に参ろうと思いますので、この呪いで苦しんでいただければ幸いと思います。(邪神)』

「クソッ!最後まで読んじまった!そこまで丁寧に書くなら最後まで牙を隠せよ!」

「文章で相手を呪うには相手を害する文章が不可欠だかんね。ほらっ!あーしにその手紙も渡して!」

 邪神からの手紙だと判明したそばから、賢者ヒャクレンガチャがその手紙を初級火炎魔法で燃やしていく。敵が強くなりめっきり使うことのなくなった魔法であったが、シュレッダーとしては十分な働きを見せている。


「オ……オデ……疲れてきたど……この街の人に助けを求められないのかど……?」

 目をしばしばと瞬かせながら、戦士クッムが尋ねる。

「仮にも邪神の呪いだ、一般人に触れさせてなにかあったらコトだろ」

 クッムの懇願に、勇者ギロッポンは『死んだらええやん、それで楽になれるやん(邪神)』の手紙を処理しながら応じる。

「……それを考えると、ツゼイはすごいど」


――確かに、私は肉体的には皆様ほど優れているわけではありません。しかし、この私には周囲から不審がられる程の突然死をした神父様から受け継いだこの聖なる守りがありますからねェ……この世界に一つしか無い貴重なお守りがあらゆる呪いから私を守ってくれるんですよォ……ケヒヒ……


 三人は思い出す。

 かつての仲間である事務員ツゼイが何故に呪力に強いのかを、その長い舌でお守りを舐めながら説明してくれたことを。

 別れるには惜しい仲間であった――だが、公文書偽造に加えてなんらかの風説の流布で執行猶予なしの実刑を食らったというのだから、彼と旅を続けることは出来ないだろう。


「馬鹿な奴ッ!」

「ギロッポン……」

「だが、気づいてやれなかった俺も悪いんだ……アイツがあそこまで追い詰められていたなんて……」

「あんまり自分を責めるんじゃないど……それより郵便物仕分けの続きやるど。『かくよむはけつこうがんばつているんだよ(じやしん)また呪いの手紙だど!』

「あっ!それ、暗号文!」

 ヒャクレンガチャの作った火炎の中にクッムが手紙を投げ捨てようとするのを、ヒャクレンガチャが火炎を放つのを止めてキャッチする。

 

「ややこしいど!」

「『大特価電撃魔法製品(ジャーシン)』……これは、ダイレクトメッセージだな」

「『ツゼイ死ね』『かかってこいや』『俺は逃げも隠れもせん』『覚悟しろよテメェ』『刺すぞコラァ!!』……これはひどいど」

「……呪力は籠もってないっぽいから……ただの嫌がらせの手紙かぁ~……ちょっと落ち込むかも。ツゼイはこんな手紙も一人で処理してたんだ……」


――手紙の処理ですか、いえいえ勇者様達の手をわずらわせることはありませんよ。私は事務員としてこのパーティーに所属しているんですからねェ……どんなひどい文面でも何も感じずに処理できますよ。処理をね……。


 衛兵に捕縛される時までツゼイはいつだって穏やかな表情を崩さなかった。

 だが、このような人間の悪意に触れる中で彼は何を思っていたのだろうか。

 もしかしたら一人で背負うにはあまりにも重すぎたかもしれないものを三人で分けていたその時、ギロッポンの手が止まった。


『決闘を申し込む、血闘の谷にて待つ(邪神四天王ジャンガリアン)』

「皆!これは邪神四天王からの果たし状だ!」

 魔法の鞄の中に六本木勇者同盟の宿敵である邪神四天王からの見逃せぬメッセージがあったのである。

 それを見た瞬間、クッムの顔が青ざめ、持っていた手紙をおずおずと差し出す。


『怯えているのか?血闘の谷にて待っているぞ(邪神四天王ジャンガリアン)』

「……二通目?」

 ギロッポンの呟きにヒャクレンガチャがゆっくりと首を振る。


『もしかしたらそっちの都合とかが悪かったりしますか?場所はそちらに合わせる形でも大丈夫です。とりあえず血闘の谷宛に手紙を送ってくれたら私のもとに届くようになっていますので、返事を頂けましたら幸いです(邪神四天王ジャンガリアン)』


――手紙のことは私にお任せください。

 ツゼイの穏やかな微笑みがギロッポンの脳裏をよぎった。


「アイツ、結局やってねぇじゃねぇか!!!!!」

「もしかしたら、面倒くさがって敢えて見せなかったのかも……」

「どっちの可能性も考えるのはかなり厭だど……」

 三人はしばらく沈黙した後、ジャンガリアンからの果たし状を燃やした。

 今は郵便物の山を崩していく。

 それが勇者の責務だ。


【続く】

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