第8話 全言語自動翻訳
自称冒険者の異世界から来たと思われる? 少女を駐在所に任意同行していく途中、突然少女が苦しそうな声を発して倒れ込んだ。
「どうしました?! 大丈夫ですか?!」
脇に付き添っていた緒方巡査が介抱するも、少女の顔色は悪く、どんどん土気色になっていき、唇にもチアノーゼが現れる。まるで、酸欠状態のように喉をかきむしるような手の動き。これはまずい。
「近い所、軽トラの荷台に彼女を横たわらせて! 側臥位で気道確保! オレは救急車を呼ぶ!」
「はい!」
「気をしっかり持て! 大きく呼吸しろ!」
「△※◇&kht△!」
「なに?」
どうしたんだ。さっきまで普通に日本語で話していたはずなのに。少女が何を言っているのかわからない。単に苦しがって意味のない言葉を叫んでいるのともまた違う気がする。
緒方巡査が軽トラの荷台に少女を横にしようと、その体を引き寄せる。
そして、オレが119番しようとしたその時、軽トラのそばに戻る形になった彼女の様子が劇的に回復した。
「大丈夫なのか?」
「はあ、はあ、はい。—―さっきは、苦しかったけど、この
? 今度は、少女は普通に日本語でしゃべっている。が、よく口元を見てみると。確かにオレの耳には日本語に聞こえて意味も理解できるのだが、口の動きが日本語を話すそれとは明らかに異なっている。
「やっぱりこれって……! 【全言語自動翻訳】……。すごいです! 武藤巡査長! 彼女は本当に異世界から来たんですよ!!」
えーと、状況を整理してみよう。
とりあえず、少女を軽トラの荷台に座らせ、これまで判明している出来事を少女と緒方巡査と共にすり合わせていく事にした。
「まず、あなたの名前は、そのネームプレート? に書いてあるとおりならば『ルンシール・ブロンズ』さんでよろしいですか?」
「うわあ、そのプレート、
おいおい、緒方巡査。検証しようとしているのに興奮して口をはさんでくるんじゃない。それに、とうとうオレの名前から階級が消えたな。これは完全に仕事モードではないな。まあ、いいんだけど。
「で、異世界? で兄妹たちと冒険者ギルドからの依頼で狩りをしていて、昏い穴に落ちて不思議な光に包まれた。で、本職に声をかけられるまでは意識がなく、目覚めたら軽トラ、えーと、あなたの言うこの魔道具の中に居て眠っていたと。そういうことであっていますか?」
「うっわー! 冒険者ギルド! すっごーい! 依頼って本当にあるんですねー! 狩りって? ねえねえ、何を狩ってたの? ゴブリン? オーク? 兄妹って? 兄妹でパーティー組んでるの?!」
ああもう、話が進まない!
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