問題編3
「そこの緑髪の女が、魔王四天王のひとり"風のレラ"。魔王の間の、直前の部屋の守護者。能力は風を使った物体操作、そして
曲刀が、トラバスの顔の横を掠めた。
「余計なことを言うな」
緑髪の女——レラの顔はやや紅潮しているように見えた。トラバスは肩をすくめる。
「そしてそちらの青髪は"水の四天王ワーカ"。3階の守護者。能力は氷を操ること、そして分身を作り出すこと。最近悲しかった出来事は元カノが男と歩いているところを——」
「おい」
ワーカがトラバスに詰め寄る。不快感を露わにしていた。
「お前、情報をどうやって仕入れた」
トラバスは口角を吊り上げる。
「アンペが全部話してくれたよ」
「なんだと!?」
ワーカは驚愕の表情を浮かべてた。補足しておくが、アンペとは魔王四天王のひとりだ。本来は1階の守護者で、火を操る能力者らしい。まさか、トラバスに買収されて情報を流しているとは夢にも思わないだろう。敵であるが、その点は同情する。
「1億積んだら何もかも話してくれたよ。今頃、馬車で南国にでも向かってると思うぜ」
トラバスがにやにやと笑みを浮かべる。彼はもともと商人だ。そのときに得た交渉力と資金力は、戦士のスキル以上に役立つときがある。
「なんて卑劣な」
「それは金に靡いたあんたらのお仲間に言ってくれ」
咳払いが聞こえた。セロが僕達と魔王軍の間に立つ。
「まずは状況を整理しましょうか——」
「おい待て、何でお前が仕切ってるんだよ」
トイトが話を遮った。僕は戦慄する。
「つーかお前は何者なんだよ。そもそも勇者の一向に探偵なんておかしいだろ。探偵なんて戦闘には一切役に立た——」
「探偵キック!」
トイトの巨体が浮き、猛烈な速さで南に吹き飛んだ。扉の横のあたりの壁に強かに打ち付けられる。
「探偵パンチ! 探偵パンチ! 探偵パンチ!」
セロがすぐさま追い討ちをかける。2メートルは優に超える巨体が一方的に殴られてるのを見て、ヴィオとトラバスは呆然としてた。レラとワーカすら呆然としてた。僕はすぐさまセロに駆け寄る。
「そ、そのへんにしてあげた方が……」
「それもそうですね」
セロは振り返る。表情はいつもと変わらないように見えた。だけど僕は知っている。彼は推理を邪魔されるのが死ぬほど嫌いなのだ。見た目ではわからないけど、今ものすごく不機嫌なはずだ。トイトを殺しかねないくらいには。
セロはぐったりとしたトイトを引き摺って部屋の中央まで戻る。トイトは低く見積もっても150kgはあるだろう。
「それでは改めて……」
セロは口髭を撫でる。
「状況を整理しましょう。魔王はおそらく30分ほど前に殺されました。皆さんは時間が起きる前後は何をなさってましたか?」
セロがこちらに視線を向ける。まずは僕から話せということか。
「ぼ、僕達は30分くらい前は
「秘密の隠し通路……」
レラが小さく舌打ちした。おそらく彼女は知らなかったのだろう。
「では次はワーカさんお願いします」
「私は1時間ほど前に魔王様と会った。定期報告と、勇者が攻めてきたときの策について話した。20分ほど話したと思う。ちなみに魔王様のお部屋に行くためには、城の構造上どうしてもレラの部屋を通らなければならない。ちなみに行きも帰りも会っているぞ」
レラが小さく頷いた。
「ねえ、魔王と会ったときに分身を使えばいいんじゃない? そうしたら魔王を殺したあと本体だけ出たら内側から鍵もかけられるし」
ヴィオが口を挟んだ。ワーカは眉間に皺を寄せてヴィオを睨んだ。
「いや、それは不可能だ」
レラが話に入ってくる。
「私は40分ほど前、つまり事件の10分前に魔王様にお会いした。定期報告のためにだ。ワーカが部屋に分身を残していたとしたら、私が気がつかないはずがない」
「ということは、あなたが怪しいよね? あの瞬間移動を使えば魔王を殺したあと部屋に鍵をかけて、外に出られるし」
「それはまあ、そうだが……だが私には魔王様を殺害することも密室を作り出すことも不可能だ」
「ええー? なんでなんで?」
ヴィオが質問をどんどんかぶせていく。レラの口ぶりはどうにも歯切れが悪く思えた。
「いや、レラは鍵をかけた部屋から外に出るのは無理だ」
「トイト!」
「レラの瞬間移動は遮蔽物をすり抜けることはできない」
レラは非難の目をトイトに向けた。しかしそれ以上何かを言うことは無かった。確かにその情報は敵には知られたくないところではあると思う。魔王殺害の容疑から外れるとはいえ。
「じゃあ、土のトイトが犯人じゃないの? 壁や地面をすり抜けられるなら、魔王の部屋に自由に出入りできるってことだよね? それにこの城の建築のほとんどに関わっているなら、秘密通路も用意してできそうだし……」
「魔王様の部屋の下には柱は無い。よって俺がこの部屋に直接出入りすることは不可能だ。正面から入るという手もあるが、俺が4階に来たらさすがにレラが気づくだろう。ちなみに秘密通路はお前らが使ったあれだけだ。魔王様の避難用に作ったものだが」
「アリバイは?」
「ずっと2階で城の修繕作業をしてた。この城も建ててから長いこと経つからな」
トイトの表情は余裕があるように見えた。魔王を殺害していないからなのか、殺害してたとしてもバレない自信があるのか。
「ところで」
セロが魔王の間の扉に近づく。扉はかんぬきで施錠するタイプのようだ。頑丈そうなかんぬきが、ひしゃげた扉の近くに転がっていた。
ヴィオの魔法の威力で扉はひしゃげ、金具は弾け飛んでいたが、かんぬきは少しも曲がることすらなくその形を保っていた。
持ち上げてみる。50kgはあるだろうか。かなり重たい。
「魔王が部屋で1人のときに何かあった場合は、どうなされるのですか?」
「四天王権限で一応開けることができる。今まで使ったことはないが……」
ワーカが扉に触れて「強制解除」と小さく呟く。するとかんぬきのちょうど中心が綺麗に縦に切れた。
「これを元に戻すことは?」
「不可能だ……アンペを除いては」
「ふむ」
セロは顎に手を当てて少し俯いた。考えをまとめようとするときの癖だ。
セロはしばらくそうしていた。10秒ほどだったような気もするし何分もそうしていたような気もする。僕達は固唾を飲んでそれを見ていた。魔王の配下達もそうしていた。
セロが顔を上げ、周囲を見た。
「わかりました。魔王を殺した犯人、そして密室のトリックが」
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