第18話 晃の入社
56-018
JST商事のテーマパークへの品種がひとつ増えた事は、現在の生産キャパではもう一段の生産アイテムの減少を余儀なくされる。
京極社長は神崎工場長に、もう一段のアイテム減少と取引先の整理を行うのでどの商品を削減するのか検討案を考えるよう指示し、それまでは今の設備で頑張って欲しいと伝えた。
早速、神崎工場長はアイテムの削減案の検討を行い、翌週には京極社長に持参した。
その案を元に京極社長は営業会議を開催した。
赤城係長他営業マン全員はこれ以上の商品の削減には反対の意向だったが、完全に無視され「このアイテムの削減を来年夏迄に完了するので、取引先の整理も同時に行う様に!」と一方的に決められた。
会議の後、営業の四人は赤城係長に「これでは販売にはなりません!殆どの得意先が無くなります」と話した。
「仕方が無いだろう。工場の拡張が無ければ、アイテムの削減をするしか手がない。そうしなければモーリスの頒布会は受けられない!」
「私達は工場勤務になるのですかね?」
「JST商事の担当を誰かがする様になれば、営業は二人で充分だろうな?」
営業の四人の表情は曇った。
酒田専務の元に探偵社からの報告書が届いた。内容は会社の経営陣の関与は全く認められませんが、クレームを出していた人たちは全て頒布会の会員でしたとの事だった。
頒布会って、モーリスだろうか?早速、探偵社に電話をして確かめた。
「頒布会って、モーリスですか?」「そうです。その頒布会の会員というのが共通点ですね!唯、この様な方はよくクレームを出されますので、頒布会でも同じ様な事が起こっているかも知れませんね」
酒田専務は態々モーリスが、私を貶めて京極専務を社長にする為にモーリスの会員を使って仕掛けたのだろうか?それは考えられない話で、結局クレームの犯人や目的がわからないまま闇の中に消えてしまった。
二度目のアイテムの削減を行うために、翌月から営業が手分けして各得意先を順次回る事になった。
一方、不動産屋がのぞみ保育園の代替え地の候補を数カ所提示したが、島村夫妻は中々納得せず買収の話も暗礁に乗り上げていた。
工業団地に第二工場を建設するとすれば今の売り上げでは融資のめども立たない。
何としてでも頒布会開始までに保育園の敷地を工場拡張用地としなければ乗り切れない。
京極社長は妻の貴代子を通じて、会長宮代所有の土地の担保提供を頼み込んでいた。
隣の保育園を刺激せずに、秘密の間に話を進めようとしている京極社長。
保育士の満里奈は全くこの買収の話は知らない。
名新信用金庫は今回の融資には消極的で、担保提供が不可欠だと決定していた。
メインバンクの名愛銀行には第二工場新設資金で申し込んでいるが、これも不確実性が高いので消極的だった。
年が改まって、京極社長は自分が社長としての実績を伸ばしたいと焦っていた。
一月の末に息子の晃を四月から会社に入れる事を発表した。本格的に京極家が次期社長も継ぐ体制に入ったと囁かれた。
面白く無いのは酒田専務だ。次の社長には自分の息子貴吉になって貰いたいと思っている。
来年には貴吉も戻ってくるので、後継者争いは第二ラウンドに向っている。
宮代会長は貴代子に頼まれて、自分の土地を担保に差しだそうとしたが、宮代の妻佳枝がついうっかりと妹の貴美子に話してしまったので、当然反対されてその話も宙に浮いてしまった。
遺産を分割するのに担保に入れられていては困るからだ。
二月の末京極社長は、赤城係長を四月から現場へ主任として異動すると発表した。後任に自分の息子晃が営業課長として入社するのが決まったからだ。
自宅に帰って家族に笑いながら言う信紀だが、営業課長から係長、そして今度は現場の主任への降格に気持ちは暗い。
「何故?お父さんが現場に行かされるの?」
「それは、商品の削減に反対して、取引先に告げなかった事が原因かな」
「商品が無くなるのに?」
「それを伝えると、取引が無くなるので事実上の取引停止とは中々告げられなかったのが原因だよ!」
「それって、事実上はモーリスとJST商事のテーマパーク商品しか作らないって事なの?」
「近い将来はその様になるだろうな?それも工場拡張が決まらなければ生産出来ない!」
「モーリスとの取引が始まって、お父さんの会社って大きく変わってしまったわね」
「まだ定年まで十五年以上有るから、会社の方針に添ってゆっくり工場で仕事して下さい」妻の妙子が寂しそうに言う。
「そうよ!私も後一年で卒業だから、もうお金必要無いから安心して!」
「美沙、就職は決まったのか?」
「まだ正式では無いけれど内定を貰ったわ!ウィークジャーナルよ!当初から行きたかった会社」
「親会社は情報産業の色々な事業をやっているから、マスコミ関係には強いな」
「ニュースの深掘りとか、話題になる報道が多い週刊誌よ!」
四月になって京極晃が課長として入社すると同時に、赤城は工場の製造主任に格下げになった。
パート達の間でも赤城の事は噂になっていたので、変な目で見られる始末だった。
一方、京極新課長は、着任すると早々にモーリスに挨拶に向った。
庄司は早速晃に「頒布会の販売を再来年の一月から、玉露堂との共同企画で始めますので宜しく!」と切り出した。
「はい、判りました!その為の準備は着々と進んでいます」
「工場の拡張でお困りでしたら、我社が援助致しますのでいつでもおっしゃって下さい!」
「いえ、今の処は順調ですのでご安心下さい!」
初めての商談で援助の話までされたと嬉しそうに帰って報告をした晃。その話を聞いて京極社長はモーリスの援助があれば銀行に融資を断られても大丈夫だと思い始めた。
宮代の財産を宛てにする必要が無くなる。これからは会長を頼らず自分の力で会社を大きく出来るかもしれないと自信が湧いてきた。
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