秋月型の戦争
清月
プロローグ 我等は屈せず
第一話
この3年間、俺達は一体何をやってきたのだろうか。
大日本帝国海軍の駆逐艦「大月」の艦橋で、ちぎれ雲の浮かぶ蒼空を見上げながら、艦長の村田少佐はふと思った。
帝国に栄光をもたらした機動部隊は既になく、戦艦「大和」ー史上最大最強の大戦艦であり、「大月」と同じように呉軍港を母港にしていた鋼鉄の浮かべる城も沖縄を救援するためと称した自決に数隻の護衛艦と共に出撃したまま帰ってこなかった。
時は1945年8月6日。今、呉軍港に残されているのは、先日の空襲で大破着底した高速戦艦「榛名」や重巡洋艦「青葉」のような、連合艦隊の死骸とでも言うべきものばかりだ。健在な小型艦はほとんどが日本海側の舞鶴に避難している。航続距離が短い代わりに、精度の高い攻撃が出来る米軍の艦載機から避難するためだ。そんな状況下でも、味方の基地航空隊は特攻しか出来ない。艦隊も動かせない。はっきり言って、連合艦隊は最早存在しないのだ。
そんな中で、俺たちは一体何をしているんだ。折角帝国海軍が誇る秋月型駆逐艦の改型の一隻として竣工し、練度も充分に高いのに、昔先任将校として乗っていた「初月」がやったように機動部隊の護衛をするのでもなければ、日本海側に避難した第三十一戦隊(このころ健在だった小型艦はほぼ全てが第三十一戦隊として纏められていた)のように船団護衛や対潜戦闘に従事するのでもなく、ひたすら広島沖で停泊するように命じられるとは。
村田少佐は顔を正面に戻した。第六十一駆逐隊の司令駆逐艦「山月」の、駆逐艦と呼ぶには大きすぎるような気がする艦体が視界に入った。死角となって見えないが、この後ろには同じ駆逐隊に所属する「葉月」「満月」もいるはずだ。確かに広島はまだ空襲をほとんど受けていない数少ない都市の一つである上、陸軍第五師団(鯉兵団)の本拠地ではあるが、わざわざ最新鋭の改秋月型(山月型)駆逐艦4隻を配備するほどだろうか?
村田少佐は退屈そうにしていた副長の淵田大尉と話すことにした。
「俺達はここで何やってるんだろうなぁ」
「軍令部直々の命令だから仕方ないじゃないですか。最強の防空駆逐艦4隻でかからないと撃墜出来ないほど強力な機体でも来るんじゃないですか?噂に聞くB36とか」
さして興味もなさそうにそう言ったとき、この型から搭載された、ドイツのウルツブルク社製の電探(レーダー)を国産化した23号電探を見つめていた電測員が叫んだ。
「電探に感あり!方位二二五度、距離75浬、高度一○○!恐らくB29です!」
「来た……!」淵田大尉が絞り出すように呟く。今まで殆ど狙われなかった広島に、ついにB29が来たのだ。迷っている暇はない。
村田少佐はたたき付けるように命じた。
「総員、戦闘配置!B29共に改秋月型の対空火力を見せつけてやれ!」
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