闇の執事は夢見せる

小島もなか

第0話 お客様各位

  


 これはこれは、ようこそオリーズ侯爵家へ。

 私は以前、この城に約四十年間仕えておりました侯爵家前任執事のバゼル・アイボットと申す者でございます。

 僭越ながら、プロローグのご案内をさせて頂きます。


 全ては今から一ヶ月ほど前――まだ道端にカモミールの花が咲いていた頃に起きた事件が始まりでございました。


 侯爵家の一人娘であるフィリアお嬢様が市街地へお出かけになった際、馬車から降りたところを突如として謎の暴漢に襲われたのでございます。お忍びの外出だった為、護衛ではなく執事が同行していたことが仇となり、相対することとなった私はあえなく凶刃に倒れ、天に召されてしまいました。


 幸いお嬢様はご無事でございましたが、長らく平穏であった当領地において侯爵家の馬車が賊に襲われたことは一大事でありました。


 一方、城の内部では新たな執事が必要となり、使用人どもの間でもちょっとした大騒動となりました。


 私個人と致しましては、この誉れ高きオリーズ家に一生涯をかけ、精一杯心を尽くすことができましたことに何ら悔いはございません。ただ――、次に任命された後任の執事が私の孫のシドであったことには……いえ、誇らしいのです。この上なく誇らしく喜ばしいことなのですが、これがちょっとした愚か者でして、大変気を揉んでいるところなのでございます……。



 とにかく、その男が本日から職に就くこととなりました。


 なんとか上手くやって行くことができれば良いのですが、人の運命とは分からぬものです。愚かなことをせねばよいと願ってやみません。


 未熟な孫でございますが、どうぞ温かくお見守りくださいませ。



                        オリーズ侯爵家前任執事

                             バゼル・アイボット



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