事務職を追放した勇者パーティー!事務作業が物理的に殺しに来る!
春海水亭
パーティーから追放されて、ざまぁされる奴(前)
◇
「事務員ッ!オマエは追放だッ!」
「なっ……なんで……私は真面目に仕事を」
「出てんだよッ!逮捕状がッ!公文書偽造でッ!」
「離せッ!クズ衛兵どもッ!私はッ!この勇者パーティーの事務業務全般を請け負う……いわば影の支配者だぞッ!多少の不正は許されるべきだろうがッ!う、うおおおおおおおおッ!こッ!このッ!事務員様があああああああ!!!!!国家権力如きにいいいいいいいいいい!!!!!」
かくして、事務員ツゼイは衛兵に連行され投獄されることとなった。
ツゼイは勇者ギロッポン率いる
「この書類さぁ、なんか白いな」
「白いど……」
勇者ギロッポンの言葉に、戦士クッムが応じる。
ツゼイ投獄から数日後、冒険者の宿でのことである。
ギロッポンの取り出した何らかの記入を要するであろう書類は新雪の野によく似ていた。なんらかの数字どころか提出に伴う氏名の記入すら行われていない。
「っていうか帳簿もなんか……全部の記載が無いど……」
クッムが六本木勇者同盟の会計帳簿を取り出してみれば、こちらの記述も消えてしまっている。
「ッテか、すっげー
賢者ヒャクレンガチャがツゼイが日々記載していた冒険の報告書をパラパラとめくりながら言った。
「なんだよ、ヒャクレンガチャ?」
「あーしが思うに、アイツ……」
机の上に放り投げられた冒険の報告書は、全ての日付が白紙のものだった。
「投獄にあたって、自分のやった業務を全部消してない?」
「アイツ何やってくれてんだ!?」
「オデが思うにツゼイは自分がどれだけの苦痛を背負おうとも敵に何らかの痛手を負わせずにはいられない男だったんだど……きっと今回も自分の投獄が避けられない運命と知って……」
「そんな悲壮な覚悟を執行猶予ありの懲役二年でキメてんじゃねぇよ!」
「余罪が見つかって、執行猶予消えたど」
「何やったんだよ……」
「事務員にしておくには惜しい男って感じじゃない?」
「いや、アイツが呪術師とかになってたらどれだけの呪いが魔族と人類を蝕んでいたか……想像もしたくねぇ」
三人はため息をつき、書類で構成された不毛の大地を見た。
実ったものは全て燃やされた、それでも一粒一粒種を蒔いていかなければならない。
「ヒャクレンガチャは賢者じゃん?」
勇者の言葉には言外に、その賢さでなんとかならないかという機微があった。
だが、ヒャクレンガチャは肩をすくめる。
「魔法でなんとかできるなら最初から事務員を雇おうだなんて言わないじゃん?」
「だよなぁ……」
邪神討伐の旅を行うのならば、事務員は必須になる。そのように提案したのはヒャクレンガチャであった。実際、その提案は間違っていない。モンスター討伐、素材収集、ダンジョン探索、情報収集、邪神討伐の旅の中でしなければならないことはかなり多い。それに加えて事務作業まで行っていれば、六本木勇者同盟は過労により全滅するか、日々の業務に追われて旅が終了していたかのどちらかになるだろう。
「けど、ツゼイがまさかあんな奴だったとはな……」
「オデ……ツゼイのこと良い奴だと思っていたど……なんか孤児院を運営していたし……」
「まさか、ツゼイがね……」
三人はかつての仲間のことを思った。
――はじめまして、私はツゼイと申します。孤児院を運営していた関係から事務員の適正もあります。
優しげな印象を与える細い目。言葉遣いは常に丁寧で、日々神への祈りを欠かさない。
――故郷では子供の行方不明事件が多発していましてねェ……私の孤児院からも何人か子どもが消えているんですよ……これも邪神討伐すれば治まるのでしょうかねェ……?
消えた子どもたちの安否を常に気遣っており、何らかの数字が書かれた子どもたちの肖像を常に持ち歩いていた。子ども好きの気の良い男であった。彼の祈りが通じたのか、彼が旅立った翌日から行方不明になる子どもはいなくなった。
――姪っ子は莫大な遺産を持っていましてねェ……両親が死んだ悲しみは癒えないでしょうが……自身の財産で幸福を築いて欲しいものです……ケヒヒ……
旅に出る前日には不審死を遂げた大富豪の両親を持つ彼の姪を引き取っていた。まさか、そんな彼に逮捕状が出されることになるとは――たとえ神でも思わなかったに違いない。
「まぁ……誰にでも気の迷いって事はある。死ぬほど腹は立つけど、牢を出たら一発殴るぐらいで赦してやろう」
「そうだど!オデ達仲間だど!」
いつかの再会を思いながらギロッポンとクッムは言葉を交わす。
「あー、そういや。あーしが思うに旅を止めてでも、事務処理を終わらせなきゃいけないかも」
「……なんで?俺らは勇者パーティーだど?邪神討伐こそが最優先業務じゃないのかど?」
「クッム、いくら勇者だからと言っても……いや、勇者だからこそ民の模範となるべく書類の手続きをしっかりと行わなければならないってことをヒャクレンガチャは言いたいんじゃないか?」
「そっかぁ~」
「違うわ」
二人の言葉をあっさりと切り捨てて、ヒャクレンガチャは魔法の鞄から何枚かの封筒を取り出した。
「この魔法の鞄には内部の重量を無視するだけじゃなく、あらゆる場所からの手紙の受信を可能にするっていう能力があるじゃん?」
「そうだど……いわゆるメールって奴だど!」
「……つまり」
ヒャクレンガチャは封を破り、その中身を二人に見せつけた。
『気持ち悪いよ、あんたらの戦い! (邪神)』
『見るだけでムカつくパーティー、とくにカバー戦法が嫌いだ(邪神)』
『これは不幸の手紙だ。明日までに99通出せ。(邪神)
『イイ気になってんじゃねーぞ、ボケ!(邪神)』
稚拙な文面。
だが、その文字の一つ一つに呪力が宿っている。
もしも気が付かずに鞄の中に入れたままでいれば、その呪力に蝕まれて体調を崩していただろう。
「あーし達は勇者パーティー、ゆえに……事務作業の一つ一つにも爆弾が混じっていてんの……」
「おい!おい!おい!おい!マジかよ……!?」
「こ、これはヤバいど……!既にオデ達は攻撃を受けているのかど……ッ!」
ヒャクレンガチャは呪いの手紙を破り捨て、初級火炎魔法で燃やし尽くした。
「事務処理をするわッ!命懸けでねッ!」
「あの野郎おおおおおおお!!!!!!捕まってんじゃねえええええええええええ!!!!!!」
【続く】
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