魔王城の殺人

北 流亡

問題編1

 鋼鉄の扉が目の前にあった。

 あまりにも巨大で、あまりにも無機質だ。

 この城の主の部屋を守護するためには、これ以上ないくらい相応しいと思えた。

 背後を一瞥する。3人の仲間も一様に緊張しているように見えた。

 長い、旅だった。ここまでの道は決して平坦ではなかった。扉の向こうに魔王がいる。心臓が、煩いくらいに鳴っていた。


 逸る気持ちを抑えて扉に手をかざす。特に魔力の反応は感じない。鞘でそっと触れてみるが、何かが起きる気配は無い。罠の類は仕掛けられてないようだ。

 掌で少し押してみる。わずかに軋む音がするだけで、びくともしなかった。内側から鍵が掛けられているようだ。

 僕は背後に控えている3人に目配せをする。


「まかせてヒオリ、解錠ね」


 そう言って前に出てきたのは僧侶のヴィオだ。

 ヴィオは扉の前に立ち、杖を両手で高く掲げた。

 杖が光り輝き、巨大な槌へと姿を変える。


「うおおおお! 超絶弩級究極最強解錠魔法アルティメットキーブレイク!」


 ヴィオは女らしからぬ咆哮をあげ、槌を勢いよく振り下ろす。轟音が響き渡る。分厚い鋼鉄の扉がひしゃげ、両側に開いていた。


「やったよ!」


 ヴィオが満面の笑みを見せる。「魔法」という割には力技すぎる気がしたが、その言葉は飲み込んだ。


「よし、行くぞ!」


 戦士トラバスが大剣を手に先陣を切る。僕も剣を抜いて後に続く。

 わずかな灯だけで照らされた魔王の部屋。薄暗く、はっきりとは全貌が見えない。

 僕は恐怖を振り払うように足に力を込めて駆けた——ところでトラバスの背中に激突した。


「きゅ、急に止まらないでよ……」


 トラバスは唖然としていた。狼狽が伝わってくる。その目は、床に釘付けになっていた。


「い、いったいこれは……?」


 魔王城の最上階、その最奥に位置する魔王の間。

 その部屋の中央で魔王が——死んでいた。

 仰向けに倒れ、その胸には短刀が突き刺さっていた。


「え……これ魔王……だよね?」


 思考が追いつかない。

 数々の非道を尽くしてきた人類の仇敵、魔王。

 その魔王が、僕達に倒されるより先に死んでいた。十中八九、誰かの手にかかって。

 これで平和が訪れる、なんてことは考えられなかった。戸惑いがあまりにも大きい。

 いったい何が起きたのだろうか。


「ふむ、これは事件ですね」


 探偵セロが、口髭を撫でながら前に出てきた。

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