女郎と幽霊

海石榴

第1話 みなし子おたか

 江戸・京橋の近くで豆腐屋を営んでいた市五郎が死んだ。

 それから数年後の文政九年(1826)六月、女房のトメもあの世へと旅立った。


 一人残されたのは、九歳のおたかである。

 

 両親を亡くして孤児になったおたかをどうやって養うか。

 親類縁者が雁首そろえて相談したが、薄情なことに誰も引き取ろうとしない。

 皆が皆、貧しいのだ。

 

 ややあって、みすぼらしい身なりの一人の男が提案した。

「いっそ、女郎屋に売ればどうじゃ?」

 この案に、痩せこけたかかァが同意した。

「そうだよ。お女郎になれば食わせてもらえるし、きれいな着物も着せてもらえるじゃァないか」


 結局、おたかは哀れにも女郎屋に売り飛ばされることになった。

 親類一同が女衒ぜげんからもらった代金は四両二分。これを皆で山分けした。


 文政十三年、おたかは十三歳になり、客を取らされることになった。

 しかし、その頃から、毎晩、布団のそばに死んだ母親が現れるようになったのである。

   


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