世界を呪う
クソくらえだと思った。
世界を救うために魔王と戦え?
馬鹿じゃねぇか?
この世界にそんな価値あんのかよ。
滅びるならさっさと滅んじまえ。
そう思っていた。
この腐りきった世界に美しいものなどないと信じて疑わなかった。
それがどうだ。今じゃ自らの意思で魔王とやらを倒す旅をしている。
もちろん今だって世界のために戦うなんて冗談じゃねぇ。
俺は
それ以外は認めない。
朝の女神から与えられたという力だって、
ジークハルトは待ち構えるように玉座に座っていた存在を静かに見据えた。
けれど、ジークハルトがそれを見つめる目には何の感情もない。
ただ、ジークハルトの心を占めるのはこの旅が終わってしまうという喪失感だけだった。
差し出した手に小さな手が何の躊躇いもなく重ねられることがジークハルトにどれほどの幸福をもたらしたのかきっと聖女様は一生知らないままだろう。
それでもいい。この旅の間、十分すぎるほどの幸福を貰った。
腰に穿いた剣に手を伸ばす。
全ては
最初は小さな違和感だった。今まで相手にしてきた魔物たちと明らかに違う存在。それを本能的に認識したことによるものだろうと思っていた。けれど、剣を振るうたびにひどくなるそれに、はじめて恐怖を覚えた。
絶望がすぐそばまで迫っている。
魔王は問題なく倒せるだろう。
では何をそんなに焦っているのか。何にそんなに不安を覚えているのか。
グルグル回る思考の中でも体は勝手に動く。
魔王を追い詰めれば追い詰めるほどに絶望が鮮明になっていった。
そして、唐突に理解した。勇者という存在の意味を。
魔王を倒す対価は
神託の通り俺は魔王を倒すためだけに送り込まれた魂。
その役目を終えればこの世界に留まることはできない。
聖女様のそばにはもう、いられない。
見守ることすら、許されない。
クソッたれ。
それでも剣を振るう速度が変わらないのは、どうしようもないくらいに、彼女が笑って暮らせる世界が欲しいから。
あと一撃。あと一振りで終わる。
「その方を連れて行かせはしません」
魔王に止めを刺すと同時に凛と声が響いた。
「聖女、様」
自身を柔らかな光が包む。泣きそうな顔で彼女が微笑む。
その意味を理解して、叫んだ。
「やめろ! やめてくれ!!
ユリアリアーーーー!!!」
光が収まった先に待ち受けているのは絶望だ。
目の前が真っ暗になる。
絶望というのはこういうことを言うのか。
ただ、聖女様がいないだけだ。
陽だまりのような笑顔がないだけだ。
それだけで。たったそれだけのことで、世界はこうも表情を変えるのか。
嗚呼、俺は、本当に守りたいものを守れなかったのか。
「ふはっ、あははははは!!」
「ジークハルト!?」
「こんな世界に何の価値がある?」
聖女様を犠牲にした世界に。
聖女様がいない世界に。
一体どれ程の価値があるというのだろう。
「消してしまおう。彼女を奪った全てを」
聖女様を奪ったこんな世界なんていらない。
認めない。許さない。
コンナ世界ナンテ滅ンデシマエ。
その瞬間、苦楽を共にした仲間の声などもう届かなかった。
堕ちた。そして次の魔王となるのは俺なのだと思った。
それでいい。こんな世界イラナイ。滅びればいい。
そう思った瞬間、ふわりと陽だまりの匂いがした。まるで俺を引き留めるように。
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