君との約束を、僕は後悔する

怜來

プロローグ

「いいえ、僕がやりました」

 寒い冬の夜、海岸でそう告げた。手と足の感覚は寒さによってマヒしていて唇もぶるぶると震えている。その震えは寒さだけではなかった。目の前にはきれいな姿で横たわっている神谷愛かみや あいがいる。


 神谷は僕を見ずに夜空を見上げながら笑っていた。どうして笑っているのか、聞きたくても聞けない。


西鷹にしたか、私、約束守るよ」


 そう彼女は言った。けれど僕が望んでいたのはこんなのじゃない。目からこぼれる涙をぬぐいながら下を向く。


神谷と出会ったのは小学三年生の夏。神谷は親の仕事の都合で転校してきた。初めて見たときにかわいい女の子だなと思った。自分から話しかけに行き、そこから神谷とは仲良くなった。そして神谷が誕生日の時に僕はクマのぬいぐるみをあげた。満面の笑みでその人形を受け取ってくれた。


僕はその笑顔が大好きで、神谷をいつも喜ばせたい、そう思っていた。そして神谷は僕の誕生日にも何か渡す、そう言ってくれた。が、その願いはかなわなかった。神谷が転校することになる。


 転校する日、神谷は僕に言った。


「お互い幸せになろうね、約束よ」


 彼女の口から言ったんだ。確かに今の僕は前よりも幸せになった。重い荷物をやっと肩から降ろせたんだ。けれど僕は君のせいでまた幸せになれなくなった。目の前に立つ男に向かって、震える唇を必死に動かして言った。


「僕がやりました。神谷にこれ以上手を汚させないために」


 目の前に立つ男は茫然としていた。騒ぎ立てる様子もない。僕の真っ白な息が男の人の顔を隠していく。そして意識がもうろうとし足に力がはいらずそのまま倒れこんだ。


 どうして、こうなってしまったんだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る