第103.5話 クリスマスSS 軽トラたちのクリスマス。
「わーい、クリスマスにゃ」
「一年振りですね!」
今年もクリスマスがやってきた。
去年のクリスマスはたしか、クリスマスのコスチュームを着た魔物を倒してケーキやらトリモモ肉やらをゲットしたんだっけな。
え? 作品中の時系列がおかしい?
大丈夫だ。
なんたって、ダンジョンには不思議が詰まっているのだから。
「と、いうことで今年はどうする? またいろいろクリスマス用の食品ゲットしに行くか?」
「そうですね、去年のケーキとかはおいしかったですからね。」
「にゃー! どうせなら、ひつじさんの所に行くのにゃ!」
そうか、そういえば去年と違ってダンジョンの制覇階が増えているんだ。
何がどうなるかわからないが、とりあえず3階以降にいってみるか!
◇ ◇ ◇ ◇
「ひつじさんのお鼻が真っ赤にゃ!」
3階層に来たオレたちを迎えてくれたのは、鼻に赤い魔石をつけて、羊毛を赤く染めたひつじさんの群れだった。
「トナカイさん? なんでしょうか……」
「ああ、ひつじさんのトナカイだな。」
なんてサービス精神旺盛なひつじさんたちなんだ。
すると、ひつじさんたちはオレ達にも羊毛で織られた赤い衣装を手渡してくる。
オレらもサンタコスしろと?
オレ達が着替えると、なんと軽トラもクリスマスカラーにデコレーションされ、電飾のお飾りがつけられていた。
あれ? ダンジョン内で電気点くの? って一瞬思っちゃったけど、軽トラのエンジン内部のバッテリーとか使えば可能だしな。
で、ひつじさんたちはトナカイよろしく軽トラにひもを付けてそりのように引っ張っていき、大きなもみの木? のあるエリアまで誘導してくれる。
「ほえー、このもみの木もひつじさん達が育てたの?」
ちょっと得意げにうなずくひつじさん達。かわいい。
するとひつじさんたちはそのもみの木からつながった羊毛の電気コード? を軽トラのバッテリーに繋ぐ。
「うわーーーー! きれいにゃ!」
「ぴかぴかですね!」
なんと、大きなもみの木一面に取り付けられたイルミネーションが色とりどりに光り輝く!
これは素敵なクリスマスプレゼントだ!
なんて感動していると、いつのまにかひつじさん達がテーブルをセットして、そこにはクリスマスのダンジョンですでにひつじさん達がドロップさせてくれていたと思われるケーキとかモモニクとか大トロとかが並べられていた。
あ、羊毛で織られた大きな靴下もあったよ?
中にはダンジョン産のプレゼント(主に食材)が詰まっていたよ!
ということで、
――――――――――
「武藤巡査長! クリスマスですよ!」
「ああ、クリスマスだな」
「くりすます? ってなんですか?」
「ああ、ルンちゃんはまだ知らないわよね。クリスマスって言うのはね、男性が女性に美味しいものとか、高価なものをプレゼントしてくれるとってもいいお祭りなのよ!」
「緒方巡査、それはなんか違うぞ?」
「ところでルンちゃん! 向こうの世界にもお祭りとかってあったの?」
「んー、向こうでは『しょうばいのかみさま』? とか、アキン・ドー様をあがめる宴があったよ。」
「へー、その宴ではどんなことするの?」
「みんなでタコヤキとか、チキラーを食べるんだよ!」
「……へー、そうなんだね……」
「緒方巡査、ルン。盛り上がっている所悪いが、事件が発生したぞ!」
「「え?」」
「クリスマスに乗じた、サンタの格好に扮した空き巣の未遂だ。緊急配備行くぞ!」
「えー、せっかくクリスマスなのにー! 犯人のばかー!」
「むー、空き巣さんはタイホです!」
◇ ◇ ◇ ◇
「うわーーーー! ぴかぴかしてキレイーーー!」
緊急配備に向かう道すがら、丸舘氏の冬の風物詩、シャイニングストリートという電飾で飾られた道を通って景色を楽しむ。
「これを見ると、クリスマスって感じがしますよねー」
イルミネーションを初めて見るルンは感動し、緒方巡査の機嫌も直ったようだ。
「これで犯人さえ捕まれば万歳なんだがな。……ん? あいつ、怪しくないか?」
電飾で飾られた道の脇道の方に、奥に向かって歩いていく赤い衣装の人物を見つけた。
ん? 車? 軽トラに乗り込んだぞ。
「よし、追跡するぞ。気づかれないように、サイレンは鳴らすな!」
そうして、その怪しい人物の後ろを軽トラパトカーに乗ったまま尾行していく。
◇ ◇ ◇ ◇
「む? あいつ、忍び込む気か?」
赤い衣装の怪しい人物は、軽トラから降りて民家の敷地内に入ろうとしているようだ。
「武藤巡査長! これは、現行犯を狙えますよ!」
「んー。晴兄ちゃん? あの人、なんか気配が変だよ? 悪いことしようとしている心の動きじゃないよ?」
なるほど、確かにこのまま現行犯で逮捕できれば上々だろう。
だが、ルンが何やら気になることを言っている。
ルンの人物評は確かだからな。
でも、悪意なしになぜこんなことを……?
少し様子を見ていると、その人物は突然空中に浮かび上がった!
「「「なっ!!」」」
その人物は、2階にある子供部屋と思われる部屋の窓を音もなく開けると、なにやら袋から取り出した、ポップな包装紙にくるまれた四角い箱をその部屋の中に置いている!
「え! あれって物盗りじゃなくて、
その様子をあっけにとられて見ていたオレたちの前で、その人物も軽トラも霞のように姿を消し、ルンの気配察知でもどこに行ったのか全くわからなくなってしまった。
「……なあ、緒方巡査、ルン。今のって……」
「はい、本物のサンタクロースさんですかね……」
「晴兄ちゃん? なんか、さっきの人ね、わたしみたいにこのちきゅうとは違うみたいな、不思議な感じがしたよ……?」
―――翌日。
丸舘氏の地元新聞には、市内あちこちで子供たちが謎の人物からプレゼントをもらった話題が記事になっていた。
警察に通報のあった赤い服を着た不審人物の件も、結局は何も被害がなく、その後の目撃情報もないことから緊急配備は解除されていた。
「結局、あの人物は本物だったんでしょうかね?」
「ああ。クリスマスは夢のあふれる夜だからな。本物でもいいんじゃないかな?」
「晴兄ちゃん、志穂姉。きっと、来年も会える気がします!」
「来年は、一緒にプレゼント配って歩こうか?」
「「それもいいですね(いいね)!」」
「軽トラに乗ってな!」
――――――――――
「シンジ! クリスマスよ! 聖夜よ! 性なる夜よ!」
「おい! せっかくこれまでほっこりした雰囲気だったのに! 台無しだよ!」
「まあまあ、いいじゃないの! せっかくわたしが受肉したんだもの! 楽しみましょうよ!」
「へんな誤解を生むような言い回しをするんじゃない!」
まったく、ラブドー〇の依り代で受肉した奴が言うとそっちの方面に聞こえて仕方がない。
「で、シンジ? クリスマスなのよ!」
「さっきから同じこと言ってるな!」
「さあ、ぱいぱいアプリでプレゼントをたくさん買うのよ!」
「話の飛躍についていけないんだが?!」
「いい、シンジ。よく聞いて。」
「はい。」
「これからシンジは、けいとらの時空魔法のレベルを上げて、闇の勢力を倒して、ちきゅうの日本に戻るのよね?」
「はい。その予定ですが。」
「と、いうことで、日本に戻る予行練習をするのよ! 大丈夫! この時空の女神のクウちゃんが今日に限ってチカラを貸してあげるから!」
「日本に戻れるのか?! っていうか、チカラ貸して戻れるんだったら、最初からクウちゃんのチカラ貸してくれた方が早いんじゃないの?!」
「それはダメよ! 今日は特別なの! 幸せの波動に包まれるクリスマスだからできることなのよ!」
「さいですか」
「さあ、このサンタさんのコスチュームに着替えるのよ! サンタプレイよ!」
「もう何言っているのかわからん」
ということで、わけもわからずサンタの格好にさせられ、お買い物アプリでプレゼントをさんざん買わされた。
買ったプレゼントは軽トラのインベントリに入れてある。
「さあ、シンジ! 日本にいってらっしゃーい!」
そして、わけもわからずクウちゃんに次元のはざまに飛ばされる。
◇ ◇ ◇ ◇
「おお、ここは丸舘市じゃないか!」
次元のはざまのぐるぐるした渦を抜けた先には、見慣れた町の風景があった。
「……帰ってきたんだなあ」
オレは感慨に浸り、懐かしい町の風景を眺めていた。
「このイルミネーションも久しぶりだ。」
ここ丸舘市の冬の風物詩、シャイニングストリートのイルミネーションも見える。
「さて、本当は自宅の様子も見たいところだが、まずはミッションをクリアしてくるか。」
オレがクウちゃんから言い渡されたミッション。
この、喜びのあふれる聖なる夜に、
世界の宝である子供たちの笑顔を増やすこと。
そう、つまりはサンタさんになることだ。
丸舘市限定ではあるが、プレゼントを渡す子供のいる家のリストももらっている。
最初の家では慣れないためか、不審人物とみなされて通報されてしまったので手早く終えなければ。
これは、自宅に戻って妻の顔を見る時間はないな。
まあいいさ。
いつかは、また帰ってこられることがわかったのだから。
こうして、オレは軽トラに乗りながら丸舘市の子供たちにプレゼントと笑顔を振りまいて、異世界へと戻っていった。
「シンジ! よくやったわ! これで、幸せの波動が満ちてきたわよ」
「ああ。世界のみんなが幸せでありますように」
merryChristmas!!!
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