第一章 3

 久しぶりに聞いた僕の名前を呼ぶ声。学校では一度も呼ばれたことがなかった。彼女の透き通るような声は相変わらず落ち着く。改めて見ると身長は僕よりも少し低く、制服がよく似合っている。あの頃とはまた別の魅力が際立っている。


「こうやって二人で話すの久しぶりだね。学校で声をかけたかったんだけど中々話しかけれなくて」


「…うん」


 嬉しい、うれしいけれどこんなところをほかの子に見られたら神谷の立場が危うくなるかもしれない。


「こうやってまた会えるなんて、うれしい」


 神谷は微笑んだ。周りの人から見ればただの笑顔かもしれない。けれど今の僕から見る神谷の笑顔は天使のようだった。そう思っているなんて知られたら、恥ずかしい。


「…それで、何かよう?」


「久しぶりに会えたし、色々話したいなって。透夜君の家ってこっち方面なの?私もこっちなんだ。どう?寄ってかない?]


 女子の家にお邪魔するなんて初めてだ。いや、小学生の頃に何度か神谷の家へお邪魔したことがあったかな。


神谷の家は僕の家の斜め前だった。確かに最近車の行き来が激しいなとは思ったけれど、原因はこれだったのか。


「さあ、入って」


神谷に案内され部屋の中へと足を入れる。最近引っ越したばかりだからかまだダンボールが隅っこに置かれていた。


「ちょっとまってて、今お茶出すから」


「ありがとう」


「いえいえ、それじゃあお話しましょ」


神谷がニコッと微笑んだ。その後は神谷が引っ越したあとの話をしてくれた。


「転校先の家は結構居心地良かったんだ。けど新しい学校に馴染むのは大変だったよ。けどすぐに色んな人が話しかけてくれて楽しかった。中学校はまた引っ越して通ってたんだけど、女の子達に囲まれて大変だったよ」


それほど女子にも人気だったんだ。確かに神谷の性格ならみんな気に入るだろう。


いいな。楽しい学校生活を送れていて。こっちは毎日のように虐められていて抵抗する手段もなくただただ大人しくしていた。


「けどやっぱ透夜君といた方が楽しいよ」


「え?」


「なんか落ち着くって言うか、一緒にいて安心する」


僕と一緒にいて何が楽しいんだ。どこが落ち着くんだ。僕は未だに何も喋っていないというのに。


僕なんかよりもクラスの子達と話している方が楽しいだろう。気を使ってくれているのか分からないけど信じ難いことだ。


「透夜君は最近どう?」


僕に質問を振ってきた。急な質問に慌てて答えた。


「あ、楽しいよ。学校」


「そっか。あ、このお茶飲んでみてね。私のお気に入りの紅茶なんだ」


 匂いからしてこれはストロベリーティーだろう。確か彼女はいちごが好きだったはず。神谷に勧められごくりと飲む。


「…美味しい」


「でしょ!たくさんあるから飲みたかったら言ってね」


「…ありがとう」

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