解決編

「この事件は、犯行が理由から考えると、わかりやすくなります」


 セロは口髭を撫でた。


「まずはトイトさん。彼には犯行は不可能です。このフロアまで上がれたとしてレラさんに気がつかれますし、レラさんに気がつかれなくても


「え? でもトイトは壁や床をすり抜けられるんだよね?」


「そうですヴィオさん。しかし、魔王の部屋には彼が出入りできないような仕掛けがされているはずです。ちょっとそこの壁に攻撃をしてもらってよろしいですか?」


「まかせて! 反転空撃リバース・クラッシュ!」


 ただの裏拳だ。しかし、容易に壁にひびを入れた。

 壁が崩れる。そこから、黒い何かが覗いた。


 トラバスが近づいて片眼鏡でそれを見る。拳の先でコンコンと触れる。


「これは……鉄だな」


 セロはトイトの方を向く。トイトは少したじろいだように見える。


「推理を邪魔したトイトさんに私がをした際、彼を壁に追い詰めましたが、彼はされるがままになってました。その気になれば。そこで魔王の部屋に出入りできない理由があるのではと思いました。まあ、あまり知られたくはないでしょうね。金属はすり抜けることができないとは」


 トイトは苦虫を潰したような顔をした。しかし反論は一言も発しなかった。肯定としか取れない沈黙だ。


「次に、ワーカさん。彼にも犯行は不可能です。彼の分身には致命的な欠陥があります」


 ワーカはものすごい形相で歯を食いしばっていた。歯軋りの音がこちらにまで聞こえてきそうだった。「致命的な欠陥」という言い方が気に入らないのだろうし、耐えているのは、それが事実だからなのだろう。


「私達が小競り合いをしていた際、あなたの杖がヒオリさんに弾き飛ばされた。あなたの分身の足元まで。あのとき、あなたは。分身に拾わせればすぐ確保できたにも関わらず。つまり、あの分身は。違いますか?」


 ワーカは小さく舌打ちをした。


「……厳密にはだ」


「ご訂正恐れ入ります。つまり、仮にレラさんが訪問した後に魔王を殺せたとしても、分身にあの重たいかんぬきを持たせることができない。よってワーカさんにあの密室を作り出すことはできないわけです」


 セロは一息つくと、紅茶を啜った。沈黙。部屋を支配していた。セロ以外の全員がゆっくりとレラに視線を向けてた。


「つまり、私が犯人だと言いたいのか?」


 レラは鼻白んだ様子で言った。


「その通りです。あなたはあなただけの能力であの密室を作り上げた」


 セロがレラをまっすぐに見た。


「しかし、私の瞬間移動は遮蔽物をすり抜けることができない。密室を作り出すことは不可能だ」


「その通りです。だってあなたは


 レラが曲刀に手をかけた。僕はセロの前に立ち、攻撃の導線を潰す。


「あなたは扉にかんぬきをかけた後、この部屋の唯一の隠れ場所である玉座の後ろに潜んでいた。部屋の中央まで魔王の死体を運んだ後で。非常に疑問でした、何故わざわざ死体をあそこまで運んだのか。あれはそうしたんですね。そして私達が部屋に入り、あなたの目論見通り視線を部屋の中央に向けたと同時に——瞬間移動を使った」


 レラはずっと殺意を漲らせていた。僕は剣に魔力を込めた。少しでも隙を見せたら殺られる。


「魔王が少しも抵抗した様子がないまま殺されてたのも気になりました。いくら腹心に裏切られたとはいえ、魔族達の長たる存在が、一切の反撃をせずに殺されるか? 答えはノーだと思います。おそらくのでしょうね。短時間しか見てませんが、あなたの剣撃はお見事でした」


 セロはまっすぐに人差し指を伸ばし、レラを指差した。


「レラさん、犯人はあなたです」


 長い、沈黙が訪れた。トイトは大いに狼狽していた。ワーカは目を見開いていた。レラは口角を上げた。


「そうだ、魔王様を殺したのは私だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る